プログラム

TBA

オーガナイズドセッション

今大会においても例年同様にオーガナイズドセッション(OS)を行います。 日程の予定は以下の通りになります。
  • オーガナイズド・セッションの重要な日程(予定)
    • OS募集締め切り 1月10日(金)(終了しました)
    • OS採否通知1月31日(金)(採択OSは下記をご参照ください)
    • 発表申し込み締め切り5月29日(金)(終了しました)
  • 会期中のOS日程
    • 9月17日14:00~16:00  
    • 9月18日17:00~19:00  
    • 9月19日16:00~18:00

OS01: 創造性のキワをつかむ

オーガナイザ:清水大地(東京大学),石黒千晶(金沢工業大学),寺井仁(近畿大学),清河幸子(名古屋大学),阿部慶賀(岐阜聖徳学園大学)
公募:なし
概要:
■企画の目的
 認知科学では、新しいアイディアやプロダクトを生み出す創造性のメカニズムを明らかにするため、フィールドワークから実験などの手法、神経生理遺伝までの様々なレベルから研究が行われてきた。特にアイディア生成は創造の起点となる場合が多く、創造性研究のキモというべき部分と言える。しかし、研究が発展するにつれて、アイディア生成という創造性は知能や類推などの認知能力との関連が色濃く見え始め、「創造性のキモ」を掴んでいるつもりでありながら、「人間の認知のキモ」に立ち戻っているようにも思われる。
 これまでの大会で開催したOS「創造性のキモをつかむ」では多様な分野の創造性のキモを集め、創造性のとらえ方や創造性促進のための要因・条件について議論してきた。本OSでは創造性のキモに対して、キワとなる部分が何かを考えながら改めて創造性を構成する要素について考える。そして、それらが創造の領域や背景によってどのように異なるのかについても考えたい。
 様々な背景の研究者が創造性のキモとキワを探るときに、共通する、あるいは、全く異なる創造性のイメージが立ち上がり、新しい研究の展開が生まれることを期待する。
 本OSは認知科学における創造性研究から認知科学の枠に収まらない様々な創造性関連分野の研究者とで創造性のキモとキワを議論することを目的とする。OSの前半では、2つの異なる分野の研究者を招致する。具体的に1名は神経美学の研究者,もう1名は創造性に関わる教育研究者を予定している。神経美学は作品を評価する過程に焦点を当てているが、同時にその知見は創造性を感じ取り抽出する過程を理解する上で不可欠と考えられる。また教育現場の知見は子どもから大人までの創造性発達をリアルに描きだし、創造性を育むという難しい課題に向き合う機会を提供してくれる。これらの分野から立ちのぼる創造性のキモ・キワについて提言いただく予定である。さらに、OS後半では認知科学領域の創造性研究者2名が話題提供しながら、近年の創造性研究の展開を概観する。そして、各研究者が考える創造性のキモ、あるいは、キワに関わる問題提起や考察を深めながら、創造性の認知科学研究が今後追求すべき方向性を探る。

