日本認知科学会第13回大会プログラム

セッションワークショップ
題目ゲーム・プレイヤのエクスパティーズ
時間6月20日(木) 17:30 -- 19:30
会場大会議室

題目
ゲーム・プレイヤのエクスパティーズ
オーガナイザー
斉藤康己 (NTT基礎研究所)yaski@ntt-20.brl.ntt.jp
松原 仁 (電子技術総合研究所)matsubara@etl.go.jp

はじめに
チェス、将棋、囲碁などのゲームは初心者、アマチュア、プロの間に厳然としたスキルの差が存在し囲碁ではプロの初段よりもアマチュアのトップクラスの方が強いとも言われる。高度なスキルレベルに到達するためには長年の修練を必要とする。これらのゲームがハノイの塔などと違って知識集約的と言われる所以である。人工知能の分野では、これらのゲームを実際にプレイする強いプログラムを作ろうという動機からさまざまな工夫が凝らされてきた。その結果、チェス・プログラムは世界チャンピオンの域に達し、将棋も徐々に強くなりつつあるが、囲碁はまだまだというのが現状である。
チェスに関しては初期に認知科学的な研究がいくつかなされたが、[1][2][3]最近はあまり見られない。将棋、囲碁に関しては、ほとんど認知科学的な研究がないというのがこれまでの状況であった。ところが最近、人工知能の分野に刺激されて将棋や囲碁などの認知科学的な研究への関心が高まりつつある[4][5]。
そこで、このような現状を踏まえ、数少ないゲームの認知科学研究者を一同に集めて、現在の研究状況を紹介し、方法論を吟味し、将来の研究を展望するためのワークショップを企画することにした。

本ワークショップでは:
知識集約的な課題を人間がどのようにして効率よく行なっているか?
大量の知識がどのようにして学習され、どのようにして構造化されているか?
エキスパートの知識は知覚レベルの知識と言語レベルの知識に大きく分けられると思われるが、それらはどのように関連しているのか?
これらのゲームでは最善手を常に打つのが理想であるが、一般には相手に応じて打ち方を変えることも多い。そのような場合には相手モデルが重要な役割を果たす。この相手モデルはどのようにして形成され、ゲームの最中にどのようにして更新されて行くのか?
など、ゲームにおける認知活動に関して幅広い議論を行い、人工知能研究者なども招いて、人間の知と機械の知の差を浮き彫りにするようなワークショップとしたい。
プログラム
与えられた時間は全体で2時間なので、4人のスピーカーに20分ぐらいづつ話してもらい、残りの40分ぐらいをパネルと質疑応答にあてる予定である。
スピーカーによる講演

プロ棋士の話
将棋プロ八段の島朗(しま あきら)氏に、「プロ棋士の思考法」と題して、ご自身がプレイする時に何をどう考えているか、プロになるためにどのような学習を行なったかなどを直接話して頂く。
島八段は、「角換わり腰掛け銀研究」(毎日コミュニケーションズ刊)という専門書の他に「将棋界が分かる本」(たちばな出版)というような一般向けの啓蒙書も著わしている現役の若手棋士の一人である。また、羽生や佐藤康や森内という若手棋士の将棋研究の場となった「島研究会」の主宰者としても有名である。

将棋に関する研究の話
将棋プロ5段の棋士としての経験を生かしてゲーム研究の分野に新風を吹き込んでいる静岡大学の飯田弘之氏には「プロ棋士の思考分析と人工知能:独創性をもったコンピュータ・プレイヤを目指して」と題して、主に工学的な立場からプロの独創性に迫る研究の話をして頂く。

囲碁に関する認知科学的研究の話
囲碁に関して日本において認知的な研究を進めている数少ない研究者の一人であるNTT基礎研究所の吉川厚氏に「囲碁に関する認知科学的研究」と題して、囲碁に関する認知的な研究のサーベイとご自身の研究の紹介をして頂く。

チェスに関する話
今年の2月にチェスの世界チャンピオンKasparovと計算機(Deep Blue)の公式対戦が行なわれた。Deep Blueが初戦で勝ち、計算機が世界チャンピオンを打ち負かす世紀の対戦になるかと思われたが、最終的には3勝1敗2引き分けでKasparovが勝ちをおさめた。ゲーム一般や最近では将棋の研究に造詣の深い東京農工大学の小谷善行氏に「コンピュータチェスの強さの予測について」と題して、なぜ人間は計算機より強いのかを分析してもらう。
パネル討論及び会場との質疑応答
その後、上記のスピーカ4名に以下の4名のパネリストを追加して、パネル討論「エクスパティーズとは何か?」を行なう。司会は斉藤(NTT基礎研究所)が担当する予定。
[竹内郁雄] NTTソフトウェア研究所 (ゲーム・プログラム作り一般の観点から)
[実近憲昭] 電子技術総合研究所 (囲碁プログラム作りの観点から)
[岡本浩一] 東洋英和女学院大学 (社会認知心理学者の観点から)
[松原 仁] 電子技術総合研究所 (将棋のプログラム作りの観点から)

パネル討論では、各スピーカーの話を出発点にして、
エクスパティーズとは何か?
エクスパティーズはどのようにして獲得(学習)されるか?
エキスパートの創造性はどのようにして発揮されるか?
などの話題に関して、議論を深めたいと考えている。
おわりに
以下には、各スピーカーにお願いした話の要旨と、各パネリストの自己紹介を兼ねたポジション・ペーパーを掲載する。当日の議論の出発点になれば幸いである。
何よりも、これらのゲームを題材にして研究を進めようとしている人、ゲームに興味を持つ人、あるいは持たない人も含めて多くの参加者が集まり、単にゲームのプログラムを強くするというだけでなく、そこに含まれる人間の認知活動一般に関して実りのある議論ができることを願っている。

参考文献
1.de Groot, A. D.: Thought and Choice in Chess, The Hague: Mouton (1965).
2.Newell, A. and Simon, H. A. : Human Problem Solving, Prentice-Hall Inc. (1972).
3.Chase, W. G. & Simon, H. A. : ``Perception in Chess'', Cognitive Psychology, Vol.4, pp.55-81, (1973).
4.松原仁:将棋とコンピュータ, 共立出版 (1994).
5.斉藤康己: コンピュータ囲碁研究、人工知能学会誌、Vol.10, No.6, pp.860-869, (1995).

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