プログラム順

[OS14] 認知過程をありのままに受け入れる

9月16日(金) 15:50 - 18:20 会場:A23(情報科学研究科棟2階)
 認知科学では,人間のある認知過程を,実験やフィールドワークを通して検討してゆく.その際,研究者は,関心がある認知過程の対象に対して,用語を用いて定義づけし,導かれた概念を踏まえて議論を行ってゆく.しかし,ある認知過程が,環境との相互作用や個人による過去の経験に強く影響される場合,すなわち,認知過程が普遍性だけでなく,一回性を有する可能性が考えられる場合,既存の概念のみに基づいて議論を進めることに問題はないのだろうか?本セッションでは,この問題について意識共有することを目的とする.具体的には,関心がある認知過程に対して多角的・多義的な捉え方をもつという,研究スタンスや研究アプローチに関する重要性を意識共有する.
 例として,芸術家による「美しさ」の捉え方を科学的に検証する際,研究者は,先行研究から導かれた既存の概念を基に「美しさ」を議論するだけでなく,他の概念が存在する可能性についても多角的に検討する必要がある.芸術家が捉える「美しさ」には,芸術領域の間や芸術家の間で,さらには芸術家自身の個人内において,変動や多様性があり,先行研究とは異なる「美しさ」の概念を基に議論を進めることで,芸術家の活動における,ある認知過程の本質が見えてくることもあるのではないだろうか?
 この場合,研究者には,「検討したい対象はどのような現象だと定義するのか」,「現象をデータとしてどのように記録するのか」など,いくつかの段階で,多角的・多義的に対象を捉える姿勢が要求されると考えられる.そして,具体的な方法論の1つとして,現象としての認知過程を「ありのまま」に受け入れ,その特徴を試行錯誤的に検討することが重要であると考えられる.
 本セッションでは,ある認知過程を「ありのまま」に受け入れ,探索的に検討した研究を募集する.研究者同士のコミュニティが広まる場になることを期待し,募集する研究領域は問わない.探索的な検討から徐々に明らかにされてきた,ある認知過程の特徴や,ありのままに受け入れることの難しさ,方法論等について会場全体で議論を行う.

キーワード:普遍性,一回性,変動,多様性,多義性
  • OS14-1
    山田雅敏 (常葉大学)
    里大輔 (常葉大学)
    坂本勝信 (常葉大学)
    小山ゆう (常葉大学)
    砂子岳彦 (常葉大学)
    竹内勇剛 (静岡大学創造科学技術大学院)
    本研究は,身体知と言語化に関する情報システムの解明を目的とする.先行研究では,学習者の一人称視点の言語化が,身体知の熟達に有効なツールであることが報告されている.一方,現象学の盲点ともいうべき他者性について,十分に議論されていないことが課題として残されている.そこで本研究では,他者性を考慮した身体知と言語化のモデルを構築し,実践的検証を行った.結果から、思考的パラメータに属する言語化が,身体知の熟達を妨げる可能性が示唆された.
  • OS14-2
    布山美慕 (慶應義塾大学SFC研究所)
    日高昇平 (北陸先端科学技術大学院大学)
    熱中し我を忘れて読む状態は,物語理解や読後の信念変化など他の認知的機能との関連が指摘されており,近年注目されている.しかし,熱中し忘我する際に関する読者の自己報告の信頼性は高くないと推測され,内観報告のみでは状態を特徴づけることは難しい.本研究は,この熱中や忘我状態がそもそも一貫した同一性をもつ状態なのか明らかにすることを目的とし,同一性について議論を行った上で,これまでの著者らの実験結果から読者の熱中状態の同一性を議論する.
  • OS14-3
    中野優子 (東京大学大学院学際情報楽譜)
    清水大地 (東京大学大学院教育学研究科)
    岡田猛 (東京大学大学院教育学研究科・学際情報学環)
    本研究では,ダンスを専門としない大学生を対象に,創作に注目したダンスの授業を,著者らの先行実践を踏まえて,現役のダンスアーティストと協働でデザイン・実施し,その教育的効果を多様な観点(授業時の感想文と身体表現,質問紙やレポート)から測定した.結果,授業での経験を通して,受講者は自分や他者に関して様々な気づきを得たり,コミュニケーションが促進された様子が示された.この結果に基づき,デザインの有効性と更なる発展に関して議論を行った.
  • OS14-4
    北雄介 (京都大学学際融合教育研究推進センターデザイン学ユニット)
    筆者はこれまで、ものごとの全体的な在り方である「様相」について都市歩行を題材に研究してきた。被験者に指定した街路を歩いて、感じ取った様相を言葉を用いて記録してもらう「経路歩行実験」を用いている。本稿ではこの研究を起点に「ありのままの認知」の研究方法について考察する。「都市歩行という行為」「経路歩行実験という状況」「言語を用いた記録」というそれぞれの側面について筆者の研究について検討し、最後に都市歩行以外の対象への方法の適用可能性を探る。
  • OS14-5
    清水大地 (東京大学大学院教育学研究科)
    岡田猛 (東京大学大学院教育学研究科・学際情報学環)
    観客を前に共演者とパフォーマンスを披露することは,芸術表現の熟達にいかなる影響をもたらすのか.本研究では,ブレイクダンスにおける練習と実践を通した熟達について,熟達者3名へのフィールドワークによる検討を行った.領域技術の変化について,技術自体の質や前後も含めた連なりの内容など,3点から分析を行った結果,熟達者は練習で内容や質を十分に生成・改善した上で実践に用いたこと,実践の前後で新しい内容を活発に生成していたことが示された.