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日本認知科学会

入会のご案内

【学会賞】野島久雄賞

野島久雄氏

野島久雄氏


野島賞ロゴ

「野島久雄賞(Nojima Hisao Award)」は,元『認知科学』編集委員長であり認知科学会に多大な貢献のあった野島久雄氏のご遺族から,認知科学会の若手支援のためにご寄附の申し出があり,その提案をもとに設置されました.野島久雄氏は,個人の思い出,人とモノのインタラクションから社会における人々のネットワークまで幅広い対象を研究していましたが,「人間の日常生活の中で多くの人が見逃してしまう一見些細なことに面白さを感じる精神」(鈴木, 2012) や「ありとあらゆるものを認知科学の題材として興味を持ちそれを展開し,問題の本質を問いつないでいく研究者としての姿勢」(原田, 2012)と語られるように,身近にある興味深い現象を発見して検討を進め,そこで得られた知見の面白さをわかりやすく人々に伝える研究者でした (新垣, 2012).

「野島久雄賞」は,野島久雄氏の遺志を引き継いで認知科学を発展させるために,野島久雄氏の研究分野である人と人,人とモノ,モノを介したネットワーキングにかかわる領域で,「面白い!」と思える卓越した認知科学的研究を行った40歳以下の若手・中堅研究者を顕彰することを目的としています.野島久雄賞選考委員 会は,毎年4月から翌年3月末の期間で野島久雄賞の候補者を認知科学会会員に広く公募し,推薦された内容に基づき選考を行っています.

新垣 紀子 (2012). 野島久雄さんの足跡. 『認知科学』, 19, 142–143.
鈴木 宏昭 (2012). 野島久雄という知性. 『認知科学』, 19, 144.
原田 悦子 (2012). 野島さんという認知科学の形. 『認知科学』, 19, 145.
規程はこちらです。
http://www.jcss.gr.jp/about/rules.html

候補者推薦のお願い

日本認知科学会第13回野島久雄賞・候補者推薦のお願い
原田悦子(野島久雄賞選考委員会 委員長)


日本認知科学会では,2013年度に「野島久雄賞」を設置し,人と人,人とモノ,モノを介したネットワーキングにかかわる研究領域で,「面白い!」と思える卓越した認知科学的研究を行った若手・中堅研究者を顕彰しています.これまで受賞者の方々には,夏の大会でご自身の研究を紹介していただきました.

つきましては,みなさまに第13回野島久雄賞の候補者をご推薦いただきたいと思います.推薦は記名式で,自薦・他薦を問いません.またお一人で何名ご推薦いただいても結構です.候補者1名に付き,推薦書1通をお書きください.フォームにご記入の上,ご提出ください.野島久雄賞の選考は同選考委員会により,規程にしたがって行われます.
ご協力のほど,よろしくお願いいたします.

※ 野島久雄賞・受賞資格:
a)日本認知科学会の会員であり,2025年4月1日時点で40歳以下であること.(受賞資格については、選考委員会で学会事務局に照会いたしますので詳細が確認できない場合でも,ご推薦ください.)
b)人と人,人とモノ,モノを介したネットワーキングにかかわる研究領域で,多くの研究者・興味を持つ人に「面白い」と思わせる卓越した認知科学的研究を行っていること.

〆切:2025年3月31日
送付先: 野島久雄賞選考委員会  HNaward[at]jcss.gr.jp ([at]を@に置き換えて下さい)

※推薦について
a) 1回の推薦は2年間有効とします.
b) 候補者に直接連絡を取る可能性があります.
(年齢の確認,非会員であった場合は,会員になると候補者になる旨の通知のため)

*以下,推薦用フォームです*
**************************************
推薦書 第13回野島久雄賞

1) 候補者について

氏名(よみがな):
所属:
生年月日:西暦 年 月 日
連絡先アドレス:
参考となるWebページURL:

2) 研究テーマと推薦理由:
研究テーマ,領域名:

推薦理由:
*特記すべき点などをお書きください.詳しくお書きいただいても
手短にお書きいただいても,特記すべき点を羅列するだけでも結構ですが,
400字以上書いていただけると幸いです.

