研究分野
感情
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O2-3本研究は,日本の伝統宮廷舞踊である舞楽の美的鑑賞における文化差を検証した初の実証研究である。質的・量的手法を用いて日本人とドイツ人参加者を比較した結果,日本人は選好,超越的体験,優美さ,調和と構造において一貫して高い評価を示した。この文化差は,日本の美的概念「間」と,東アジアの全体的認知処理対西洋の分析的認知処理の違いで説明される。文化特有の認知スキーマが複雑な美的刺激の受容を形成することが明らかになった。
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O2-4本研究では,単純な数列再生課題における人間の行動データと認知アーキテクチャによるモデルの出力を対応づけることにより,認知モデルにおける個人のパラメータを推定した.推定されたパラメータと個人の課題成績および感情評定値の関連性を検討した結果,課題成績を最大化するパラメータの存在,および不安・ネガティブ傾向とパラメータの最適値が対応づけられる可能性が示唆された.本研究の知見は,不安特性の高い個人の認知プロセスのモデル化に貢献する可能性がある.
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P1-18身体を覆うように着用する「着ぐるみ」は、広報活動等に幅広く利用されてきた。本研究は、着ぐるみに対する恐怖の生起因について調べるために、着ぐるみ恐怖に影響を及ぼす特徴、他の恐怖や個人特性との関連について検証した。実験の結果、特に顔部分の隠蔽や対象の動作性が着ぐるみに対する恐怖を促進している可能性が示された。今後の研究では、顔と身体の動きの不一致と着ぐるみ恐怖との関連について検証する必要がある。
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P1-28本研究では、VRプレゼンテーションにおける自身のVRアバターの表情が緊張緩和に与える影響を検証した。ポジティブ表情アバターを提示された群は、ネガティブ表情アバター群と比較して心拍間隔(RRI)の有意な増大を示し、よりリラックスした状態にあることが示唆された。この結果は、VRアバターの表情操作がプレゼンテーション時の生理的緊張を緩和する可能性を示しており、今後のVRを用いたコミュニケーション支援への応用が期待される。
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P1-33人々が「考慮する選択肢の数を増やすこと」と「所与の選択肢セットを適切に評価すること」の間のトレードオフにどう対処しているのかを行動実験により検討した.結果,人々は最適値が異なる環境において,選択肢の数を適応的に調整することに失敗していた.一方,選択に伴う後悔感情は選択肢の数の調整と関連しており,主観的な感情経験が意思決定の制御プロセスにおいて機能的な役割を果たしている可能性が示された.
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P1-34本研究は選択者が選択肢数を能動的に決定する場面に着目し、選択肢過多状況で生じる後悔が次の探索を抑制するかを検討した。選択の判断軸となる、参照基準の調整効果にも着目した。大学生22名に対し、初回選択の選択肢数と参照基準の有無を操作し、初回選択後の後悔と次回選択の探索数を測定した。媒介分析の結果、初回の選択肢数は次回選択の探索数に直接影響しなかったが、後悔が探索数を有意に負に予測し、後悔が探索調整メカニズムとして機能する可能性が示唆された。
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P1-41本研究では,美術館でフィールド調査を実施し,どのように芸術作品を鑑賞する個人が鑑賞において美的体験するのかを検討した。その結果,芸術鑑賞時にメタ認知的知識(自分自身や他者の鑑賞・作品・鑑賞方略に関する知識)をもつ個人ほど作品を理解し,好きになる傾向があることが示された。本研究は,美的体験における鑑賞のメタ認知の重要性を強調し,教育的介入の開発に資する基礎的知見を提供するものである。
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P1-63本研究は、AIベースの表情分析技術であるDeepFaceを活用し、他者の感情表情を観察中の観察者自身の微細な表情変化が性格特性とどのように関連するかを検証した。その結果、協調性および神経質性が高い人ほど、怒り、嫌悪、喜び、驚きといった感情の表情強度が抑制されることが明らかになった。この現象は、協調性の高い人が対人関係における調和を維持するため、また神経質性の高い人が否定的な評価を回避するために、自身の情動表出を調整していると解釈できる。
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P1-64本研究では視覚探索課題を2回実施し,その間に幼くてかわいい刺激、幼くはないがかわいい刺激、かわいいとも幼いとも喚起されない刺激を提示して成績を比較した。その結果幼くてかわいい刺激を提示した場合だけでなく幼くはないがかわいい刺激を提示した場合でも2回の課題間に有意な成績の向上がみられた。かわいいと感じる刺激だけでなく幼さのないかわいいと感じる刺激でも視覚的注意課題の成績を上げる効果があることがわかった。
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P2-4コメディカルが業務で感じる感情的不協和は,従来の患者に対するものから,連携や協働から来るものへと変化があるが,この点に関する研究は少なく,本稿はその背景や要因を調査する.また,医療現場では組織内での何気ない会話が減少傾向にある.不協和経験の言語表出のニーズ,実際の対処をコメディカルに調査し,心理的抑制や機会制限などの阻害要因も踏まえた表出の不協和軽減効果について,明らかにする.
