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: 4. 分析と考察 : 科学者による問題の定式化 そのタイプ分けと研究履歴との対応 : 2. 研究手続き


3. 結    果

3.1 問題の定式化プロセスのデータ

12名の被験者 (以後アルファベットA, B ,C, D, E, F, G, H, I, J, K, Lで示す) の プロトコルデータが示す「問題の定式化プロセス」を,表1で示した「分類の枠組み」に よってコード化した.このようにコード化された「問題の定式化プロセス」は, 各被験者ごとに固有な部分がある.その一方で,これらの思考プロセスの間には,様々 な共通点を見出すこともできる.

本研究では,これら12人の思考プロセスのデータから定式化プロセスを時系列的に追う ことによって,問題の定式化プロセスが異なるグループを同定した.図1において, 各グループによる問題の定式化プロセスの時系列における変化を示す13.各グループの 同定は,具体的には,被験者の定式化プロセスを時系列に追うことにより以下のように 行った.まず最初の部分で,目的のレベルの記述において「テーマに関連した因果 メカニズムの追求」を研究目的としたグループ (グループ1, 2, 4) と,「テーマに関連 した因果関係における要因の発見」を研究目的としたグループ (グループ3) の2つに タイプ分けした.次に前者のグループを,その目的の具体化とそれを実行する手続きの レベルにおいて3つのグループにタイプ分けし,最終的には全部で4つのグループを抽出 した. 表2において,各グループに属する被験者,グループごとに見られる共通のユニットの 変化 (ユニットの時間的な移り変わり),及びその問題の定式化プロセスとしての特徴 をまとめる14.被験者D, E, I (以下,「グループ5」という) は,研究履歴が与えられた 課題と離れていたこともあり,最終的な問題の定式化には至らなかった (このグループ の被験者の定式化プロセスでは,他のグループの定式化プロセスの一部のみが 観察された).

3.2 研究履歴のデータ

各被験者の研究履歴を調べるためのアンケート用紙の質問項目は,第2.1節で示した 通りである.そのうちまずQ2とQ3 (その中でも特に各被験者ごとのこれまでの専門領域 と,論文投稿経験のある所属学会) についてのデータを,被験者の 「研究領域」(ここでは研究領域という言葉を,「彼らの専門領域 または彼らが 所属するジャーナル共同体」として定義する) として,1から4の各グループごとに 表3に示す.

またQ5とQ6から,それぞれ質問文通り「満足した研究」と「利用可能な研究手続き」と して得られた結果を,表4と表5にまとめる.特に表4では,Q5を用いて最近の研究に おける「研究目的」としてまとめた.Q6をまとめた表5中の「フィールド調査」とは インタビューやアンケート調査・参与観察を意味し,「心理統制実験」とは心理的要因 を統制した心理実験を,「機器を用いた物理的測定実験」とはMRI, PETや微小電極法 などの測定機器を利用した実験を,「シミュレーション」とは計算可能なモデルの構築 や,コンピュータやロボットを利用したモデルの検証の経験を,それぞれ示す.また それらの経験の有無だけでなく,具体例を記述してもらい分析に 役立てた15

表: 各被験者の利用可能な「研究手続き」
グループ 被験者 フィールド調査 心理統制実験 機器を用いた実験 シミュレーション
1 F × ×
G ×
H × × ×
2 A ×
B ×
3 C × ×
L ×
4 J × ×
K × ×
注:◎はグループ内で共通している研究手続き


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日本認知科学会論文誌『認知科学』