3)業績一覧と受賞の対象となる研究の成果物
候補者の業績一覧と,その中で野島久雄賞の対象となる研究に関する
論文・学会発表・著書・研究活動など,研究の成果を挙げてください
(受賞の対象となる研究成果は,1点以上,3点まで:発行年は不問です).
なお論文・学会発表は日本認知科学会の雑誌・大会に限りません.

4) 推薦者について
氏名(よみがな):
ご所属:
連絡先アドレス:
候補者との関係:
(師弟関係などがある場合は,必ずあらかじめご記入ください)


*〆切:2025年3月31日
*送付先:野島久雄賞選考委員会  HNaward[at]jcss.gr.jp ([at]を@に置き換えて下さい)


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受賞者と授賞理由 (所属は授賞時)


第12回(2024年度)

孟 憲巍(もう けんい)氏(名古屋大学大学院情報学研究科) 
研究テーマ・領域名:上下関係を理解するこころのはじまり・ 発達認知科学
授賞理由:
孟憲巍氏は,一連の研究により,「上=優位」及び「超越的=優位」という推論バイアスが赤ちゃんや子どもでもみられることを巧妙な実験を通して発見した.学際的な視点と発想を取り入れ工夫した結果,優位性関係と空間的位置の結びつきが発達初期にみられることと,特定の語彙や社会的経験に依存しないことを明らかにしている.また,超越的な能力と社会的優位性を結びつける傾向が5~6歳児に見られ,乳児でさえ超越的な能力を持つキャラクターが勝負に勝つことを期待する可能性を示した.上下関係や階層化社会を形成させる認知基盤の一端を解明しており,今後も発達認知科学の分野を牽引していくことにも期待して,ここに野島久雄賞を授与する .

第11回(2023年度)

北 雄介(きた ゆうすけ)氏(長岡造形大学 造形学部)
研究テーマ・領域名:都市様相論,空間認知
授賞理由:
北雄介氏は,個人的な原体験に即した町歩きのワクワク感を地図上に記録することを目指し,京都の街並みを舞台とした経路歩行実験を通じて多彩なデータを収集する方法論を構築した.記録されたデータの多面的な分析を通して,人が共通して把握している都市の様相を記述する理論モデルの検討を積み重ね,都市の領域には階層性や交絡性があること,経路に沿って体験する都市の様相のダイナミックな変化により人々のフレームも更新されることを明らかにした.日本認知科学会の多様なメンバーとの交流を通じて,さらなる洗練されたデータ分析に基づく探索型フィールドワーク等へ展開されることを期待し,ここに野島久雄賞を授与する.

第10回(2022年度)

飯窪真也(いいくぼ しんや)氏(一般社団法人 教育環境デザイン研究所)
研究テーマ・領域名:協調学習の授業実践研究ネットワークのデザイン,学習科学
授賞理由:
飯窪真也氏は,大学発教育支援コンソーシアム統括基盤CoREFの主軸メンバーとして活動する中で,教育現場における認知科学研究のグランドデザインの構築,現場教師と「併走する」研究者のコミュニケーションの在り方,研究者における「実践と研究の往還」の実現に真摯に向き合い,実践的認知科学研究の新たな方向性を示している.今後の認知科学研究におけるさらなるアクション・リサーチの可能性の展開に期待して,ここに野島久雄賞を授与する.

齊藤萌木(さいとうもえぎ)氏(共立女子大学全学教育推進機構/一般社団法人教育環境デザイン研究所)
研究テーマ・領域名:協調学習を通した概念変化と学習評価, 学習科学
授賞理由:
齊藤萌木氏は,大学発教育支援コンソーシアム統括基盤CoREFの主軸メンバーとして活動する中で,教育現場での教師と子ども,あるいは教師と研究者との間の相互作用を丹念に分析し,それぞれの変化とその要因に関する鋭い分析研究を行い,そこから社会実装を具現化してきた.今後のさらなる学習認知科学の展開を期待し,ここに野島久雄賞を授与する.

