オーガナイズド・セッション

OS01: 行為と活動から「理解」を考える

オーガナイザ:坂井田瑠衣(公立はこだて未来大学),名塩征史(広島大学),遠藤智子(東京大学)
公募:なし
概要:
 理解(understanding)とは,認知科学をはじめとする様々な学問分野において広く探究されてきた研究対象である.多くの認知科学的アプローチにおいては,理解を個人内に閉じた認知的・私的なものと捉えるのに対し,社会学の一派であるエスノメソドロジーに端を発した相互行為論的アプローチにおいては,理解を他者とのかかわりに埋め込まれた相互行為的・公的なものと捉える.こうした相互行為論的アプローチにもとづいて,理解がいかにして相互行為のなかで,また相互行為をとおして達成されるかが研究されてきた(Mondada, 2011; Schegloff, 1992など).
 本OSでは,こうした相互行為論的アプローチを基盤としつつ,「行為」と「活動」という2つのキーワードを手がかりとして,「理解」をより多面的に考えることをめざす.ここでの「行為」とは,主観的意味が込められ他者のふるまいが考慮に入れられた行動(いわゆる「社会的行為」)のことである(串田 他, 2017).また「活動」とは,ある目標の達成という動機に貫かれた一連の行為による有意味で能動的な実践のことを指す(高梨・坂井田, 2022).
 人は相互行為において,相手が想定していることやその場でなすべきことなどを,取り立てて確かめなくとも「わかっている」という側面がある.人は自分と相手の社会的関係や各々の成員性,制度的な慣習などを手がかりとして,相手や場面について(少なくともある程度は)「わかっている」ことを前提にし,それを参照しながら「行為」を産出しあい,「活動」を組み立てていく.相互行為とは,このような潜在的に「わかっている」ことに支えられながら「行為」が交わされ,それをもとに多様な「活動」が展開される場である.
 他方,人は他者との相互行為において,相手の発話や身体動作などを手がかりとして,相手が何を考えているのか,何を言おうとしているのか,自分に何をしてほしいのか,といったことを「わかろう」と試みるものでもある.人はしばしば「わかった」こと,あるいは「わからなかった」ことを,発話や身体動作を用いた「行為」によって示しあいながら,一連の「活動」を組織していく.相互行為とは,そうした「わかる」ことにかかわる相互交渉のプロセスとしても見ることができるだろう.
 これらをまとめると,以下のような2種類の「理解」を想定することができる.
• 相互行為における「行為」の産出や「活動」の展開において,その前提として共有されている理解(「わかっている」こと)
• 相互行為の参加者のあいだで,互いに観察可能な形で産出される「行為」をとおして達成され,「活動」の展開に寄与する理解(「わかる」こと)
 もちろん,これらの2種類の「理解」は完全に独立なものとは限らない.「わかる」が積み重なることで「わかっている」が確立されていくこともあるだろうし,「わかっている」が不完全な場合に「わかる/わからない」が取り沙汰される,といったことも生じうるだろう.
 本OSでは,このような「理解」についての2つの見方を念頭に置きながら,3名の発表者が,様々な社会的場面における相互行為を微視的に分析することで「理解」について考察する研究発表を行う.それらの発表内容を出発点として,上記のような2種類の「理解」を想定することが,理解という研究対象を今後さらに多角的に「理解」していくことに貢献しうるかどうか,参加者とともに考える機会としたい.

OS02: 実践的研究の現在―文化的実践における認知研究の相互理解に向けて

オーガナイザ:土倉英志(法政大学),郡司菜津美(国士舘大学)
公募:1件
概要:
■本企画の目的
 本オーガナイズドセッション(以下、OS)では、「文化的実践における人びとの認知」に関心を寄せる研究の相互理解をうながし、「議論のプラットフォーム」の構築を模索することを目的とする。本企画は2020年に初めて開催され、多くのかたに参加していただいている。今回はとくに実践的研究に焦点をあてて、先の目的を追求したい。