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P2-13正中面上の前後に位置する音源の間では、同じ音であっても後方から提示する時と前方から提示する時では喚起する感情が異なるとこれまでに報告されている。研究ではこの効果を確認し、同時にこの方向の効果に関わる身体の座標系について研究することを目的とした。本稿では、後方に提示することの効果が正中面から離れた音源に及ぶことを新たに確認したと同時に、方向の効果に関わる身体座標系の役割については明らかにならなかった。
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P2-27虫嫌いの増大が生活の都市化に起因するとされる中,虫に対する嫌悪感と対人的嫌悪感との関係が変化しているとの仮説に対し,行動レベルで検討するため,高齢者‐若年成人を異なるコホートの参加者として,虫模型に対する殺虫スプレー噴射のデータに対してストップ・ディスタンス法に模した分析を行った.若年・虫恐怖感高群は高齢者群に比べ,虫への距離が長く,後部からスプレー噴射をすることが多かった.虫に対する攻撃行動の変化とコホートの関係について考察する.
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P2-28空間での体験デザインにおいて,心を動かすことを指して多用される「感動」を改めて捉えなおし,体験によって引き起こされる多様な心の動きについて探索的分類を試みた.「心が動いた体験」のインタビューを実施した結果,それら体験による心の動きには少なくとも9の種類があることが見出された.中には,「感動」という言葉では表しにくい心理状態も含まれており,その多様性を把握することの重要性が示唆された.
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P2-37U理論は,7つのステップより構成されるイノベーションとリーダーシップの方法論である.その7ステップのうちのプレゼンシングと呼ばれる第4ステップは,個人あるいは集団が, 未来へ向けた新しい目的, 意志を見出すステップである.本稿では,U理論をモデル化するためには,人間の認知過程と知覚・感情過程を総合的にモデル化する必要があり,その為には通常の身体性認知科学でも足りず,新たな研究手法が必要であることを明らかにし,その端緒を紹介する.
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P2-38人間の声による読み聞かせの印象と合成音声による読み聞かせの印象とを比較し,合成音声における「人間らしさ」が読み聞かせ場面に適しているのかを検討した. その結果,読み聞かせ場面では,合成音声よりも人間の声の方が適していると感じられることがわかった.また, 合成音声の「人間らしさ」を評価する際には,「生きていると感じられるかどうか」,「感情があるかどうか」,「肯定・芸術・弾力性」といった概念が関係していることが示された.
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P2-48本研究は,恋愛感情の想起による視知覚への影響を,色の温度感を通して検討した.温度感と恋愛感情想起の関係がどのようなものか検討するため,想起時の感情状態を9感情で質問した.他の親密な感情想起と比較するため,友情想起を比較条件とした.調査の結果,重回帰分析により,情熱と興奮の2感情が,色温度感の高低に対し,恋愛感情と友情の間で逆の効果を持つと示された.これにより,恋愛と友人関係が,色知覚への影響において異なる文脈となりうることが示唆された.
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P3-4共食は,おいしさを向上させ,そこでは他者との経験共有が影響していることが示されている.そこで小林・遠山(2024)では,遠隔で他者と食行動を共有しても,先行研究と同様においしさを増幅するのかを検討した.結果,おいしさが増幅される効果は得られなかったが,他者に対して波長があうと思う度合いがおいしさに影響を与えていることがわかった.これを踏まえて本研究では,遠隔の共食において他者との親密度とおいしさの関係性を検討する実験を行った.
