日本認知科学会第13回大会プログラム

セッションワークショップ
題目日本語における助詞の脱落を巡って
時間6月22日(土) 17:30〜19:30
会場大会議室

題目
日本語における助詞の脱落を巡って
オーガナイザー
中川裕志 (横浜国大)
外池俊幸 (名古屋大)

概要
我々は、過去2年間にわたって、日本語の意味を中心にしてワークショップを行なってきた。一昨年は「状況依存性」を中心に、昨年は「テンス・アスペクト」を中心に活発な議論が交わされた。そこで今年は、話し言葉に頻繁に見られるいわゆる「助詞の脱落ないしは省略現象」を中心に議論してみたい。この現象を議論するには、そもそも助詞が担っている情報とは何かを追求するという視点が必要である。例えば、ハにしても提題と対比のふたつの意味のうち、どちらの意味で使用される場合により省略されやすいのか、などという問題が提起できる。つまり、日本語の文は全て助詞が明示された形が本来形であり、省略や脱落はその本来形からの引き算と考えるアプローチである。これに対して、本来話し言葉では助詞はなくても情報伝達はかなり可能であり、助詞をわざわざ使用するには、逆に何か特別な意味があるという考え方もできる。このような視点の差は、計算機で日本語を扱う場合にかなり異なるシステム設計方針をもたらすであろう。以上のような観点から、表題に示すように日本語の助詞の脱落現象を巡る議論をすることにかなり大きな意義の見い出せる状況であろうと判断し、このワークショップを企画する次第である。
歴史的にみた「格助詞」の機能
金水 敏(神戸大学文学部)

古代の日本語では、よく知られているように、主格・目的格は「助詞無し」が常態であり、「が」「を」等はむしろ特殊な機能を持っていた。その機能は、ある意味で「冠詞」のようであったり、「感動詞」的であったりする。それが「格」を表示するように見えてくるのは、文法史的な変化であると同時に、文体史的な要請であるとも考えられる。本発表では、「格助詞」の歴史的変遷を参考にしながら、話しことば文法と書き言葉文法を分離し、前者では主格・目的格は「助詞無し」を常態とする、という提案を行う。

話しことばにおける無助詞格成分
丸山直子(東京女子大学 文理学部)

話しことばにおける無助詞格成分について、書き起こしデータの調査結果を報告し、格の認定法と無助詞の機能について考察する。無助詞の格成分には二種類のもの(小さな結合と大きな結合)がある。小さな結合の格の認定は、述語の結合価から比較的容易になすことができるが、大きな結合は、ハによる主題化に似て、格関係を超えたものになりやすい。ならば大きな結合は、ハによる主題化とほぼ同一視できるかというと、そうではない。全く異なる性質をもつ。話しことばの断片性とも関わりが深い現象である。また、格成分には、ハ以外の係助詞を伴ったもの、副助詞を伴ったものも存在する。それらを総合的にどう捉えたらよいか、時間が許せば言及する。

主語に「は」も「が」も使えない文
尾上圭介(東京大学 人文社会系研究科)

助詞なしでも意味が通じるということは一般にあるが、それとは別に、ある文で、助詞ゼロであることが、積極的に必要な場合がある。文の主語の助詞をゼロにした場合の意味が、「は」を用いた場合とも「が」を用いた場合とも、異なるという特別な領域の存在を指摘し、それを大きく3つのグループに分類する。

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