■本企画で焦点をあてる実践的研究
 認知科学領域においてこれまでさまざまな「実践的研究」が展開されてきた。オーガナイザーのひとりである土倉は、原田・土倉(2023)において、『認知科学』誌に掲載された実践的研究の多義性をふまえてその見取り図を描いている。
 本企画ではそうした多様な実践的研究のうち、研究者が現場(フィールド)に介入しているという意味で実践的な研究に焦点をあてたい(以下ではこうした研究を実践的研究と呼ぶこととする)。たとえば、家庭や職場に新しいアーティファクトを導入し、活動の「質の向上」を目指す研究、市民と協働で新たな活動を企画・実行する研究、社会課題の解決を志向した研究などを想定することができる。他にもさまざまな研究が展開されているに違いない。

■実践的研究における価値志向性と生態学的に妥当なインパクト
 実践的研究は、フィールドに介入し、よりよくする/なることに関心をもつという意味で、価値志向的なスタンスをとる。このスタンスは、価値中立を目指し、対象者になるべく影響を与えないようにその姿を捕捉しようとするスタンスとは異なる。また、フィールドワークにおいて自らの存在が否応なしに対象者に影響を与えてしまうことに自覚的になる研究スタンスとも一線を画す。実践的研究では、何らかのねらいをもって(時としてそのねらいは現場に揉まれるなかで変わっていくこともあるのだが;土倉(2020))、積極的に関与するスタンスをとる。
 こうした姿勢は、いわゆる科学的アプローチを念頭におくと邪道に見えるに違いない。ところが、私たちの周囲で起こっている現象や出来事にその水準で迫り、さらに生態学的に妥当なインパクトをおよぼすことに関心をもつとき、その見え方は異なる。生態学的に意味のある働きかけを行ない、その影響を介入方法とともに精査する手法は有効な手段となる。

■実践的研究とデザイン
 ところがフィールドや課題の特質に強く依存する実践的研究は、共通の方法論を思い描くことが難しい。そこで、ひとつの補助線として、デザインという視点を採用したい(e.g.有元・岡部,2013)。
 デザインを、人びとの認知や行為のあり方について、そのいとなみに意味のある水準で影響をおよぼす行為とみることができるだろう。そのように考えれば、実践的研究において人びとのいとなみを「よりよいもの」とすることを目指すとは、いとなみを新たにデザインしたり、リデザインしたりすることと言い換えることができる。それゆえに、デザインの専門家による社会を志向した活動は、実践的研究に重要なヒントを与えてくれる(e.g. 伏見・須永,2022;上平,2020;須永,2019)。このような視点をとることで、実践的研究の枠組みをすこし広めに設定し、実践的研究という概念自体についても理解を深めることができると考える。

■実践的研究の知とは
 また、実践的研究で得られる知見は法則定立的な研究で得られる知とは異なる特徴をもつ。それでは、その知はどのようなもので、いかなる意味があると言えるだろうか。OS参加者が相互に経験を語りあい、知恵を出すことで、その価値を吟味することは有用と考える。

■本セッションのねらい
 以上のとおり、本セッションでは、私たちが文化的実践をいとなんでいる水準で、それをよりよいものにしようと介入を試みる実践的研究に焦点をあてる。実践的研究が大々的に取り上げられることは多いとは言えない。そこで、関連する研究に関心をもつ研究者が集い、その関心の所在や取り組みの工夫を共有することを目指したい。
 公募発表ではこれまでに記したような実践的研究や関心を共にする研究を募集する。また、本OSではグループワークを取り入れながら先のねらいを探究していく。本OSは教育環境のデザイン分科会(DEE)が主催する。

