ゲーム・プレイヤのエクスパティーズ
プロ棋士の思考法について
島 朗(日本将棋連盟プロ棋士8段)

[本稿は、島朗氏へのインタビュー結果を、松原仁氏が文章にまとめ、島朗氏の校閲をへて最終稿としたものである。(斉藤注)]
ここでは将棋のプロ棋士としての立場から、プロ棋士が対局中どのように考えているかについていくつか思いつくことを述べてみたい。
もちろん実際に脳の中でどのようなプロセスで思考しているかは自分でもわからないので、自分で意識している部分だけに話は限定されている。
想定される質問に対する回答というスタイルを取ることにしよう。

問:ある局面で候補手として思い浮かべるのはふつう何通りぐらいか?
答:少ないときは1通りでその手を深く読み進める。多いときでも高々3、4通りである。長考をしたときは、最初には思いつかなかった手をあとから思いついて指すことがある。残り時間に依存するので、持ち時間をどのように配分するかにはかなり気を使う。
問:手を「読み」ではなく「形」で判断して決めることはあるか?
答:局面を見た瞬間に直観的に思いつく候補手は「形」による判断である。その判断の正しさがプロ棋士としての最大の財産である。しかし「形」だけに頼って楽をしているとろくなことはない。一手一手を「読み」によって確認する地道な作業が重要である。
問:先読みをするときに、一手一手ではなくいっぺんに何手か先の局面まで読むことはあるか?
答:よく知っている戦型ではそういうことはある。しかし、裏付けを得るために必ず一手一手読んで確認する。過去の棋譜と結果的に一致する場合もあるが、読まずに真似をしているわけではなく、真剣に読み直して結果的になぞっているのである。
問:敵のミスを期待した指し方を意識的にすることはあるか?
答:敵の残り時間は考慮にいれるが、だからといって敵のミスを期待した「はったり」のような手を指すことはほとんどない。そのときは偶然成功したとしても、トータルで見なすとそのような「楽をした指し方」は勝率が落ちるはずである。状況に関わらず「最善手」を指すように心がけている。そうすれば「容易に負けない(勝てるとはニュアンスが異なる)」という自信めいたものがある。
問:手を読んでいる最中に、頭の中で言語化して考えていると意識することがあるか?
答:ときどきある。読みがゆっくりになったときは明らかに言語化している。また、「絶対詰まない」のような概念を言語化することで、読みを効率化することもある。
問:修行時代に比べてどの部分が強くなったと感じているか?
答:読みの速さでは修行時代の方がまさっていたと感じるが、大局感の適切さ、将棋に対する認識の深さ、思い通りにいかない局面でも容易にあきらめない精神的な強さ、許容できる戦い方の幅の広さ、などの点で現在の方がまさっていると感じる。これらを学習するのに最も貢献しているのは公式戦の実戦そのものである。

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