スマートフォン表示をOFFにする

日本認知科学会

入会のご案内

中村 友昭さん

日本認知科学会サマースクール2012参加記

電気通信大学知能機械工学専攻日本学術振興会特別研究員(PD)
中村 友昭

今年で2度目となる認知科学会サマースクールが9月4日から9月6日にかけて,箱根の富士屋ホテルで開催された.参加者はポスドクや若手研究者が多く,様々な分野の方々が参加していた.私は統計的手法を用いたロボットによる概念獲得の研究をしており,認知科学についても勉強しなければならないと常々感じていた.そんな折に,玉川大学の岡田先生から,認知科学会サマースクールのイブニングセッションのコーディネータをやってもらえないかとお誘いを受け,勉強にもなると思い参加させていただくことにした.当初は,コーディネータとして話題を提供し,その場をまとめる,まとめ役として参加することになっていた.

そのイブニングセッションは2日目の夜に行なわれる予定になっており,昼間は立命館大学の谷口先生の若手研究者プレゼンテーションが行われた.私は谷口先生と共同研究をさせていただいており,今回谷口先生のプレゼンテーションの中でも私の研究を取り上げていただいた.谷口先生は記号創発ロボティクスを提唱している.記号創発ロボティクスは,人が扱う記号を動作学習や概念学習などと関わりながらボトムアップに組織化される現象と捉え,ロボットを通してその計算論的プロセスを研究する分野である(谷口,2010).この発表に対して会場からは,様々な熱いディスカッションが起こった.その中には私の研究に対する物もあり,様々な方々に興味を持っていただけたのを非常に嬉しく感じた.盛況のうちに,谷口先生の1時間30分という発表時間はあっという間に過ぎてしまった.発表後,不完全燃焼だった(?)谷口先生から「イブニングセッション中村さんが発表したら?」というご提案があった.当初,発表資料も用意しておらず,お断りしようと思っていたが,様々な先生方に背中を押していただき,その夜のイブニングセッションで発表させていただくこととなった.

私は急いで過去の研究資料をつなぎあわせ発表資料を作成し,なんとかイブニングセッションに間に合わせることができた.発表の内容は,ロボットが取得可能なマルチモーダルなセンサ情報を使用した物体の概念形成・語意獲得に関するものである(Nakamura,Araki,Nagai,andIwahashi,2011).イブニングセッションは夕食を食べながら議論する場なので,発表の内容としては発表30分と議論30分程度を考えていた.しかし,参加者の皆様から様々な質問やご意見をいただくことができ,実際には合計して2時間近く発表・議論をさせていただいた.その中でも,安西先生と今井先生からは,私自身の勉強不足と思慮のなさを痛感させられるご指摘をいただいた.私の発表は,背景・目的・提案手法・実験・結果・考察といった,工学系の発表ではよくあるパターンの発表であった.結果に関しても「精度が○○%であった」といった内容であった.このような内容に対して,「提案モデルには認知科学的な裏付けはあるのか」「これでは認知科学者は納得しない」というご指摘を受け,他分野の方々に分かっていただくことの難しさと,自身の勉強不足を痛感した.これから私自身も認知科学について学ぶと同時に,統計的手法についても認知科学の研究者の方々に知っていただければと思う.様々な分野の研究者が歩み寄り協力することで,未だ解明されていない様々な問題を解決できるのではないかと思う.突然発表することになったが,私にとって今まで発表した中で最も刺激的でためになった発表であった.また,このような経験以外にも,このサマースクールでは私にとって様々な貴重な経験をすることができた.その1つは,安西先生を始め,たくさんの方々のお話を聞くことができたことである.正直,研究分野が違うこともあり理解できない部分もあったが,「人を知る」ということがいかに難しいことかということを思い知らされ,同時にもっと勉強しなければと奮い立たせられた.また,このサマースクールは合宿形式をとっており,普段お話することがない分野の先生方とお話することができ,楽しくも貴重な経験をすることができた.以上のように,今回初めて参加した認知科学会サマースクールは私にとってとても刺激的で,忘れられない物となった.もし機会があれば,来年もまた参加したいと思う.

最後に,私の発表に対して様々なご意見をいただけた安西先生,今井先生を始め,ディスカッションに参加していただいた方々に心より感謝致します.また,サマースクールへ参加するきっかけを下さった岡田先生,私がイブニングセッションで発表するきっかけを作って下さった谷口先生に感謝の意を表します.

文献

谷口忠大(2010).『コミュニケーションするロボットは創れるか~記号創発システムへの構成論的アプローチ~』.NTT出版.
Nakamura,T., Araki,T., Nagai,T., & Iwahashi, N. (2011). Grounding of Word Meanings in LDA-Based Multimodal Concepts. Advanced Robotics, 25 (17), 2189–2206.