OS03: 「愛」の定義を拡大する - 生物学的基盤からナラティブまで –

オーガナイザ:高橋英之(大阪大学大学院 基礎工学研究科),岡部祥太(自治医科大学医学部 神経脳生理学部門・応用倫理学研究室),山縣芽生(大阪大学大学院 人間科学研究科)
公募:なし
概要:
愛とは,我々にとって非常に重要な概念でありながら,その定義には多様性がある.「愛」は我々に時として喜びを与える一方,「毒親」や「DV」といった偏狭な愛の捉え方により,苦しみや孤独が生まれることも多々ある.社会における「愛」のありかたを学際的に議論し,「愛」の定義を拡大していくことは,我々がより生きやすい社会につながるきっかけになると期待できる.今回のオーガナイズドセッションでは,生物学,心理学,ロボット学,拡張現実・VRを専門とする研究者が学際的に集まり,「愛」という概念の多様性について様々な学術的知見を通じて議論を行う.そして招待講演者として,ノンフィクション作家であり,人間と動物の性愛関係のルポタージュ「聖なるズー」(第17回開高健ノンフィクション賞受賞)の著者・濱野ちひろ氏をお呼びして,22世紀の新たな愛の形についてフロアも交えて議論を行えたらと考えている.オーガナイズドセッションのファシリテーターとして,神経美学を専門とする石津智大先生をお呼びする.今回のオーガナイズドセッションを通じて,「愛」の可能性を拡大した新たな学際領域を創成することを目指す.

OS04: 言語景観と名辞における多言語の交錯:認知環境と認知エージェントのインタラクション

オーガナイザ:原田康也(早稲田大学),森下美和(神戸学院大学),伊藤篤(中央大学),平松裕子(中央大学),福留奈美(東京聖栄大学),佐良木昌(明治大学)
公募:2件
概要:
発表者たちは、これまでの日本認知科学会大会において、各年のテーマによって一部メンバーを調整しつつ、2016年度から合計5回(2016、2018、2019、2021、2022年度)、継続的に「観光」「言語」「食」についてのOSを企画してきた。日本認知科学会大会でのOSと関連して、電子情報通信学会思考と言語研究会やJWLLP: The Joint Workshop on Linguistics and Language Processingなどで「言語景観」「言語接触」「意味の創発」「エージェントと意味環境のインタラクション」などを中核として研究セッションを開催してきた。食と言語については、Dan Jurafsky の著作以降、世界的にも言語研究者の間で大きな関心を引き寄せており、複数の文化・言語にまたがる変化もまた大きな研究テーマである。これまでの日本認知科学会大会OSでは、主に COVID-19 の影響下での観光のあり方について提案してきたが、2023年度はCOVID-19によって変化した世界における「観光」「言語」「食」の関係性について、改めて議論したいと考えている。

原田「Z の悲劇:名辞と認知」(基調講演)
「ポルシェ」を「車」と呼び変えるのは日本の「公共放送」に限らず英語圏でも見受けられる模様である。コスタガ=ブラス監督の映画「Z」では、ある政治家の死亡について担当予審判事が当初は「事故」と言及、途中から「事件」を使い、最後は「暗殺」と断定するという名辞の変化が映画のストーリー展開の中核をなしていた。固有の「商品名」を避けるために始まった「化学調味料」という表現の使用が化学的に合成された健康に有害な食品というイメージにつながり、そのイメージの回復に「うま味調味料」という名辞を普及させる努力が必要となった事例も思い起こされる。こうした事例をもとに、名辞がもたらす前提操作について検討してみたい。

森下「マイクロツーリズムにおける言語景観:インバウンド観光復活に向けて」
昨今では、移動による人流をできる限り避け、温泉や自然散策など3密にならない楽しみ方を選択するというマイクロツーリズムが浸透しつつあるが、今後インバウンド観光が復活したときにも、この考え方は有効であると思われる。ある地域ならではの食事や食文化を楽しむことを目的にした観光(いわゆるフードツーリズム)は欧米では広く普及しており、食はマイクロツーリズムにおいてなくてはならないものである。たとえば日本酒は、全国の都道府県で製造され、地域の特色に応じた地酒が存在し、蔵元見学なども観光のコンテンツとなっている。日本人の欧米志向により日本国内での日本酒消費量が減少しているため、製造者である蔵元の数が減少し、伝統的な技術製法やノウハウが失われつつある一方で、海外では、日本食ブームが起こり、寿司と日本酒を楽しむことが世界中に広まってきている。したがって、このような食のコンテンツはインバウンド観光との相性が良いと予測できる。アフターコロナもしくはウィズコロナの環境下において、どのような点が2019年以前と異なるか、これからのインバウンド観光向けにどのような対応をすべきかについて、言語景観の観点も交えて議論する。

伊藤「食とナラティブとメタバース」
AI / VR / メタバースが取りざたされる現代における人と人とのインタラクションの重要性が問われている。これを本OSでは、食をテーマに検討してみたい。
料理を食べるという行為において、我々は五感をフルに動員している。そして、その体験・感覚をすくい取り、言葉に変換し、物語を構築し、ひとに伝える。また、その料理をつくるにあたり、料理人と生産者の関係から生まれる物語から始まって、その生産物のなりたちと流通の経路も含め、複雑な物語がつくりだされる。これまでは、これを構成するものは言葉であり画像であったが、メタバースは、この物語の構築と伝達と理解を容易にするのに有用だろうか?