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P3-21本研究は,パッケージ・デザインにおいて成分表と商 品画像の要素を変化させると商品に対する好ましさや 購買意欲が変化するのか検討した.実験では, 成分表の 要素量(多・小)と成分表の大きさ(大・小)と商品画 像の見せ方(全体・部分)の3要素を変化させた.その 結果,好ましさと購買意欲の判断は,成分表の要素数が 多い方,成分表の大きさが小さい方,そして画像は全体 である方が高いことが確認された.
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P3-22本研究では,大学生・大学院生を対象に,対人関係に関する相談行動と自尊感情の関連を調査した.自尊感情が高い群ほど他者に相談する傾向が低く,役に立った返答として「留学」「受験」など将来や学業に関する内容が多く挙げられた.自尊感情の程度により,相談傾向や有用とされる返答の内容が異なることが示唆された.今後は自由記述の詳細な分析を通じて検討を深める必要がある.
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P3-30非対面コミュニケーションや携帯電話普及など電話応対機会が増えている。電話でお辞儀をしながら発話をすると感じの良い応対になると言われ,企業では指導をしている。それらは経験則と知識の継承であり,明らかにされてはいない。本研究では,音声のみからお辞儀の有無を聞き手が知覚できるかを検証した。平均正答率はチャンスレベルを有意に上回り,視覚情報がなくても身体動作が音声に反映され伝達される可能性が示された。
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P3-43本研究では、簡素で抽象的な映像素材を音楽に付与することにより、感情にどのような影響を及ぼすかについて調査している。光の粒が画面の上部と下部との間,あるいは画面の周囲と中心との間を移動する映像素材2種について、それぞれ方向と速度を変化させた12種をポピュラー音楽と同時に視聴し、これらに対する覚醒度、感情価、期待感を評定する心理実験を実施している。結果、映像素材を付与によって音楽聴取時に覚える感情をある程度制御できることを示唆している。
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P3-45試験への取り組み報告に対し,同一のメッセージを「人」または「チャットボット」が返信する条件を用意し,メッセージ受信後の,受信者自身の感情的評価と取り組み姿勢の評価を,調査開始時,開始1週間後,開始2週間後(調査終了時)に測定した.参加者の得点は,「人条件」と「ボット条件」に依らず推移し,各条件に共通する傾向は現れなかった.インタビュー結果から,送り手の属性に相応しい特徴を持つメッセージが,受信者の評価向上へ繋がることが示唆された.
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P3-46本研究は,デジタルデトックスアプリの開発を最終的な目標として,SNS利用における承認欲求とインターネット依存の関係性を検証した. 成人男女100名が,承認欲求尺度,インターネット依存尺度,SNS利用とその動機に関する質問に回答する調査に参加した.その結果, 承認欲求が高いほどインターネット依存傾向も高い中程度の有意な正の相関が確認された. 承認欲求の高低とSNS閲覧・投稿頻度の有意な関連性は確認されなかった.
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P3-51集合体に気持ち悪さや怖さを感じることはよく知られている現象であるにもかかわらず,なぜ集合体に気持ち悪さを感じるのかはよくわかっていない.本研究では,集合体を構成する要素の数,凹凸,配置不規則性といった視覚的特徴やその組み合わせが,集合体への気持ち悪さを増幅させるかどうかを検討した.実験の結果,要素の数,凹凸,配置不規則性はそれぞれ独立して集合体への気持ち悪さを増幅させることが示された.
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P3-55ユーモア理解の地域差について,ユーモア理解の「見いだし」理論による説明の可能性を検討した.具体的には,保護フレームないし関連性がユーモアの面白さに与える影響について,ひねり,ユーモア態度,居住地域による変調の可能性を実証的に検討した.その結果,居住地域により関連性を感知するひねりやユーモア態度に違いがあり,保護フレームの作用と合わせて,ユーモアの面白さに影響する可能性が示唆された.
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P3-60視覚的視点取得(VPT)は、意図的と自発的に分類される。本研究では、特性共感と状態共感がそれぞれのVPTに与える影響を、4つの実験で検討した。その結果、特性共感は意図的・自発的いずれのVPTにも影響しなかった。一方、状態共感は意図的VPTにのみ影響した。この結果から、個人の持つ共感性よりも、共感する相手によって変化する共感性の強さが、意図を持って対象の視点を取ることのしやすさに影響することが示された。