第9回(2021年度)

秋⾕ 直矩(あきや なおのり)氏 (⼭⼝⼤学国際総合科学部)
研究領域: 観光・ワークプレイス・メディアコミュニケーション・エスノメソドロジー
授賞理由:
秋谷氏は,エスノメソドロジー・会話分析を基盤とし,その方法論を用いて,観察に基づく質の高い記述研究を展開している.『認知科学』誌上においても,歩行訓練,ケア場面,デザインを対象とした,社会的意義の高い研究を公刊してきた.例えば,視覚障害者を対象とした歩行訓練場面の観察研究では,街に配置されたオブジェクトだけでなく,触覚や聴覚などのマルチモーダルな知覚,時間構造といったことがらもまた,人びとが歩行という行為を組み立てる際に参照していることが巧みに描かれている.秋谷氏は,人間理解を通して社会への還元を見据えている点で,野島久雄賞に相応しい研究の推進者であると評価できる.さまざまな領域との協働を通して,今後も認知科学の越境性を牽引してくれるものと期待されることから,ここに野島久雄賞を授与する.

第8回(2020年度)

本田 秀仁 氏 (追手門学院大学心理学部)
研究テーマ:コミュニケーション行動と意思決定を繋ぐ認知的基盤の解明
授賞理由:
本田氏は,意思決定研究を出発点とし,それをコミュニケーションという文脈から捉え直すことで,独自の研究を積み重ねてきた.これによって,従来人間の決定におけるバイアスとみられていた現象の背後にある,複雑,精妙な認知メカニズムを描きだすことを可能にした.また近年は,対面でのコミュニケーション分析や科学コミュニケーションにおける推論,意思決定へと研究を広げている.これによって認知科学の社会展開への新たな路線を切り拓こうとしている.今後これらの研究をさらに発展させることを期待し,野島賞を授与する.

山田 祐樹 氏(九州大学 基幹教育院 自然科学実験系部門)
研究テーマ:リアルな世界へつながる認知科学研究
授賞理由:
山田氏は,これまでに行動免疫システムとの関係から,「不気味の谷」やトライポフォビア,粘性といった,人が持つ視覚的な嫌悪感をとりあげて,多様な認知心理学的アプローチから迫ってきた.そのまたそうした研究成果を「真のものとしていくための努力」としての再現性問題への取組みでも顕著な研究活動を積み重ねてきている.最近では,新型コロナウィルス感染に関連しても,いち早くワールドワイドな共同研究ネットワークを通じて,認知研究にできることを探っている点においても,顕著な研究貢献が見られる.新しい時代におけるリアルな世界・社会につながる研究をさらに認知科学の中で展開していくことを期待して,野島賞を授与する.

第7回(2019年度)

小鷹 研理 氏(名古屋市立大学 芸術工学部)
研究テーマ: 「からだの錯覚」から新しい<からだ>のかたちを模索する
授賞理由:
小鷹氏は,認知科学における重要な概念である身体所有感に着目し,VR等の最新技術を導入した「実際に体験可能なインタラクション装置」を通してその認知的な機序を明らかにする研究活動を進めてきた.特に,「からだの錯覚」という統一的なテーマの下で,認知科学,VR,メディアアートという三つの異なる専門領域を網羅しながらも,それぞれの領域で質の高い成果を継続して発表し続けている.身体所有感のように体験している本人にしかわからないような主観的経験を研究の中で扱う場合,デモンストレーションという研究手法に頼りがちになるが,小鷹氏は,デモンストレーションのみならず,綿密に計画された知覚心理実験の実施,研究の内容を分かりやすく解説したビデオの公開など,幅広い専門性を生かした様々なアウトリーチを活用している.今後,身体所有感の認知的な機序の解明を目指した研究活動の進展と,認知科学分野へのさらなる貢献を期待して,野島久雄賞を授与する.

