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: 4. 総合的考察 : 外観表現とイメージ操作による三次元物体認知 : 2. 実 験 1


3. 実 験 2

異なるカテゴリに属する2タイプの物体を刺激とし, 汎化能力に対する学習の効果を調べる. カテゴリ間で学習される汎化能力が転移するかどうかを調べることによって, 汎化が物体のカテゴリに対して独立に獲得されるかどうかを検証することができる. また,汎化の拡大が 単に三次元物体の記憶再認という課題そのものに対する習熟によって もたらされるものでないことを同時に明らかにする.

3.1 被験者

21歳〜24歳の大学生及び大学院生20名が被験者として実験に参加した. 各被験者は裸眼または矯正後の視力が0.7以上であった. また,この実験以前にペーパークリップ形状を用いた実験の被験者を経験したものは 含まれていなかった.

3.2 装    置

実験刺激は Apple社のパーソナルコンピュータ PowerMacintosh 8500を使用して作成し, ディスプレイ Apple Color Displayに呈示した. 二つの画像が2台のディスプレイ上にそれぞれ表示され, 各ディスプレイ面上の偏光フィルターを通して 一枚のハーフミラーによって重ね合わされた後,被験者の目に到達する. ディスプレイ面と被験者の両眼との距離は100cmであった. あご台を利用することによって, 被験者の頭部の位置が大きく変動しないようにした.

図:

3.3 刺    激

この実験では二種類のタイプの刺激を用いた. Type 1の刺激は7本の棒と6個の関節からなるペーパークリップ物体である. これは実験1で用いたものと同様である. ただし,この実験ではループ状になっていない,端点のあるものを使用した. Type 2の刺激はペーパークリップと似ているが, いくつかの点で異なる. まず,端点がなくループ状になっており, また関節の数が16個である. さらに,関節の角度に加えて各関節における太さもランダムになるように作成した. 刺激には実験1と同様の方法で陰影を施した. また,左右眼に適切な画像を視距離から計算し,ステレオ呈示を使って呈示した. 被験者は偏光フィルタのメガネを装着することによって 各ディスプレイに表示された画像をそれぞれ異なる目で観察する. よって被験者は陰影,視差情報,遮蔽の手がかりを使い 物体の三次元構造を十分に知覚することができた. 偏光フィルタを通さずに計測した 背景の輝度は , 物体の最暗部の輝度は , 最明部の輝度は であった. 物体の大きさは実験1と同様である.

3.4 手続き

被験者は5名ずつ4群に分かれており, 各群は第1セッションと第2セッションで 実験に用いる刺激の種類の組み合わせが異なる (表[*]). 被験者群AとDは二つのセッションで同じ種類の刺激を用いた ( SAME条件). 被験者群BとCは第2セッションで刺激の種類を もう一方の種類に変更した ( CHANGE条件).


表: 被験者群と刺激の種類の組み合わせ
Group Session 1 Session 2 Condition
A Type 1 Type 1 SAME
B Type 1 Type 2 CHANGE
C Type 2 Type 1 CHANGE
D Type 2 Type 2 SAME

1回の試行は学習とテストからなる. まず学習時には一つの刺激が1500msec呈示され, そして1500msecのブランク画面が続く. 次にテスト時には学習時に呈示されたターゲット刺激またはディストラクタ刺激が 300msec呈示され,被験者はそれが学習時に見た物体であるかどうかを判断し, その確信度に従って4件法で答える. ターゲット刺激は,鉛直方向を軸にして, 学習時に呈示された方向を中心として , , , , , , , のいずれかの角度差で 呈示される. 116試行で1ブロックとし,2ブロック232試行を行った. これを第1セッションとする. さらに,約1週間後に各被験者に対して さらに全く同じ条件で第2セッションの実験を行った. A, D群においては464試行,B, C群についても各セッションの232試行について, 呈示されるターゲット刺激は全て異なるものである. つまり,同じターゲットを2度用いることはないものとした.

