研究分野
推論・問題解決
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O1-2本研究では、医師による患者の余命推定課題を通じて、AIおよび集合知の活用によって人間の推定精度がいかに向上するかを検証した。認知実験の結果、AIの推定を参照することで医師の推定精度が向上する一方、その効果には個人差があった。さらに、計算機シミュレーションによって集合知の効果を検討した結果、AIの推定を参照した後の医師の判断を集約することで、AI単独を超える精度が得られる可能性が示された。
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P1-11アンカリング効果は,最初に提示された数値(アンカー)が後の推定に影響を与える現象である。Mussweiler & Strack (2000) は,低気温のアンカーが冬に関連する語への反応を速めることを示し,アンカリング効果が意味プライミングに類似したプロセスであることを支持した。本研究は複数の追試とメタ分析によりこの理論を検討したが,アンカーが関連語の反応を速める効果は一貫して認められず,理論の一般性に疑問が残った。
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P1-40人口のq(%)を占めるマイノリティがn人の集団に1人でも含まれる確率Pは大幅に過小視されることが報告されている.教員や管理職がこのような過小視をする場合,教育環境・職場環境の改善を妨げる可能性がある.そこで本研究は,qやnの情報提示方法を工夫することで,nが増えるとPも増える関係に気づきやすくしPの過小視を緩和できるか検討した.しかし,本研究の手法ではPの過小視傾向は変化しなかった.Pの理解には独特の困難が存在することが示唆される.
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P1-48本研究では,陰謀論信念と合理的思考に関わる認知要因との関連を調査したStanovich & Toplak(2024)の結果を追試した.クラウドソーシングサイトにて募集した290名が陰謀論信念,超常的思考,開放的思考,確率的推論の尺度に加えてSNSの利用時間や陰謀論についての知識について回答した.重回帰分析の結果,陰謀論的信念と超常的思考との間に正の関連が,開放的思考との間に負の関連が見られたが,確率的推論との関連は見られなかった.
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P1-51本研究は,複数の原因候補が存在する状況で,人がどのように主要な原因を判断するのかを説明する反実仮想的因果モデルの妥当性を検討する.日本語話者を対象とした追試実験の結果,必ずしも生起確率が極端な要因だけでなく,反実仮想シミュレーション内で結果との相関が強い要因が重視されることを確認した.熟慮性の個人差が判断の明瞭さに影響することも示唆された.また, 結果事象の感情価によって,因果モデルの適切なパラメータ設計が必要になることが示唆された.
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P1-67本研究では,高齢化社会における冷凍食品パッケージの調理法表示のユーザビリティを検討した.実験1では高齢者と大学生を対象に認知的ユーザビリティテストを実施し,マニュアルの理解困難点や調理エラーの発生を確認した.これに基づき表示デザインを改善し,実験2で再評価したところ,エラーの減少など一定の効果が認められた.また,既存ユーザーと新規ユーザーの反応差も明らかになり,特に高齢者既存ユーザーには変更点を肯定的に伝える必要性が示唆された.
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P2-8本研究では,予期しない現象の原因同定に言語化が与える影響について,実験的な検証を行った.予期しない現象を実験参加者に経験させる実験課題として,カードマジックが用いられた.実験では,統制群と言語化を求められた言語化群が,カードマジックの動画を見ながら,一連のカード操作を理解することが求められた.実験の結果,予期しない現象の原因同定において,問題解決中の言語化は,促進的な役割を果たすことが明らかとなった.
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P2-15人は他者からの情報や統計的データに基づいて信念を更新することがあるが,その際自分にとって望ましい情報は取り入れ,望ましくない情報は無視する傾向がある.この信念更新の偏りは「楽観主義バイアス」と呼ばれる.本研究では,楽観主義バイアスの発生を検証するとともに,相互協調的・相互独立的な自己観がこのバイアスに与える影響について検討した.実験の結果,楽観主義バイアスの存在は確認されたが自己観の傾向はその発生に有意な影響を及ぼさないことが示された.
