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日本認知科学会

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サマースクール


サマースクールを通して若手研究者に伝えたいこと

「自分の専門分野が認知科学だと言える人はこの中にいますか?」 2011 年の夏に初めて開催された認知科学会サマースクールのオープニングは安西祐一郎先生のこの問い掛けから始まりました.

私自身は認知科学という分野の学際性と人間を理解する為の科学という壮大な目標に惹かれ,多少,気恥ずかしい気持ちもありながら,認知科学者を自称してきました.しかし,一方で特に若い世代の方々で専門が認知科学だと自信を持って言える研究者は少なくなっているのではないでしょうか.だとすれば,認知科学会としても何らかの対策が必要なのでは.そんな問題意識から若手研究者を対象にしたサマースクールの構想が持ち上がりました. 2011年の夏に始まったサマースクールですが,筆者はその立ちあげからお手伝いをさせていただいています.

サマースクールは当初から認知科学に興味を持つ若手研究者を対象にすることで意見が一致していました.次世代の認知科学会を担う若手研究者に認知科学の本来の姿を広く深く学んでもらい,研究のヒントを一つでも多く持って帰ってもらいたいと思ったからです.また,帰りの時間を気にせず議論に没頭できるように合宿形式で行う,スクールと銘打っているのだから,単なる有名講師の講演会では無く,各自が今後の研究のヒントになる何かを持って帰れるような企画にする,ということも大事に守っていることです. ゲストとしてお願いした講師の方々に,研究成果の発表会では無いので自分の研究の話は程々にとお願いしすると,皆さん怪訝な顔をされます.しかし,第一線の研究者として様々分野で実際に成果を挙げている講師の方々が「知識の表象」や「知覚と記憶」,「学習と発達」といった認知科学における未解決問題を参加者と一緒に議論することが若手参加者の知的好奇心を刺激するのだと思います.

サマースクールでは皆が主体的に関わるということで,若手研究者に企画による夜のセッションも設けられています.夕食後に少し(?)お酒が入り頭の回転も舌も滑らかになったところで,様々なテーマで議論を行います.当然のように夜のセッションは深夜のセッションに繋がり,朝まで夜通しで盛り上がることも度々のようです.サマースクールの様子は参加者の報告が認知科学会誌(Vol.18 No.4, Vol.19 No.4) に投稿されているので御覧ください.いずれの報告も若手研究者の視点からサマースクールの面白さを的確に伝えており,参加記を読む限り我々の企画意図が間違っていなかったと自負しています.

昨今の競争的資金に見られる,短期的に成果を求める成果主義の風潮や伝統的な学問領域に基づく縦割りの研究組織,さらには最先端との名のもとに非常に細分化された研究テーマなどが若手研究者の自由な発想を阻害しているのではないでしょうか. 筆者はこのような時代だからこそ認知科学会の果たす役割が重要だと感じています.
日本認知科学会の設立趣旨に言うまでもなく,認知科学は「知」の総合的な科学を構築するための学際的な研究分野であり,心理学,人工知能,言語学,脳神経科学,哲学,社会学などさまざまな背景を持つ研究者が人間の知能を解明しようとする学際的・領域横断的な性質を持っています.心の問題,脳の役割,社会の謎が複雑に絡み合った「人間の知能の解明」という壮大な目標は短期間で結論の出る研究とは成り得ません.だからこそ,そのような,認知科学の面白さ,奥深さを一人でも多くの若手研究者の皆さんに伝えたい,それがサマースクールの最大の目的なのです.

最後になりましたが,企画の段階から様々なアイディアをいただき,第一回の2011 年サマースクールでは3 日間に渡り貴重なレクチャーを頂いた安西祐一郎先生には心より感謝申し上げます.安西先生のご協力無しにはサマースクールの実現はありませんでした.また,実施にあたり横澤会長を始めとする執行部の皆さまには若手参加者に対する参加費の補助をお認めいただきました.参加費の一部補助の結果,図書館で学会誌の告知を見た学部学生が参加するという嬉しい出来事もありました.予算の厳しい折,協賛を頂いた研究機関には心より感謝致します.講師をお願いしておきながら自腹で参加していただいた方々には認知科学会の会員一同から心よりのお礼を申し上げます. 認知科学会サマースクールはまだ始まったばかりです.2回,3 回,4 回と回を重ねてこそ,サマースクールの意義が発揮されることと思います.会員の皆様の一層のご協力をお願い致します.

玉川大学・岡田浩之(認知科学19巻4号)

サマースクールへの期待


世界的に見て優れた研究の多くが、多様な背景(研究方法、研究分野、文化、国籍、その他)を持つ研究者同士が対話を重ね、刺激しあう場から生まれるようになってきたように思います。行動実験、脳機能研究、ビッグデータ処理などの方法に通じた研究者の共同研究が増えていることはご存じの通り、被引用回数の多い論文が国際共同研究から生まれる割合も急速に高くなっています(文科省科学技術政策研究所調査)。

最近では、複数の研究方法をマスターした一人の研究者が、世界に先駆けた成果を次々と挙げることも目につくようになりました。しかし、とくに日本の国内では、いまだに若手研究者や院生の多くが、何年も同じような人たちと過ごし、限られた所属分野、お仕着せの研究方法、自分の周囲の先生や学会の狭い研究人脈といった、「多様性のない研究の場」に生きているように見えます。世界の研究環境の変化と無縁のガラパゴス的生活をしていれば、ストレスもそれほど感じなくて済み、表面的には有意義な研究をしている気になれるのかもしれません。しかし、研究の方法や考え方の似た者同士からは、世界の第一線から見ると重箱の隅をつついた結果しか出てこない、世界はすでにそういう時代に入っているのです。

認知科学に関心を持つ若い研究者や院生には、内輪に籠った分野ごとの研究文化や各分野の伝統的な研究法に囚われず、新しい研究方法を開拓していってほしい。そして、多様な研究者と刺激しあって、ワクワクするような学術の世界を創り出してほしい。とくに、世界の第一線に飛び込んで力いっぱい頑張ってほしい。それが私の願いです。

サマースクールの創設に尽力された横澤一彦元会長は、自らの研究として視覚の「科学」を標榜しておられます。また、鈴木宏昭元会長は、本学会が「対話」の場であってほしいと言っておられます。サマースクールが、世界の学術動向にも沿った、多様性に基づく開かれた研究へのステップになること、「科学」の方法論を開拓しつつ「対話」を通して新しい学術の世界を創り上げていくエネルギー源になることを、心から期待しています。

独立行政法人日本学術振興会
安西祐一郎