平松「言語景観に表れた文化的認識の相違及び標準化」
街中に展開される言語表記には記載者本人も気づかないだろう文化的特性の表出がある。同じ対象に関してどう表記がされているのか、日本語と英語を比較し、歴史的展開を踏まえながら差異を明らかにする。菓子の名や沿道に展開される地図など、具体的な調査結果をもとにこれからの言語景観の展開に向けて考察する。

福留「異文化の伝来と浸透における食物の名辞とその変化」
ロングパスタをスパゲッチ、ショートパスタをマカロニと総称していた1950年代から、いまや60種類以上のパスタがスーパーマーケットで固有の名称で売られ、各種ソースで食べ分けられる時代となった。中国・四川の地方料理である麻婆豆腐は、日本に伝来し「辛くない」「四川風」「広東風」等と修飾される多様な味わいに生まれ変わり、受け入れられている。異国伝来の食品・料理が受容・変容・浸透・再編成される中で、それらをとらえる名辞は変化し、より細分化していくと考えられる。本発表では、具体的な食物と呼称の事例から、食と命名の諸相をとらえる。

佐良木「名辞と翻訳」(招待講演)
対象についての認識が明晰になるに伴い、対象を捉える概念規定も深まる。その深度に応じて対象を表す名辞も替わる。例えば、遠くから何かを認めてひとまず物だと思い、それが近づいてきたときに今度は動物だと分かり、接近したときに馬だと見きわめることができ、さらに近くに寄ってきたときには栗毛だと判断できる(エーコ)、といった体験は誰にでもある。「働くことが値打ちを生む」と直に表すところを、概念的に表現すると、「労働が価値を生産する」となる(マルクス)。これら二例は、対象認識の深まりに応じて表現が換わるという言語の多相的特質を示している。同じ対象を指示するのに、異なる名辞があるということは、一つのものを多くで表す、「一即多」ということである。他方、多くのことを一つの名辞で表すことを、「多即一」と云う。多即一は意味において、一即多は表現において、言語の統一性を示している。異なる言語間における翻訳は、表現構造の相違にもかかわらず、意味的同一性を他の言語で実現する。特に言語系統的にも文化的にも断絶した言語間に於ける翻訳とは、異なる言語の間に、意味的等価の関係を作り出す表現行為である。異なる類の間に橋を架けるとも言いうるだろう。