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P2-17本研究では,観察から因果関係の強さを推定する認知課題において,情報の提示形式(オンライン/サマリー)と否定の対称性(非対称/対称)が推論の形式に与える影響を検証した.実験参加者の平均回答値をクラスタリングし,それぞれ因果の方向性を考慮するモデル CS と考慮しないモデル UCS との適合を分析した結果,情報の提示形式や否定の対称性を操作することで因果の方向性を考慮した推論が促進されることが示唆された.
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P2-18拡散的思考(DT)の自動スコアリング手法として注目される意味的距離を用い、日本版拡散連想課題(DAT-J)を開発し、その妥当性を検証した。日本語コーパス由来の単語ベクトルでスコアを算出し、3回の調査により信頼性・妥当性を確認した。回答検証機能付きWebアプリも開発し、回答形式の違いがスコアに影響しないことを示した。さらに、大規模言語モデルの埋め込み層を用いたスコアリングも試みたが、精度の大幅な向上には至らなかった。
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P2-41多様な思考は,柔軟な発想だけでなく,人工的な構造物の組み替えによる心的操作にも支えられている可能性がある.本研究では,3語句の修飾関係を組み替えることで異なる意味を生成する階層操作課題と,他者の心的内容に関する推測を生成する推測課題を用いて両者の関係を検討した.結果,階層操作課題を先に行った場合にのみ,推測の多様性との相関が確認された.これは,構造的な認知的操作が後続の多様な意味の生成を促す可能性が示唆された.
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P2-58本研究では、認知欲求と物語の複雑さがネタバレ効果に与える影響について検討した。ネタバレを含むあらすじ、含まないあらすじのどちらかを読み、その後、小説を読み評価を行ってもらった。その結果、認知欲求の高い参加者はネタバレによって負担感を感じ、対照的に、認知欲求の低い参加者は、読書の負担感が軽減された。これらの結果から、認知欲求がネタバレ効果に及ぼす影響は、作品を読もうとする動機づけに関連していることが示唆された。
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P2-64本研究では、マインドワンダリング(MW)が、収束的思考課題の代表例である遠隔連想課題(RAT)にどのような影響を与えるかを検討した。実験参加者を、認知的負荷の高い課題を行う群(MW抑制群)と、目を閉じて休息する群(MW促進群)の2群に分け、それぞれの課題の前後でRATを実施し、スコアを比較した。 実験の結果、休息によってMWは促進されたものの、RATスコアに群間差はみられず、MWがRATの成績向上に寄与することは確認されなかった。
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P2-70コミュニケーションにおいて,発話の背後にある意図の理解は円滑な対話や誤解の回避に不可欠である.本研究では,聞き手が推意の解釈の生成・選択を検討するための実験を行った.そして,代表的な語用論的推論の理論のどれと整合的かをインタビューで検討した.また,演繹・帰納・アブダクションのどの推論形式を用いるのかを分析した結果,3つすべての推論形式が用いられていることを示した.
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P3-16存在感の工学的な実装は様々な手法によって取り組まれる.人は明確に姿かたちを視認せずとも,音などの限定的な感覚刺激から,自らが位置する環境と地続きの空間領域の一部を占めるものとして自分以外の主体の存在を想定する.そのような主体の存在可能性の投射を促進する外部環境の要素の1つとして,空間的な不可視性が挙げられる.本研究では,数値シミュレーションを通じて,探索行動する視点に対して継続的に不可視性を生じる空間構成の幾何学的な特徴量を抽出する.
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P3-27本研究では,外部刺激の呈示による創造性の変化を捉えるため,連想語の意味的距離を用いて創造性を測定するforword flow (FF)を使用し,連想の起点となる単語(シード語)の呈示順がFFスコアの変化に与える影響を検討した.また,外部刺激として意味的距離の異なる単語対を呈示した.その結果,単語対の呈示がFFスコアに与える変化はシード語の呈示順によって異なることが示された.
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P3-35本研究は、芸術鑑賞における探索・想像・触発の過程に着目し、上野公園を舞台にアート作品複数を探索的に鑑賞するWSを行った。そして、参加者の認知・行動・情動の変化や他者との共有をGPS・対話・自己報告等により検討した。結果、探索的な活動を通じて没頭感や自律感が高まること、グループ内外で覚醒度や快感情等の情動が同期する傾向が見られること、が示された。今後は認知・行為面も含めた協調解析を進める予定である。