そこで本研究では,従来の「研究領域」に替えて,「思考プロセス」により密接に 対応するものとして「研究の方向性」という概念を考えた.これは,各人の研究履歴を 構築するプロセスによってどのような知識や知識取得のプロセスを妥当と判断する訓練 を積むか (妥当性要求基準) に基づく考え方である.この「研究の方向性」は,「研究 目的」及び「研究手続き」という研究履歴における2つの要素から成る.本研究の結果 は,科学者の思考プロセス (特に問題の定式化プロセス) を把握するためには,「研究 目的」及び「研究手続き」という2つの要素の組み合わせ,すなわち「研究の方向性」 を考慮することが重要なことを示している.
しかしながら本研究の将来への課題は多い.まず,課題をこちらが指定するという 統制実験の弊害がないことを確認するためには,異なるテーマを同じ被験者に与える ことで,本研究の結果が課題の性質によらないことを検証する必要がある.また,今後 は被験者数を増やして,本研究の結果を統計的に議論できるようにすることが 望ましい.さらに被験者の研究領域も,本稿では心理学的な領域に偏っていると 考えられる.これはカクテルパーティ効果という提示したテーマの性質上やむをえない 事であるが,別のテーマについて異質の領域の被験者を用いて分析してみることも 必要であろう.
最後に,被験者となって戴いた匿名の研究者の皆様には,大変お忙しいところ ご協力戴き,深く感謝致します.また貴重なコメントを頂戴しました, 鈴木宏昭助教授 (青山学院大学),匿名の査読者および担当エディタの皆様にも 深く感謝致します. なお本研究は,日産科学振興財団第22回助成研究「学際的研究における分野間 知識統合の解析と評価」(1996-1998年) および文部省科学研究費補助金奨励研究 (A) (課題番号:09780313,平成9-10年度) の一環として行われました.