保育園に通園している3歳児を対象にして実験はおこなわれ,男児8名,女児9名, 計17名が参加した (平均年齢:3歳7ヶ月,範囲:3歳2ヶ月-3歳11ヶ月).
実験は保育園内の一室にて,被験児が椅子に座り,テーブルに向かう形で おこなわれた.本実験の探索空間は直径60cmの丸い木製の台であり,テーブル上に 設置された (図1, 図2参照).この台はなめらかに回転させることができ,これによって 被験児が台を眺める角度を自由に変えることができた.
探索のターゲットとなるおもちゃは全長6.5cmの象のぬいぐるみである.すべての 子どもに対し,このおもちゃをターゲットとして用いた.
このおもちゃを隠す場所として,茶色の厚紙でできた11×11×11cmの4つの箱を台上に 設置した.それらの箱は互いの角を接触させ,全体として菱形になるように伏せた状態 で置かれた (図1, 図2参照).被験児から見て向こう側にある2つの箱の後ろは箱の陰に なって被験児からは見えないようになっている.よって箱の陰になっている場所の様子 は手前にある目印から推測する必要がある.
探索の手がかりとなるのは,ターゲットの箱の周りに置かれた2つの目印である (図2 参照).1つは 1 20D 全長6cmのウサギの人形で,ターゲットを隠す箱に接する ように置かれた (直接目印).もう1つは 2 20D 全長8cmのあひるのぬいぐるみで, ターゲットの箱以外の箱に接するように置かれた (間接目印).すべての被験児に 対して同じ目印を用い,2つの目印の位置関係もテストフェイズの全試行を通じて変化 させなかった.
被験児を1人ずつ装置のある部屋につれて来て,テーブルの前に置かれた椅子に 座らせた.この際に被験児から見て向こう側の箱の後ろにある目印が見えないよう, 椅子の高さを調整した.
実験の状況に馴れたと思われたら,練習フェイズに入った.練習フェイズは,おもちゃ を探すという事態と,台が回るという事態に馴れさせることを目的としておこなった. 練習フェイズではまず (1) 回転明示条件がおこなわれ,続いて (2) 遮蔽条件が おこなわれた.
(1) 回転明示条件
回転明示条件では,探索手がかりであるウサギとあひるのおもちゃを隣同士の箱の上に のせ (図1参照),それぞれのおもちゃを取り上げて「ここにあひるさんがいます」 「ここにウサギさんがいます」と,どこに何を置いたかについての確認をした. それからターゲットである象のぬいぐるみを見せ,「象さんはここに隠すよ.どこの箱 に隠したかよく覚えておいてね」といいながら,ウサギの箱の下に隠した.隠す際には 子どもの顔を見て,おもちゃが隠れる様子を子どもがきちんと見ているかを確認した.
おもちゃを隠し終えたら,再び子どもの顔を見て「この机はぐるぐる回るんだよ」と 教示しながら,ゆっくりと台を回した.目印の位置が以前と異なるような状態で台の 回転を止め,「ぞうさんはどこにいるかな.ぞうさんのいる箱を指差してみて」と象の ぬいぐるみが入っている箱を当てさせた.このような試行を正答するまで繰り返した.
(2) 遮蔽条件
回転明示条件で正答したら,次に遮蔽条件で練習をおこなった.遮蔽条件でも回転明示 条件と同様に,2つの目印(ウサギとアヒルのおもちゃ)を箱の上にのせ,ウサギの おもちゃが置いてある箱の方に象のぬいぐるみを隠した.しかし遮蔽条件では台の回転 の前に被験児に対して「今度は机をぐるぐる回すときに隠してしまうからね」といい, 台と被験児の間に布を垂らし,台全体を見えないようにした.この場合,回転の状況が 分からないため,目印をもとにした探索が必要となる.遮蔽条件も同様に正答するまで 繰り返した2.