3.5 結    果

図:

図:

得られた反応に対して信号検出理論に基づいた分析を行い, 角度差に対する正答率 (true hit rate) を求めた. 得られた汎化の特性を 図[*]に示す. 曲線は実験1の場合と同様にガウス関数でフィッティングしたものである. セッション1の の値に対して, 刺激のタイプとブロックの効果を分散分析によって調べたところ, ブロックに関して有意な効果が見られた ( , ). 汎化の大きさは,第1ブロックよりも第2ブロックの方が有意に大きくなった. 試行を繰り返すことにより, 学習方向から汎化して認識できる範囲が拡大した. 刺激のタイプについては有意な効果は見いだせなかった (図[*]左列).

つぎにセッション2について, SAME/ CHANGEの条件の効果とブロックの効果を 分散分析によって調べた. 図[*]右列で, GROUP A及び D SAME条件であり, GROUP B及び C CHANGE条件である. SAME/ CHANGE条件とブロックのそれぞれについて 有意な効果が見られた ( , ; , ). さらに, SAME/ CHANGE条件とブロックの間に 有意な交互作用が見いだせた ( , ). 図[*]では の値を縦軸にとり, 汎化能力がブロック毎にどのように変化したかを示した. グラフから, SAME条件ではセッション 1で拡大した汎化の範囲が セッション2でそれ以上拡がっていないのに対し, CHANGE条件ではセッション 1で拡大した汎化の範囲が 一旦狭くなってから再び拡大していることが分かる.

3.6 汎化のカテゴリ依存学習

NishinaAnd1996b:shitと同様に, 各被験者群とも,第1セッションの二つのブロック間で汎化の拡大が見られた. 第1ブロックでは の値が約20度から25度程度であったが, 第2ブロックでは約40度から50度にまで広がった. 被験者は何らかの情報を学習し, 結果として認識能力が向上したと考えることができる. 重要なのは,各被験者は個々の刺激を1回しか見ていないにもかかわらず, 汎化の範囲が試行をくり返すにしたがって大きくなっていったことである. これまでにも, EdelmanAnd1989a:stimは個々の物体との親近度が高まるにつれて, 認識の視点依存性が弱まっていくと報告している. 汎化可能範囲が拡大することによって, 結果として視点依存性は減少していくことになり, 我々の得た結果は彼等の結果と同様の現象であるということができる. しかし,Edelmanらの実験では 被験者は同一の物体を何度も観察する機会が与えられていた. そして,被験者は実験の進行とともにターゲットとなる物体の 様々な方向の見えを記憶し, 結果としてどの方向からもよく認識ができるようになったと説明されている. それに対して我々の結果は, 個々の物体を一度しか観察していないという点で彼等の条件と異なっている. つまり,ここで見られた汎化の拡大の原因は, 個々の物体の複数の外観を記憶したことではないと言える.

被験者群AとD ( SAME条件) については 第2セッションの第1ブロックでの汎化の大きさは 第1セッションの第2ブロックよりも大きくなった. しかし,被験者群BとC ( CHANGE条件) では, 第2セッションの最初のブロックで汎化の範囲が 第1セッションの第2ブロックよりも狭くなった. そして,第2セッションの第2ブロックで再び汎化の範囲が拡大している. 刺激の種類が変更されただけで, その他の条件は全く同じであるにもかかわらず,このような違いが起こった. 物体の種類が同じであれば学習が進行するが, 物体の種類が変化するとそれまでの学習の効果がほとんど見られなくなった. これは,カテゴリに依存して学習される汎化能力が, この汎化の拡大の原因となっていることを示している.

結果は同時にこの認識範囲の拡大が タスクに習熟したことの結果だけでは説明できないということをも示している. もしタスクの習熟によるものであれば,物体の種類が変わっても 学習の効果が継続するはずだからである. ただし,有意な差は見いだせなかったが, CHANGE条件のB群,C群ともに, セッション1のブロック1とセッション2のブロック1の汎化の大きさとを比較すると, 若干セッション2の方が拡大しており, タスクの学習による向上も存在していることを示唆している. しかし,主な要因はカテゴリに依存して学習される 汎化能力であると言うことができるだろう.


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日本認知科学会論文誌『認知科学』