OS05: インクルーシブ社会実現に向けた認知科学―当事者研究・現象学・予測符号化

オーガナイザ:熊谷晋一郎(東京大学先端科学技術研究センター),勝谷紀子(東京大学先端科学技術研究センター)
公募:2件
概要:
2022年9月9日に国連障害者権利委員会から日本政府へなされた勧告(総括所見)では、精神科病院に入院している障害者のすべてのケースを見直し、無期限の入院をやめ、インフォームド・コンセントを確保し、地域社会で必要な精神保健支援とともに自立した生活を育むよう指摘された。その背景には、世界の精神科病床の約20%が日本にあり、日本の精神科の平均在院日数が285日にもなるなど、精神障害者への隔離政策が改善していない我が国の精神保健サービスが抱える課題がある。
こうした隔離の背景には、精神病経験に対する差別偏見と、それを追認してきた専門知の影響がある。石原(2013)は、精神病経験を含む多様な経験を解明しようとしてきた従来の現象学的精神病理学が、非定型な経験を安易に「病理」としてとらえてきた事実を批判した。その上で、非定型な経験を持つ当事者や、当事者と関わる他者が、それらの経験を病理ではなく多様性のひとつとして共に探求する「現象学的共同体」という概念を提唱し、その具体的な実践として当事者研究を解釈した。
またオランダでは1980年前後から、幻聴という経験を無意味な取り除くべき病理ではなく、当事者が抱える現実の困難や葛藤、そして、彼らを取り巻くローカルな文化の状況を反映する有意味な体験として尊重し、その意味やつきあい方を対話的に探求するヒアリング・ヴォイシィズ・ムーブメント(HVM)という共同体的実践が誕生し、国際的に広まりつつある。こうした当事者主導の実践は、隔離政策の解除や精神障害者の地域移行を後押しきてきた。
近年は、当事者研究やHVMのような、脱病理化(normalizing)アプローチに基づく現象学的共同体の実践と、予測符号化理論との共同が始まっている。例えばPowersら(2018)は、予測符号化理論に基づく精神現象の理解は、正常と病理の境界をなくす点や、生物・心理・社会、あるいは最小自己(minimal self)・物語的自己(narrative self)・社会的自己(social self)という異なるレイヤーの相互作用を統一的に記述できる点でHVMと相性がよく、当事者研究者と予測符号化理論の専門家の共同の重要性を提案している。日本でも長井、綾屋、熊谷らが、2014年頃より、自閉スペクトラム症研究において当事者研究と予測符号化理論の架橋を試みてきた。
とくにPowersら(2018)は、個体内の階層的予測符号化過程の最高次にあり、社会文化的なナラティブコミュニティと相互作用をする階層として「ナラティブ(物語的自己)」を位置付けるHirshら(2013)のモデルを引用しつつ、幻聴が当事者にとって切実な経験になる理由のひとつが、ナラティブの階層において生じる不随意な現象であるからだと述べている。またPerrinら(2020)は、ナラティブに特有の認知的気分(cognitive feeling)として「過去性」「特異性」「自己性」などを挙げているが、先行研究によるとトラウマ記憶ではこれらの気分が減弱しており、物語的自己の変容が示唆される。これらは、予測符号化のなかでも特にナラティブの階層に注目することが、個体と社会の相互作用や、当事者の語りを研究に包含するためだけでなく、臨床的な介入点としても重要であることを示唆している。
このように、正常/病理、最小自己/物語的自己/社会的自己といった分断を越える研究が、現象学的共同体と予測符号化理論の共同によって始まりつつある。本企画では、ダイバーシティ&インクルージョンを共通の価値とする現代において求められるこうした認知科学の動向を象徴する事例として、当事者研究を通じた幻聴体験やナラティブ(コミュニティ)の変容を質的に研究している勝谷、自己認識の現象学的検討を行う宮原、階層的予測符号化理論の枠組みのもとで最小自己と物語的自己を媒介するレイヤーとして自己イメージを位置付けバーチャルリアリティ(VR)を用いた経験的研究で迫ろうとする鳴海、トラウマ治療の領域で物語的自己の統合技法としても注目される自己感覚の基盤としての内受容感覚への注意配分(相対的精度)の増大効果について、予測符号化理論を用いて実験的に検証してきた晴木を登壇者として招き、人権遵守とインクルーシブ社会の実現を後押しする認知科学について検討する。

OS06: 人とAI・システムとの相互作用が織りなす創造性

オーガナイザ:清水大地(神戸大学),石黒千晶(聖心女子大学),清河幸子(東京大学)
公募:2件
概要:
企画趣旨
創造性は,これまで認知科学において大きな関心を集め,行動実験,神経科学的検討,計算機モデリング,フィールドワーク,インタビューなどの様々なアプローチにより,洞察,アイデア生成,芸術,デザイン,発見等,関連する様々なテーマに関する知見が蓄積されてきた。こうした研究によって,創造性を促進・妨害する要因や生起メカニズムなどが徐々に明らかにされつつある。一方で,近年はネットワークで繋がった大規模集団による相互作用,人とAIとの相互作用といった形で,現代の情報技術を積極的に活用した創造活動も活発化している。このような新しい現象や営みはヒトの創造性のあり方にどのような影響を与えるのだろうか。本OSでは,人とAI・システムとの相互作用によって生じる創造に実際に携わっている創作者や開発者に具体的な事例を紹介してもらいながら、そうした営み・現象をどのように捉えることができるかについて議論する。OSを通じて、創造性を発揮する主体やそれを促す他者や環境との相互作用について、従来の枠組みを拡張する新たな視点を得ることを目指す。

