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: 7. おわりに : あいづちを統制したコミュニケーションにおける 助詞 ねの頻度の変化 : 5. 実験内容

6. 実験データとその分析

実験会議の結果,全部で24セッションのデータが得られた.ここで,1グルー プに対する10分間の実験が1セッションである.実験の模様はオーディオ・ テープとビデオ・テープで録音・録画した.さらに,書き起こしを行ない, コーパス7を作成した.

そのコーパスをもとにして,各群について, と表[*]に 示すような実験データを各セッション毎に得た.表中の上2段には,グルー プを数字で,会議参加者を英大文字で示してある.各セッションのデータとし て,各会議参加者の総発話に現れるの数 (の出現数) を示して ある.

総データ数は48であり,あいづちあり群とあいづちなし群のそれぞれの群に 対して24個のデータがある.


表: 実験データ (あいづちあり群)
グループ 01 00 03 00 05 00 07 00
会議参加者 A B E F I J M N
第1回目の実
験会議での
の出現数 (回) 19 10 9 0 0 1 1 2
第2回目の実
験会議での
の出現数 (回) 14 8 12 0 0 6 14 1
第3回目の実
験会議での
の出現数 (回) 7 6 10 1 0 0 0 0


表: 実験データ (あいづちなし群)
グループ 02 00 04 00 06 00 08 00
会議参加者 C D G H K L O P
第1回目の実
験会議での
の出現数 (回) 5 8 2 4 1 19 17 3
第2回目の実
験会議での
の出現数 (回) 3 6 2 2 8 8 23 1
第3回目の実
験会議での
の出現数 (回) 3 16 0 1 15 3 22 4

これらのデータを基にして,ウィルコクスンのU統計量を求め,さらに,有意 確率 (片側) を求めると,7#7となった.この有意確率から,あいづちなし 群とあいづちあり群の分布の位置は同じとは考えにくく,あいづちなし群があ いづちあり群に比べて分布の位置は右にずれる傾向にあると考えるのが妥当で ある.つまり,司会者のあいづちが極めて少ないと,会議参加者は助詞を多用する傾向にあると判断できる.

母集団に関する知見を得るために,帰無仮説と対立仮説をたてて,ある有意水 準のもとでの検定結果を示すという方法がしばしば取られる.有意水準は,正 しくない決定をすることによって生じる損失が,正しい決定をすることによっ て生じる損失を下回るように,5%や1%などに先験的に設定されることが多い. しかし,本研究のように言語現象を扱う分野では,有意水準を先験的に与える ことができない.従って,ここでは有意水準を決めて,検定結果を明示すると いう方法を避け,有意確率から上述のような傾向に関する判断を下すことにし た.


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: 7. おわりに : あいづちを統制したコミュニケーションにおける 助詞 ねの頻度の変化 : 5. 実験内容
日本認知科学会論文誌『認知科学』