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: 4. 考    察 : 空間認知の発達における感覚運動的知能と 概念的知能の関係 : 2. 方    法


3. 結    果

3.1 反応の得点化

定位の正確さを分析するため,以下の4つの得点化を行った.

(1) 距離誤反応得点は,格子の一辺の距離を1として,対象がある格子と子ど もが指さした格子との距離を求めた.(2) 格子誤反応得点は,子どもが対象があ る格子を指した場合に0点を,ない格子を指した場合に1点を与えた.(3) 左右誤 反応得点は,回転前のテーブルの右側と左側を基準にして,子どもが対象がある 側を指した場合に0点を,ない側を指した場合に1点を与えた.(4) 自己中心的誤 反応得点は,子どもが自己を基準にした場合に回転前と同じ位置の格子を回転後 にも指した場合に1点を与えた (Full課題のみ).

各誤反応得点とも 角度ごとに4試行の平均得点を求め,Full課題では180度の得点を,Step課題で は45度から180度までの得点の平均値を空間定位の正確さの指標とした.

3.2 Full課題とStep課題の関連

2つの課題間の関連を調べるために,3歳児群と4歳児群とをこみにして,距離 誤反応得点により散布図を描いたところ,1次的な関係は見られなかった (図2参 照).そこで,両者の関係をより詳しく調べるために,格子,左右,自己中心的 の3つの誤反応得点を組み合わせたFull課題の成績により,被験者を 群分けした (表1のFull課題における誤反応得点を参照).

図: Full課題とStep課題における
距離誤反応得点の散布図


表: Full課題の誤反応得点による群分けとStep課題における誤反応得点の 群別平均値
      群 (人数)
      A (12) B (6) C (8) D (7) E (6)
  月齢 42.02 45.77 44.15 50.96 48.08
    5.49 7.11 8.92 4.77 2.73
  格子   1 1 1 0
  左右   1 1 0
Full課題における誤反応得点 自己中心的 1 0
  距離 2.96 2.82 2.16 1.34 0
    0.14 0.36 0.30 0.53 0
  距離 0.41 1.31 1.85 0.44 0.13
    0.40 0.80 0.55 0.75 0.31
Step課題における誤反応得点 格子 0.22 0.67 0.90 0.19 0.04
    0.24 0.43 0.20 0.34 0.10
  左右 0.11 0.31 0.45 0.13 0.04
    0.12 0.19 0.13 0.23 0.10
(注) は得点が0点以上1点未満であることを 示す.

3つの誤反応得点が全て1点の被験者はA群,格子と左右の誤反応得点のみが1点 のものはB群,格子誤反応得点のみが1点のものはC群,格子誤反応得点が 0点より大きく1点未満のものはD群,全て0点のものはE群に分類した.

A群の子どもは自己中心的誤反応得点が1点,つまり,Full課題において,テー ブルが回転したにもかかわらず,自己を基準にして回転前と同じ位置の格子を指 さした子どもであり,完全に自己中心的であると考えられる.それに対してB群 の子どもは,左右誤反応得点が1点,つまり,回転後も回転前と同じ側を指さし たが,A群の子どもと違い自己中心的誤反応得点が1点未満であり,自己を基準に して最初とは異なる格子を指さしている.したがって,B群の子どもは,テーブ ルが回転することにより対象の位置が変化することに気づきかけているが,反対 側に移動することは理解していないと考えてよいであろう.

C群の子どもは,左右誤反応得点が1点未満になる,つまり,対象が反対側に移 動したことに気づきつつあるが,格子誤反応得点が1点であるので,正確には理 解していないと考えられる.そして,D群では,格子誤反応得点が1点未満となり, 定位の正確さが増し,E群では格子誤反応得点が0点であるので,正確に客観的な 定位が行われている.

図: Full課題とStep課題における群別の
距離誤反応得点

以上のように分けた各群のFull課題とStep課題の距離誤反応得点を求めて図示 したものが図3である.Step課題における得点は,A群からC群にかけて上昇し, C群からE群にかけて下降した.同様の傾向は,表1の下半分に示したように, Step課題における他の誤反応得点でもみられた.

表: Full課題の得点群別にみたStep課題の誤反応パタン
パタン 群 (人数)          
(左右基準) A  (12) B  (6) C  (8) D  (7) E  (6) 合計   
0000 8    3    4    1    0    16   
0001 7  (5) 3    2    1  (1) 0    13   
0011 4  (3) 2    3  (1) 1    0    10   
0111 1    2    5  (1) 1  (1) 0    9   
1111 1    1    3    0    1    6   
***0 0    4    12    1    0    17   
その他 0    2    2    3    0    7   
誤反応合計 21    17    31    8    1    78   
全反応数 48    24    32    28    24    156   
誤反応の割合 (%) 43  .8 70  .8 96  .9 28  .6 4  .2 50  .0
(注) 括弧内の数字は左右基準と格子基準のパタンが 同一であった数を示す.
***0パタンは0000パタン以外で180度で正反応であったパタンを
意味する.
         

3.3 Step課題における反応パタン

次に,空間定位の過程を調べるために, Step課題における各個人の反応のパ タンを分析した.各角度において0点 (正反応) か1点 (誤反応) が与えられるので, 45度から180度までの得点のパタンは16 () 通り考えられる.

左右基準での各パタンの頻度を調べたところ,全反応156のうち,全角度で正 反応 (0000) が94,135度まで正反応 (0001) が13,90度まで正反応 (0011) が10, 45度まで正反応 (0111) が9,全角度で誤反応 (1111) が6で,他のパタンの頻度は5以 下であった.さらに左右基準の各パタンを格子基準で検討したところ,左右基準 で94あった0000パタンのうち,格子パタンも0000パタンであったものは78,0001 パタンが1 ,0011と0111パタンが2,1111パタンが5で,その他のパタンが6つあった.

また,左右基準で13あった0001パタンのうちの6つと,10の0011パタンのうち の4つ,9の0111パタンのうちの2つは,格子基準でも同じパタンであり,対象が ない側を指す直前までは対象がある格子を指していたことが明らかになった.

以上の結果から,子どもが指さした位置の変化には大きく分けて2つのパタン があることが明らかになった.1つは,まず格子基準で誤反応となり,その後,左 右基準でも誤反応となるパタンである.このパタンでは,子どもが指さす位置と 対象がある位置とのずれは,回転角度の増加とともに徐々に大きくなる.もう1つ は,左右基準で誤反応になる直前まで格子基準で正反応であるパタンである. このパタンでは,子どもが指さす位置がある角度で突然反対側になる.

3.4 Full課題の成績と反応パタンの関連

各群の被験者がStep課題においてどのような誤反応をしたのかを調べるために, 左右基準の主なパタン別に誤反応数を求め表2に示した.表2より,格子基準では 誤反応だが左右基準では正反応である0000パタンや,左右基準で135度までは正 反応であるが180度で誤反応になる0001パタンが,A群からE群にかけて減少する ことがわかる.例えば,0001パタンの度数は,A,B,C群の順に,7,3,2であり, 各群の誤反応全体における割合は,順に33.3%,17.6%,6.5%であった.

さらに,途中から誤反応になる0001,0011,0111の3つのパタンに関して,格 子基準のパタンを調べ,左右基準と格子基準のパタンが同一である数を括弧内 に示した.A群は合計で8であり他の群に比べて多く,途中まで正しい格子を指 さしていながら突然反対側に移動する誤反応が多い. また,C群では,***0パタン, つまり,途中で誤反応があるが,最終的な結果は正反応であるパタンが, 他の群に比べて多い.


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日本認知科学会論文誌『認知科学』