本研究では,これら12人の思考プロセスのデータから定式化プロセスを時系列的に追う ことによって,問題の定式化プロセスが異なるグループを同定した.図1において, 各グループによる問題の定式化プロセスの時系列における変化を示す13.各グループの 同定は,具体的には,被験者の定式化プロセスを時系列に追うことにより以下のように 行った.まず最初の部分で,目的のレベルの記述において「テーマに関連した因果 メカニズムの追求」を研究目的としたグループ (グループ1, 2, 4) と,「テーマに関連 した因果関係における要因の発見」を研究目的としたグループ (グループ3) の2つに タイプ分けした.次に前者のグループを,その目的の具体化とそれを実行する手続きの レベルにおいて3つのグループにタイプ分けし,最終的には全部で4つのグループを抽出 した. 表2において,各グループに属する被験者,グループごとに見られる共通のユニットの 変化 (ユニットの時間的な移り変わり),及びその問題の定式化プロセスとしての特徴 をまとめる14.被験者D, E, I (以下,「グループ5」という) は,研究履歴が与えられた 課題と離れていたこともあり,最終的な問題の定式化には至らなかった (このグループ の被験者の定式化プロセスでは,他のグループの定式化プロセスの一部のみが 観察された).
各被験者の研究履歴を調べるためのアンケート用紙の質問項目は,第2.1節で示した 通りである.そのうちまずQ2とQ3 (その中でも特に各被験者ごとのこれまでの専門領域 と,論文投稿経験のある所属学会) についてのデータを,被験者の 「研究領域」(ここでは研究領域という言葉を,「彼らの専門領域 または彼らが 所属するジャーナル共同体」として定義する) として,1から4の各グループごとに 表3に示す.
またQ5とQ6から,それぞれ質問文通り「満足した研究」と「利用可能な研究手続き」と
して得られた結果を,表4と表5にまとめる.特に表4では,Q5を用いて最近の研究に
おける「研究目的」としてまとめた.Q6をまとめた表5中の「フィールド調査」とは
インタビューやアンケート調査・参与観察を意味し,「心理統制実験」とは心理的要因
を統制した心理実験を,「機器を用いた物理的測定実験」とはMRI, PETや微小電極法
などの測定機器を利用した実験を,「シミュレーション」とは計算可能なモデルの構築
や,コンピュータやロボットを利用したモデルの検証の経験を,それぞれ示す.また
それらの経験の有無だけでなく,具体例を記述してもらい分析に
役立てた15.