高橋 康介 氏(中京大学 心理学部)
研究テーマ: 人が生物として見出そうとする「意味」を求める
授賞理由:
高橋氏は,アニマシー(生物らしさ)知覚やパレイドリアに関する知覚のメカニズムを明らかにするために,錯視や錯覚などの現象を利用した独創的な実験手法を考案することにより,実験を積み重ねてきた.これらの研究の中で,人が生物としての「意味」を求め,その特異な知覚が注意など認知過程に影響をもたらす様子等,多くの示唆を与える研究成果を得てきた.とりわけ「生きていく」ことと知覚との関係の提示,さらにその展開として「過剰に意味を創り出す」ホモ・クオリタスを人の認知の基本原理とする新しい視点の提案等,今後,認知科学が呈示する人間観にさらなる深まりをもたらすことを期待して,野島久雄賞を授与する.

第6回(2018年度)

米田 英嗣 氏(青山学院大学  教育人間科学部 教育学科)
研究テーマ: 物語理解を用いた定型および非定型発達者の高次認知過程研究
授賞理由:
米田氏は,物語の理解や記憶,登場人物への共感や社会的認知(善悪判断など),主観的な時間知覚などの人-物語の相互作用におけるメカニズムに関する研究を活発に進めてきた.とくに,定型発達者および非定型発達者(自閉スペクトラム症などを持つ児童や成人)の差異や独自性を,物語材料を用いた認知心理学実験の手法とfMRIを用いた脳機能画像法を組み合わせて解明してきた.米田氏の物語理解を用いた実験手法と業績は,高次認知過程の認知科学研究として卓越したものである.今後,物語を用いた高次認知過程の先端研究とともに,物語理解を利用した非定型発達者の発達支援や高齢者の詐欺被害の防止,国語教育や道徳教育への応用にかかわる研究の一層の展開を期待して野島久雄賞を授与する.

第5回(2017年度)

鹿子木 康弘 氏(NTTコミュニケーション基礎科学研究所/日本学術振興会特別研究員)
研究テーマ: 乳児の社会的認知に関する研究
授賞理由:
鹿子木氏は,人間が他者と相互作用していく上で基盤となる社会的認知能力の起源を解明するために,乳幼児を対象とした発達認知科学的な実験研究を精力的に進めてきた.アニメーション刺激を用いた実験手法ならびにその論理の構築は,人のコミュニケーション能力に関する発達的な認知科学研究として卓越したものである.今後さらに複雑・多様なコミュニケーションにおける生来的な性質の解明を進め,発達支援や教育,人ーロボット間コミュニケーションにかかわる研究へと展開することを期待して野島久雄賞を授与する.

日髙  昇平 氏(北陸先端科学技術大学院大学)
研究テーマ: 言語獲得や意図推定に関する計算論的モデル
授賞理由:
日高氏は,幼児が言語を獲得する過程について、計算論的なモデルを構築し、行動実験データやコーパスデータを用いて実証的に検証する研究を精力的に進めてきた.言語獲得や意図推定に関する革新的な計算論的モデルに立脚した業績は,人間のコミュニケーション過程への認知科学的アプローチとして卓越したものである.今後,より広い範囲の認知科学領域の研究者と交流しながら,複雑なコミュニケーション過程のモデル化へと研究を展開することを期待して,野島久雄賞を授与する.

第4回(2016年度)

阿部 慶賀 氏(岐阜聖徳学園大学)
研究テーマ:創造性,身体性に関する研究
授賞理由:
阿部氏は,洞察問題解決や創造性の研究を行ってきている.創造性の研究は,頭の中の思考過程に着目した研究が多くなされてきたが,阿部氏は,そこに身体性という観点を導入し,外部の資源と人間の認知を身体が繋ぐことが人の思考に影響を与えていることを明らかにした.
また,阿部氏の研究は,問題設定とアプローチが斬新であるところに特徴がある.アイデアや着眼点がよければ,高度な機材や複雑な解析法がなくても優れた研究ができることを示した優れた事例であり,こうした点も野島久雄賞にふさわしいと評価された.身体性の研究はその現象の面白さのみが注目されがちであるが,今後,阿部氏がその背景にある認知メカニズムにどのように迫っていくのか,さらなる展開を期待して野島久雄賞を授与する.

