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日本認知科学会

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日本認知科学会について

会長就任のご挨拶:越境できる場としての学会であるために


嶋田 総太郎

このたび,2025–26年の2年間,本学会の会長を仰せつかりました.微力ではありますが,学会の発展のために尽力をしたいと思いますので,どうぞよろしくお願いいたします.

思い起こせば,私が初めて認知科学会に参加したのは2001年の函館大会でした.本会の元会長である安西祐一郎先生のもとで人工知能(AI)の研究で博士号を取得した後,認知脳科学へと専門分野を移行しつつあるときに,ポスドクとして採用していただいた東京大学の開一夫先生の勧めで参加しました.それまで参加していた工学系の学会では,競争心むき出しの雰囲気をひしひしと感じていたものですが,認知科学会では似たような研究をしている研究者たちがむしろ楽しそうに議論をしている様子に衝撃を受けたのを覚えています.そのときに先生方から聞いた「認知科学会は良い学会だ」という言葉を信じ,その後の私は認知科学会をホームグラウンドとして,多くの素晴らしい出来事と出会いを経験させて頂いてきました.この場を借りて皆様に御礼を申し上げるとともに,少しでも学会に恩返しができればという気持ちでおります.

さて認知科学会の良いところは何かといえば,まさに学際的な場を提供している点にあると思います.初めて大会等に参加された方から「認知科学会って何でもありなんですね」という興奮に満ちた言葉をよく聞きます.もちろん研究としてのある程度の質を担保した上であることは言うまでもありませんが,様々なトピックについて多様なアプローチで迫る斬新な研究を,安心して発表できる場であるというのは認知科学会の大きな強みではないかと思います.そこでは,「ああ,こういうアプローチもあるのか」という気づきを私自身も多く得てきましたし,そこから共同研究に発展したことも少なからずあります.学会というのは知的好奇心に満ちたそういう出会いに開かれた場であるべきだと考えています.

私自身,AIのバックグラウンドを持ちながら認知脳科学の研究を進めてきましたが,複数の分野を知っていることは大きなアドバンテージになったと思います.研究を進める中で,心理学やロボット工学,哲学,精神医学,教育,リハビリテーション医療の分野にも入り込んでいきましたし,最近では質的研究の方法も取り入れています.これは意識的に幅を広げたというよりも,いろいろな研究者と出会い,議論や共同研究をしながら,気がついたら自然と広がっていたという感覚のほうが近いと思います.研究を始めてある程度の段階で,脳科学をやるのであれば哲学も学んだ方が良いという信念を持つに至りましたし,最近では,実証的研究を主に行っている私のような研究者も質的研究の方法論から学ぶことは多いと考えるようになりました.実証的研究は,問題についてのある程度の概念化とそれに対する仮説があることが前提となります.しかし,本当に面白い問題では,何をどう概念として取り出したらよいのかよくわからないことが多くあります.そういうときに,心の中で(脳の中で)何が起こっているのか,客観的なデータ取得も大事ですが,主観的なデータ(インタビューやアンケート,内省など)の深掘りから現れてくるものも多くあると思います.幸い,認知科学会には実証的研究,質的研究,工学系,理論系の研究者がたくさんいますので,そういう皆さんと学会という場で議論をしたいと思いますし,学会としてそのような越境を促進する場としての仕掛けを用意できたら面白いと考えています.

認知科学会には,大会,冬のシンポジウム,研究分科会と研究発表・聴講の場がたくさんあります.大会は参加者数も年々増えてきており,喜ばしいことだと思いますが,一方で細分化が進み,異分野の研究者間の交流機会がやや減ってきている印象もあります.もちろん専門的に突っ込んだ話もしたいでしょうから,バランスの問題だとは思いますが,もう少し異分野間の対話を促進する工夫を取り入れられたらと考えています.一方,冬のシンポジウムはそういった異分野対話を実践する場として機能しています.企画は,複数の研究分科会の共同で行っており,大会を補う形で異分野交流の場として盛り上げていきたいと思います.これらに加えて,専門的により突っ込んだ議論をする場として研究分科会があります.2024年秋より「計算認知科学研究分科会」が新たに発足し,現在は8つの分科会が活動しています.今後も常任運営委員会の大会支援室や研究分科会委員の先生方とともに,より良い企画や枠組づくりについて議論をしていきたいと思います.会員の皆様には,こういったそれぞれの場の性格を知っていただき,ご自身の研究発表や新たなアイデアを得る場として活用していただけたらと思います.

学会としては,若手研究者や学生が認知科学に興味を持ち,参加するきっかけを継続的に提供していくことも重要です.おかげさまでサマースクールは毎回盛況であり,リピーターとして参加してくれる若手も多くいます.そういった若手や学生と交流したい中堅・シニアの方々の参加も大歓迎です.また昨年はCogSciのミートアップ企画を国際交流担当の先生方が中心となって開催し,浜松の地で活発な議論が繰り広げられました.今後も企画を予定していますので,国際会議への参加・発表を考えている若手の皆さんにはぜひ参加していただきたいと思います.そういった入口を経て,若手同士で集まって議論を行う「若手の会」も精力的に活動しています.常任運営委員会の若手支援室および国際交流室を通じて,こういった活動を展開・支援していきます.

社会との繋がりを築いていくこともこれからの学会の大きな役割だと考えています.認知科学会の活動から生まれた優れた研究成果を,多くの方の目に留まるように書籍として出版する事業を今後も積極的に進めていきたいと思います.また産学連携やその他のアウトリーチについても検討していきます.折しも,2024年のノーベル物理学賞および化学賞でAI研究者が受賞し,ChatGPTに代表される生成AI技術の躍進も目覚ましい中,その源流である認知科学の社会的プレゼンスを高めていくことは重要であると感じています.

最後に,認知科学会が今後も良い学会であるために,会員の皆さまからのさまざまなアドバイスやご協力を賜りたいと思っております.どうぞ暖かなご支援のほどよろしくお願い申し上げます.



会長ごあいさつ

川合会長のごあいさつ