1回目の選択で反応した箱の位置に基づき,全被験児の反応を4つに分類した.4つの箱 のいずれに反応したか,各箱に対する反応率を示したのが図3である.隠し場所と なりうる箱は4つあるので,もしランダムに箱を選ぶとすれば偶然に正しい箱を選ぶ 確率は25%である3. そこで,正答への反応およびそれ以外の箱への反応がチャンスレベルよりも有意に 多いかどうか,二項検定で調べた (片側検定).その結果,Far-90度条件のみが チャンスレベルよりも正答率が低く (, ),その代わり回転前の ターゲットの位置に有意に多く反応していた (, ). その他の条件ではターゲットの箱以外に有意に多く反応した箱はなかった.
さらに,それらの反応のうち正しい箱に反応した率 (正答率) について8条件間に 差があるかどうか,コクランのQテストをおこなった.その結果, であり,有意水準 で有意であった.そのため下位検定として,マクニマーの 検定を用いて多重比較 (Ryan法) をおこなった.その結果,Far-90度条件はNear-180度 条件を除き (, ),すべての条件と比べ有意に正答率が 低かった (Far-0度条件: ; Far-180度条件: ; Far-270度条件: ; Near-0度条件: ; Near-90度条件: ; Near-270度条件: ).また,Near-180度条件はFar-0度・Far-180度・Near-0度・Far-90度条件と 比べ有意に正答率が低かった (それぞれ ; ; ; ). Near-270度条件はFar-180度・Near-0度・Near-90度条件と比べ有意に成績が 低かった (それぞれ ; ; ). Near-0度・Near-90度・Far-0度・Far-180度・Far-270度条件間には有意な差は 見られなかった .
これらの結果をまとめると,まず 1 20D 探索時に直接目印 (ウサギ) が 見えるNear-0度・Near-90度・Far-180度・Far-270度条件の成績が高かった. 2 20D ただし,回転角度が0度の場合は探索時に直接目印が見えなくとも正答率は 高く,1 20D の条件群との差は見られなかった. 3 20D 逆に,探索時に間接目印 (アヒル) しか見えない場合には,探索時に 直接目印が見える場合に比べ正答率が有意に低かった. 4 20D なかでもFar-90度条件の正答率は他の条件に比べて特に低く, Near-180条件以外のすべての条件間と有意な差があった.
次に,誤答パターンの分析結果について述べる.まず,回転前の元の位置への誤答率を 調べることにより,1 20D そもそも本研究の被験児がテーブルの回転を考慮 できていたか,また 2 20D テーブルの回転後は,目印の位置の確認をせずに 自己参照系に基づいた反応はできないことを理解しているかを検討した.
回転に関わらず元の位置に反応した誤答率は図3から明らかなように, Far-90度条件が59%,Far-180度条件が12%,Far-270度条件が6%, Near-90度条件が6%,Near-180度条件が41%,Near-270度条件が0%であった. これらの結果は,一律に被験児がテーブルの回転を無視し,回転前の元の位置に 反応したとはいえないことを示しているが,その一方でFar-90度条件, またチャンスレベルの検定では有意には到らなかったもののNear-180度条件も同様に 元の位置への反応が多いことを示した.
誤答パターンのうち次に焦点をあてるのは,ある目印をもう1つの目印と誤って判断 したと仮定される反応の割合である.
目印間の弁別に関しては,2パターンの誤りが起こり得た.1つは探索時に見えている 直接目印を間接目印と間違え,直接目印の対面にある箱に反応する誤りであり, もう1つは探索時に見えている間接目印を直接目印と間違え,間接目印の置いてある箱 に反応する誤りである.
前者の間違いのパターン,すなわち直接目印を間接目印と間違えるパターンが生じる 可能性があるのは,Far-180度・Far-270度・Near-0度・Near-90度条件であった.図3に 示した反応結果のうち,これらの条件において直接目印の対面の箱に反応した率を 「目印誤認率」とすると,各々の目印誤認率は12%・0%・0%・0%であった. 一方,後者の誤答パターン,すなわち間接目印を直接目印と間違えるパターンが生じる 可能性があるのは,Far-0度・Far-90度・Near-180度・Near-270度条件であった. 各条件において間接目印の置いてある箱に反応した率を「目印誤認率」とすると, 各々の目印誤答率は12%・18%・41%・35%であった.誤答自体が少ないため チャンスレベルを有意に越えてはいないもののNear条件に限り,間接目印が隣に 置いてある箱に反応する傾向が高かった.
最後に今回の課題における経験の効果について検討した.なぜならば,今回の実験に おいては台上の4つの箱の置き方や目印の配置の仕方,目印の種類,さらにどの目印の 近くにターゲットを隠すかについても一貫していたため,それらの経験の効果が 考えられたからである.
その比較をした結果が表1である.ここでは,各条件についてその条件を最初に
おこなった被験児群と後におこなった被験児群に分け,それぞれの正答率を出して
比較した.さらにこの正答率の間に差があるかどうか,全条件についてフィッシャーの
直接法で差の検定をおこなった.その結果,Near-270度条件において後半群の方が成績
がよい傾向があった ().また,有意差は見られなかったがNear-180度条件にも
同様の傾向があり,前半群の正答率が25%であるのに対して後半群は67%で
あった .