猪原 敬介 氏(電気通信大学)
研究テーマ:読書が文章理解に与える影響に関する研究
授賞理由:
猪原氏は,読書習慣が人の読解力に与える影響を,様々な側面から検討してきている.読書行動は身近な活動であるが,これまで認知科学ではあまり着目されてこなかった,特に,読書という活動が人間の語彙獲得のメカニズムにどのような影響を与えているのかという点は(一般知としては語られても)科学的成果としては明らかにされてきていない.この問題に対して猪原氏は,人が「読む」対象のジャンルによって,形成される語彙傾向が変わることを,計算モデルに基づくアプローチで明らかにした.また,教育現場の教員との協力の上で,小学生の読書量の大規模調査を行い,読書と言語力との関連性を量的に明らかにするなど,多様なアプローチで読書行動に関わる認知過程の研究に切り込んでいる.教育の現場から得られた研究成果を現実社会に提供し,「社会」に貢献しようという姿勢が野島久雄賞にふさわしいと判断された.
電子教科書をはじめ,読書を取り巻く環境が変化する社会の中で,今後,社会に直接役立つどのような知見を出していくのか,さらなる展開を期待して野島久雄賞を授与する.

第3回(2015年度)

大澤 博隆氏(筑波大学 システム情報系)
研究テーマ:直接擬人化手法の開発と,それによる新しい人と人工物との関わり方への新しい問題提起    
授賞理由:
大澤氏は,人工物に直接に目や腕のロボットパーツをつけるという,直接擬人化手法を開発し,これまでにない大胆なアプローチで人工物の擬人化を実現した。従来,擬人化を推し進めるためには,いかに人に似せたロボットを作るかというアプローチが考えられてきた。しかしながら大澤氏は,プリンターや電子レンジのような人工物そのものが目や腕を持つことで直接ロボット化し,その結果,より効率的に人に情報伝達ができることを実証した。このような人工物と人との関わり方は,認知科学に新たな問題提起をするものであり,こうした独創的なアプローチは,野島久雄賞にふさわしいと考えられた。今後さらに,こうした擬人化システムと人とのインタラクションにおいて,どのような可能性が見出されるのか、またそこから人の認知的過程について,どのような知見を得ることができるのか,大いに期待されるところである。

清河 幸子氏(名古屋大学 大学院教育発達科学研究科)
研究テーマ:洞察問題やアイデア生成などにおける,他者とのインタラクションにおける多様性に着目した研究    
授賞理由:
清河氏は,メタ認知をはじめとした認知科学の中心的なテーマを積み重ねた研究を幅広く行っている。中でも洞察問題やアイデア生成などにおけるテーマにおいて,他者とのインタラクションにおける多様性に着目した研究を一貫して行っており,外界情報が人の問題解決に与える影響を,計画的な実験と緻密な分析によって明らかにしている点が野島久雄賞にふさわしいと判断された。清河氏は,好奇心旺盛でさまざまな研究者と共同で多様な分野の研究を行っている。今後,清河氏が,これまで行った研究を統一的につなぐどのようなメッセージを認知科学へ提供してくれるのか,さらなる活躍が期待される研究者である。

林 勇吾氏(立命館大学 文学部)
研究テーマ:擬人化エージェントを利用した,新しい協同問題解決の実験パラダイムの構築  
授賞理由:  
林氏は,協同問題解決における新たな実験パラダイムを構築した。すなわち,従来,複数の参加者やサクラを用いて行われてきた協同問題解決の実験において,擬人化エージェントを利用して対話をさせるという実験パラダイムを構築することにより,さまざまな研究を行ってきている。コンピュータであることを検知させずに人と対話することが可能なシステムの構築は,並々ならぬ努力によって成し遂げられたものだろう。このシステムを利用することにより,従来困難であった協同問題解決実験における対話相手に関する変数のコントロールが可能になり,対話人数の効果や人とエージェントとのインタラクションの可能性など,多様な研究を可能にした。今後,この実験システムを利用してどのような認知的メカニズムが明らかにされていくのか,さらなる活躍が期待される。

第2回(2014年度)