目的
 AI・システムとの相互作用によって生じる創造活動を捉えるための枠組みを検討し,参加者の今後の研究発展につなげることを目的とする。

タイムテーブル(仮)
・企画趣旨:5分
・招待講演1:30分(25分講演+5分質疑)
・招待講演2:30分(25分講演+5分質疑)
・公募発表1:15分(10分発表+5分質疑)
・公募発表2:15分(10分発表+5分質疑)
・全体討論:25分

OS07: 構成という活動とそのメカニズム:創発的活動における構成について考える

オーガナイザ:荷方邦夫(金沢美術工芸大学),青山征彦(成城大学),田中吉史(金沢工業大学),長田尚子(立命館大学),猪股健太郎(熊本学園大学)
公募:3件
概要:
本OSでは、デザインや創造といったヒトによって生み出されるものと世界を、構成という視点から改めて捉え直すものである。構成はコンストラクション(construction)やコンポジション(composition)という少しずつ異なる概念で指し示される。またわれわれはこれを「仕組み」・「プロセス」・「関係」・「メカニズム」・「構図」といったさまざまな言葉で表現するが、いずれをとっても知識や要素が、一つのまとまりを持って存在・機能する、あるいは表現されることを意味している。
 デザインや創造について語るとき、時として生み出されたものや世界の表現に目を奪われやすい。しかしこれらは、先に述べたような世界の認知的構成や社会的構成によって成り立っている。そして構成はヒトが外に向かって何をか生み出し、それによって適応や喜びを得るという創発的な活動の内外に必ず存在する。知識や要素が、一つのまとまりを持って存在・機能するという「構成」を考え、議論することで、われわれが取り組む創発的活動とは何かを明瞭にしたいと考える。
 今回のOSでは、それぞれの研究の中で、それを規定しているであろう構造やインタラクションといった、構成的な存在、あるいはその役割や機能にフォーカスをあてた研究であればどのような試みも喜んで歓迎する。具体的なフィールドとしては、ものづくり、教育、生産を伴う社会的関係や組織、芸術、生活など、幅広いフィールドからの研究を期待する。

OS08: このまま死ねるか:知の継承を捉えなおす

オーガナイザ:小橋康章(無所属の非職業的研究者),齋藤洋典(名古屋大学名誉教授),青山征彦(成城大学教授)
公募:1件
概要:
 主に高齢の研究者が散逸してしまうことを防ぎ、彼らを学会内に温存するだけでなく、彼らの社会的、認知的な諸条件に適した学会活動を実現するため、「いまだからこそできる」研究や周辺活動の具体的な方法について衆知を集め、大会会場の内外をつないでともに検討する。
 寿命が 100 年にもなろうという中、職業的な研究者が 65 才で現役を離れ、人生の残りの三分の一をどう使うのかという問題が生じつつある。高齢者の属性は分散が大きいのが特徴だが、高齢の学会員の中には健康上、経済上等の理由で遠隔地への移動が不自由な場合もあり、これらの問題に対処する方法の検討も必要である。
 高齢化の進展とともに必ずしも業績の追求を求められない自由な立場の研究者が誕生していくものと予想される。このことにはプラスもマイナスもあると思われるが、学会活動の本来の目的に即しつつ、あえて伝統的な方法に縛られない学会の在り方を検討し、限られた時間を前提とする研究や周辺活動の内容、高齢者の社会的認知的制約を克服する情報技術的な方法などについて衆知を集め、当事者としてともに検討したい。とりわけ環境の変化と共に変質する(記録としては残るものの周辺情報が失われる)知の継承はその是非も含めて捉えなおし、世代間を繋ぐ活動の一歩としたい。