以上の練習フェイズで正しく箱を当てられるようになってからテストフェイズを おこなった.テストフェイズは練習フェイズの遮蔽条件と同様の手続きで おこなわれた.ただし,練習フェイズの遮蔽条件とテストフェイズは2つの目印の位置 において異なっている.練習フェイズでは隣同士の箱の上にそれぞれ1つずつ ぬいぐるみを置いたが,テストフェイズでは向かい合わせの箱に対して,それらの ぬいぐるみの側面を接触させるようにして置いた (図2a参照).その際,ターゲットを 隠す際の目印の置き方によって2つの条件が設定された.それらは,ターゲットの箱に 接して置かれるウサギの目印の位置を基準とし「直接目印向こう条件 (以下Far条件と 表記)」,「直接目印手前条件 (以下Near条件と表記)」と名づけた.以下に条件別に 手続きを示す.
(1) 直接目印向こう条件 (Far条件)
直接目印向こう条件 (Far条件) とは,直接目印 (ウサギ) を被験児から見て向こう側の 箱のどちらかに,間接目印 (あひる) を被験児から見て手前側の箱のどちらかに設置 する条件である (例として図2a).これら目印を所定の場所に置いた後,練習試行と 同様にそれぞれを取り上げて「ここにあひるさんがいます」「ここにウサギさんが います」と,どこに何を置いたか確認した.この確認においてのみ被験者から見て 向こう側にある目印 (この場合直接目印) の位置は明らかにされ,いったんターゲット を隠し終えれば間接目印は被験児から見えるが,直接目印は見えなかった.ウサギの 目印を被験児から見て向こう側の2つの箱のうち,右側に置くか左側の箱に置くかは, 被験児間でカウンターバランスした.
以上のように目印の位置を確認した後,ターゲットを隠し,台を回転させた.なお, 回転の方向は直接目印の位置によって異なり,直接目印が左の箱の横に置いてある 被験児の場合は時計回りに,直接目印が右の箱の横に置いてある被験児の場合は反時計 回りに台を回転させた.
この回転の際にどの程度回転させるかによって,さらに4つの条件を設定した (図3 参照).すなわち 1 20D 台を2回転させ,元の空間配置に戻した0度条件, 2 20D 台を1回転と90度回転させた90度条件,3 20D 台を1回転と180度 回転させた180度条件,4 20D 台を1回転と270度回転させた270度条件である. 回転させる時間は条件間でなるべく等しくなるように10秒以内に回転を終え,約10秒後 に覆いを取り,おもちゃを探させた.その際の装置および目印の配置の例を図2bに 示した.
(2) 直接目印手前条件 (Near条件)
直接目印手前条件 (Near条件) とは,直接目印 (ウサギ) を被験児から見て手前側の 箱のどちらかに,間接目印 (あひる) を被験児から見て向こう側の箱のどちらかに 設置する条件である (例として図3).よって,いったんターゲットを隠し終えれば, Far条件とは逆に直接目印は被験児から見えるが間接目印は見えなかった.
Near条件においては,直接目印を左の箱の横に置いた被験児の場合は反時計回りに, 直接目印を右の箱の横に置いた被験児の場合は時計回りに台を回転させ,その回転角度 によって 1 20D 0度条件,2 20D 90度条件,3 20D 180度条件, 4 20D 270度条件を設定した (図3参照).
すべての被験児に対し,上記の全条件を1回ずつおこなった.よって1人の子どもが 受けた試行は,練習フェイズを除き計8試行である.Far条件とNear条件のいずれを 先におこなうかについては被験児間でカウンターバランスした.またいずれの条件を 先におこなうにせよ,その条件での4つの回転条件をすべて終えてから次の条件に 移るが,この回転条件の施行順序も被験児間でカウンターバランスした.
反応については,被験児自身が直接箱を開けるか,被験児の指差しを確認して実験者が 開けるという形態を採った.間違った箱を開けてしまった場合には,正答の箱が被験児 の目の前にくるまで台を回転させたうえで,正しい箱を被験児が開けるか,実験者が 開けるかした.
1回の試行が終わるごとに,どの箱に反応したか記録用紙に記入した.