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日本認知科学会

入会のご案内

「認知科学」特集(第32巻第3号・2025年9月号)論文募集のお知らせ

特集タイトル「不定性と逆境のなかの希望」
掲載予定巻号:2025年9月号(Vol.32, No.3)
担当編集者:布山美慕(立命館大学)・山田真希子(量子科学技術研究開発機構)



企画趣旨:


 現代は将来の予測が難しいVUCA(Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性))の時代と呼ばれている。この言葉の背景には、予測が難しく不確実で思い通りにならない状況は「良くない」、という価値判断が隠れているように感じる。こういった将来予測が難しいとされる時代において、私たちはますます不確実性や曖昧性を減らそうとし、予測の最適化を目指している。たとえば、わからないことはすぐにウェブで検索し不確実性や曖昧性を減らそうとする。予測モデルを作り、世界や他者の動向を予測し、同時に観測結果からそのモデルをより高精度にする。認知モデリングにおいても、その主流は予測誤差最小化を基盤としたモデルであり、大きな成功をおさめている。
 一方で、詩人のキーツは「人が、事実や理性などをいらだたしく追求しないで、不確定、神秘、疑惑の状態にとどまっていられる(p.65)」(Keats, 1817/1891 佐藤訳 1952)能力をネガティブケイパビリティと呼び、創造性の基盤と考えた。また、アインシュタインは「チャンスは苦境の最中にある」とし、これは思い通りにならない“逆境”にこそチャンスを見る視点であろう。これらの発言は余裕がある状況でのみされたのではなく、まさに第一次世界大戦中に、ヴァージニア・ウルフは「未来は暗闇に包まれている。概して、未来は暗闇であることが一番いいのではないかと考える」(Woolf,1981)と述べ、成功が約束された未来ではなく、むしろ様々な可能性への開かれこそが、希望であると示唆している。この示唆を受け、より最近にはソルニットが『暗闇のなかの希望』を出版し、近年の様々な社会変化が暗闇のなかから生まれてきたと議論している。
 こういった背景を踏まえ、不定性(不確実性や曖昧性)や逆境を避けようとする価値観と対比的に、本特集では不定性と逆境の認知における可能性を探求したい。適切な程度の曖昧性が美的体験と結びつくことや、特定の意味理解の不定性が創発的な意味解釈を生みうること(Bruza et al., 2015; Fuyama, 2023)、また、適度な挑戦的状況でフロー体験(夢中になり苦を感じない精神状態)が生まれること(Csikszentmihalyi, 1997)やパフォーマンスが向上すること(REF)が実証的な認知研究によって示唆されている。これらは不定性や思い通りでない状況こそが、芸術や問題解決における創造性と結びつき、それらを促進しうることを示唆する。こういった不定性や逆境状況ならではの認知の可能性について、理論、実験、モデリングなど多方面の研究を募り、議論したい。
 VUCAの時代であるならば、不定性や逆境における認知的可能性を探求することは、我々の可能性をいっそう広げることに繋がるであろう。多様な論文の投稿を期待する。

特集で扱う論文テーマの例(以下は参考のための一例であり本特集のテーマに関連すれば投稿論文のテーマは以下に限定されない):

  • 不確実性や曖昧性、多義性、ネガティブケイパビリティに関連する認知

  • 困難な状況における問題解決・創造性

  • 予測誤差最小化以外の枠組みを骨子とする新規な確率的認知モデル

  • ポジティブイリュージョンなど、ある種の“希望”につながりうる認知やその応用例

  • レジリエンスなど逆境を乗り越えることに関わる認知に関連するテーマ

  • 不定性や逆境と創造性や美的感覚など芸術に関わる認知との関係



文献情報:


Bruza, P. D., Kitto, K., Ramm, B. J., & Sitbon, L. (2015). A probabilistic framework for analysing the compositionality of conceptual combinations. Journal of Mathematical Psychology, 67, 26-38.
Csikszentmihalyi, M. (1997). Finding flow: The psychology of engagement with everyday life. Basic Books.
Busemeyer, J. R., & Bruza, P. D. (2012). Quantum models of cognition and decision. Cambridge University Press.
Fuyama, M. (2023). Does the coexistence of literal and figurative meanings in metaphor comprehension yield novel meaning? Empirical testing based on quantum cognition. Frontiers in Psychology, 14, 1146262. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2023.1146262
Woolf, V. (1981). Diary of Virginia Woolf: Volume 1. Har court. (ウルフ, V. 神谷 美恵子(訳) (2019). ある作家の日記 みすず書房)

応募方法:


投稿資格:


 認知科学の研究者であれば、誰でも投稿できる(査読・掲載に関わる費用等について、詳しくは『認知科学』の投稿規程を参照する)。
 本特集では、プロポーザル方式で原稿を募集する。執筆を希望する場合は、プロポーザル投稿をすませた上、期日までに論文原稿を送付する必要がある。プロポーザル投稿は、2024年8月9日(金)までに、論文タイトル、論文種別(研究論文、展望論文、短報論文、あるいは資料論文)、著者氏名・所属・連絡先(住所、電話番号、e-mailアドレス)、1000字程度のアブストラクト、キーワード(5個程度)を電子メールにて提出する。投稿する論文は、「認知科学」の投稿規程執筆要領にしたがうものとする。

プロポーザル提出先:


プロポーザル投稿は以下のアドレスに提出するものとする。
 hopeinad[at]jcss.gr.jp
 [at]を@に置き換えること
 なお、提出後、一週間以内に、受領確認のメールを著者に送付する。論文投稿は電子投稿システムで行う。投稿方法の詳細はプロポーザル採択者にメールで通知する。

スケジュール:


 おおむね下記のスケジュールを予定している。諸事情により変更の可能性がある。

  • 2024年5月中旬:CFP

  • 2024年8月9日: プロポーザル投稿締切

  • 2024年8月末: プロポーザル採択通知(執筆依頼)

  • 2024年11月20日: 論文投稿締切

  • 2025年1月中旬: 第1回査読結果返送

  • 2025年4月上旬: 第2回査読結果返送

  • 2025年5月15日: 最終稿提出締切(これより遅れた原稿は、次号以降の一般号掲載となる。)

  • 2025年9月1日:第32巻第3号掲載