OS09: 認知の能動性 ―ゲシュタルト心理学、環世界、状況依存性‥‥を切り口として

オーガナイザ:諏訪正樹(慶應義塾大学環境情報学部),藤井晴行(東京工業大学環境・社会理工学院)
公募:なし
概要:
 実世界のなかで生き、行動し、学ぶひとの認知の重要なイシューのひとつは、認知が実世界に相対するときに発揮する能動的なインタラクションである。認知する行為主体は、知覚と行動を通じて実世界とインタラクションを行う。
 知覚一つをとってみても、それは実世界の存在する無数の信号をただただ受身的に処理して知覚像たる脳内表象を形成する行為ではない。大半の信号は無視していても自身にとって意味ある信号(たとえば自身の名前)に対しては選択的に反応するというカクテルパーティー現象や、「幽霊の正体見たり枯れ尾花」のように単なる柳が時と場合によって幽霊に見えたりする現象は、まさに認知の能動性を示す事例である。
 ゲシュタルト心理学、環世界、状況依存性などの過去に提唱されてきた理論はいずれも、そうした認知の能動性についての主張を核として有している。
 認知科学はその誕生以来、心理学、人工知能、社会学、哲学などの境界領域に位置する学問であることを是とし、これまでに多様な観点・モデル・理論が提唱されてきている。本OSの目的は、さまざまな観点・モデル・理論を世に問うてきた研究者を招き、各研究者が立脚する理論や観点において認知の能動的インタラクションをどう捉えているかを披露し、議論し、認知科学の学際的発展に寄与することを目的とする。
 オーガナイザー2名を含め、合計6名の研究者(招待)が登壇し、認知の能動性についての主張を発表する。その後はフロアを巻き込んで登壇者全員でパネルディスカッションを行う。登壇者は7月にアナウンスする。

OS10: 構成主義的な授業を受けた子どもたちは,大人になって何を覚えているか~LOGO,仮説実験授業,知識構成型ジグソー法授業を例に~

オーガナイザ:齊藤萌木(共立女子大学/教育環境デザイン研究所),白水始(国立教育政策研究所/教育環境デザイン研究所)
公募:1件
概要:
構成主義的な授業を受けた子どもたちは,大人になって何を覚えているのだろうか? 本OSは,小中学校において学習者が自ら知識を構成する学び(構成主義的な授業)に従事した成果を,授業から数年・数十年後に追跡調査することで,超長期経過後の学習成果の保持・活用実態を明らかにする.OSは,構成主義的な教育3例(プログラミング教育,仮説実験授業,知識構成型ジグソー法)に関する検討結果を公募発表一件と併せて聞き,フロアとの議論で,実態に関する知見統合と研究方法論の深化を図る.OSの狙いは,認知科学等を基盤とした革新的教育方法の成果について,その実践の蓄積を基に検証することで,新しい評価手法に基づく学習理論の改訂可能性を見い出すところにある.

OS11: 自己と身体の相互構築とプロジェクション

オーガナイザ:鈴木宏昭(青山学院大学),田中彰吾(東海大学)
公募:なし
概要:
 本OSはプロジェクションという観点から、自己がどのように成立するのか、また発達・進化・仮想化の過程で身体はどのような変化を遂げるのかを検討しつつ、新たな認知研究のフレームワークを探求することが目的である。
 自己と身体が一体となっていることは身体性認知科学が提供した重要な知見である。一方、身体は成長、発達の過程、また進化の過程で変化している。こうした変化が自己の概念の変更につながっている可能性がある。また人間は心の発達に伴い自己概念も変化させていく。こうした身体的な自己概念の変化が身体的自己を変化させる(例えばジェンダー概念のように)。加えてVR/ARテクノロジーは、自己を別の身体へと投射することを可能にしている。こうした過程では逆に、仮想身体との同一化を経由して心、自己にも変化が見られるはずである。このように、身体と自己はさまざまな意味で相互構築の関係にあると考えられる。
 2016年から本学会で研究活動を展開しているプロジェクション科学は、上記の探究にとって有用な概念装置(異投射、虚投射、バックプロジェクション、重ね描き等)を有している。この中で自己、身体とプロジェクションの関係については、これまでにも研究が重ねられてきた。ただし、これまでの研究ではその成立過程について触れられることは少なかった。
 そこでプロジェクションの観点から、こうした心と身体の相互作用的構築過程について、VR/ARテクノロジー、発達心理学、進化人類学、現象学の知見を持ち寄り、それとプロジェクションとの関係を検討することが本OSの目的となる。