高橋 英之氏(大阪大学)
授賞理由:
高橋英之氏は,ロボットのコミュニケーションの研究を通して,人の自己や他者という概念がどのように構築されていくのか,そのメカニズムについての研究を進めている.高橋氏の用いる手法は幅広く,fMRIによる脳計測,心理実験による視線や行動の観察をはじめ,最近では,生理的な指標なども導入して精力的に研究を進めている.従来,主として主観的な指標で検討されていた人―ロボット間の相互作用を,多様な客観的指標を用いるアプローチをとることにより,主観的評価では得られなかった認知・行動のレベルでの人のロボットに対する反応を明らかにしていること,また現象を記述するばかりでなく,包括的な計算モデルを構築する試みも行っていること,研究対象も赤ちゃんから自閉症児まで非常に幅広いことを含め,さまざまな対象に対し,情熱を持って研究活動を行っている姿勢は,野島久雄賞にふさわしく,今後の活躍が期待される研究者である.

松原 正樹氏(筑波大学)
授賞理由:
松原正樹氏は,オーケストラのスコアリーディングの学びを支援するシステムを構築し,それを実際に長期間にわたって利用する過程を分析する実験を通じて,メタ認知研究を進めている.オーケストラのスコアは,複雑であり,また多義性や曖昧性をもつものであるが,楽譜に色を重畳することにより,それを読む人が主体的に意味を考え,学習を促進させる過程を明らかにした.音楽という複雑な研究対象は,対象を単純化して研究を進めがちであるが,本研究では複雑なままに対象を捉え,長期間にわたってその効果を検証することで粘り強く研究を進めている点において,野島久雄賞にふさわしいと判断された,これまで,音楽,なかでもオーケストラ演奏を対象とした研究が進められているが,学習者の思考や解釈を外化することで学びを促進させる仕掛け作りは他の分野への応用の可能性が大きくあり,今後の活躍が期待される研究者である.

第1回(2013年度)

岡部 大介氏(東京都市大学)
授賞理由:
岡部氏は,プリクラを用いてコミュニケーションをする女子高生,モバイル機器を纏うことで街の中に自分の居場所を作る人々のような身近なコミュニティや空間を対象として研究を進めてきた.現代社会における人々の生態を,フィールドワークやインタビューを重ねて収集した重厚なデータによって見事に記述している.

認知科学に掲載された論文では,男性同士の恋愛を扱う漫画を好んで読む腐女子(婦女子の自嘲的なパロディ)を対象とした.腐女子は,社会的に普通の女性よりも下位であると自認することから,腐女子であることを不可視化するが腐女子コミュニティでは,その不可視化実践をネタとして可視化することにより,アイデンティティを構築していた.この論文は,インターネット上に公開されている『認知科学』の中で最も多くダウンロードされたものであり,会員外に広く読まれたと考えられる.
認知科学の枠を超えて興味を持たれるテーマに着目し,その成果を普及させた岡部氏が,次に何に着目してどのような人々の実像を読み解くのか,またこれらの成果からどのような「より普遍的な,人の認知的過程に関する知見」に新たな示唆をもたらすのか,期待させられる研究者である.

小松 孝徳氏(明治大学)
授賞理由:
小松氏は,ヒューマンエージェントインタラクションの分野において、Artificial Subtle Expressions (ASEs)という概念を定義し,その意味を考察することで,人とエージェントのコミュニケーションを円滑にするための研究を活動的に行ってきた.ビープ音やLEDの明滅といった単純な表現により,エージェントの内部状態(確信度の低さなど)を,ユーザに直感的かつ正確に伝達できること,エージェントが人間のように振る舞うよりも,ASEsを用いたシンプルな仕掛けのほうが,ユーザに不快感を感じさせにくいことなどを示した.また近年はオノマトペを用いてロボットとコミュニケーションできるような直感的なインタフェースの実現を検討し,多様な分野の研究者と協働してオノマトペの研究を広く展開していこうとしている.
このように,小松氏の研究は,プロソディをはじめとするコミュニケーションにおける多様な情報が,人間の社会的行動に与える影響を明らかにすることを通して,人間とエージェントの豊かなインタラクションの可能性を探求している.一つの仮説的なモデル・概念を提言しつつ,多くの確かな心理学的実験によりそれを裏付けていくという小松氏のアプローチは,認知科学研究を目指す若手の研究者にとって一つの模範になるものと考えられる.今後のさらなる活躍が期待される.