OS02: 認知的インタラクションフレームワークの構築

オーガナイザ:坂本孝丈(静岡大学),大澤正彦(慶應義塾大学),市川 淳(神奈川大学)
公募:なし
概要:
■企画の目的
 本 OS では,人が関わるインタラクションを研究するうえで研究間の共通の基盤となり得るフレームワークとして,認知的インタラクションフレームワーク(以下, CIF )の構築を 目指す. ここでいうCIFは人が行うインタラクション全体の概念的な構成要素と構成要素間の関係を記述したものである.
 インタラクション は 一方の行動が他方の反応を引き起こすだけでなく,その反応が別の行動の要因となり新たな反応を引き起こす,というような時間的 側面を持つ しかし ,インタラクション研究における既存の 研究 手法の多くは,インタラクション後に行われる質問紙調査や実験条件間の行動データの比較 が中心であり ,行動や行動の原因となる内部状態の時間的な変化についてはほとんど扱われていない. 特に,人が関わるインタラクションでは,インタラクション当事者が対象の振る舞いを予測し,内部状態の推定を行いつつ,行動し得るため ,ある実験操作がインタラクションにどのような変化を及ぼすのかを予測することは困難である.
 これに対して,ある変数の時間的な変化を扱うため手法として数理モデルや計算モデルに基づきシミュレーションを行い検証する方法が有用である.このとき 単に人の 行動を再現できるだけでなく,本来観測することが難しい内部状態の変化について説明可能なモデルを構築することが望ましい. すなわち,シミュレーション上で扱われる変数や演算が実際の人の行動や認知プロセスと充分に対応づけられている必要がある.
 そこで本OS では, インタラクションに関する研究間の接続を可能にする共通のフレームワークとしてCIFの構築を目指し,OS提案者による原案の提示と研究事例 の紹介,議論を行う.CIFにより記述する対象は, 身体的なインタラクションから,他者モデルに基づく相手の行動の予測や内部状態の推定を伴うインタラクションまでを含む.そのため,CIFは可能な限り単純かつ抽象度が高い記述として数理モデルとして記述されることが望ましい.
 具体的には計算機シミュレーションができる程度に抽象度が高く,かつ,心理実験に落とし込めるように変数や演算の解釈の可能性が担保されている必要がある.また,CIFが共通のフレームワークとして機能するためには, 各研究結果や関連研究に基づく議論を通して理論的検証 (前提条件の追加や適用範囲を拡張するための修正等)を継続的に行う必要がある.本OSの取り組みを通してCIFを構築・精緻化することで,インタラクション研究における一般理論の構築への寄与が期待される.

■本大会のOSとして開催する意義,必要性
平成 26 〜 30 年度 文部科学省 科学研究補助金 新学術領域研究(研究領域提案型)採択課題「認知的インタラクションデザイン学〜意思疎通のモデル論的理解と人工物設計への応用」では,他者の心的状態のモデルである他者モデルの 理解やアルゴリズムの実装が目指された.同課題において優れていた点は,成人,幼児,複数種の動物,人工物といった多様なインタラクション研究に携わる研究者が集まり,多角的に本質的な他者モデルの原理について議論が行われていたことである.しかしながら同課題終了時点で,アルゴリズムレベルでの他者モデルの理解・実装が完了したとはいえない.
 同課題において広く合意される他者モデルが完成しなかった要因として,多くの領域で合意される共通言語やフレームワークの整備が十分でなかったことが挙げられる.そこでOS提案者らは,他者モデルやその前提となるインタラクションフレームワークを,長期的な視点で整備する仕組みが必要と考えている.
 本OSでは,開催に際し事前に叩き台となる認知的インタラクションフレームワーク (CIF)を提案する.OS当日には,提案されたCIFに関連する心理実験, 計算機シミュレーション実験,理論研究といった多様な研究発表と,多様な分野の専門家を招いた議論を行う.そしてOS終了後に,当日の議論を踏まえCIFの改良を行う.同様なOSを繰り返し開催することができれば,徐々に CIFが広く合意が得られるよう,精緻化されることが期待できる.

■このOSを通した発展性
 本OSでは,数理モデルレベルのフレームワークを導入することで議論の発展が期待される研究事例をいくつか紹介し,領域の垣根を越えて会場全体で議論を行い,まずはCIFの共通理解や一般理論の構築を目指す.議論に参加するにあたって,数理モデルの記述に関する事前知識や経験は問わない.さらに,若手研究者の積極的な議論の参加を歓迎する.また,次年度以降,継続的にOSを企画することを予定している.中・長期的な議論により,洗練されたCIFの構築と利用が見込まれる.

■このOSが果たす認知科学研究全体への貢献 寄与
 認知科学は学際的であるものの,異なる領域,アプローチの研究者が連携することは必ずしも容易であるとは言えない.CIFの提案,理論の構築を通して,特に人の行動を計測して分析を行う立場の研究者とモデルシミュレーションを行う立場の研究者の橋渡しが実現されると考えられる.他者モデルの解明と応用,そして認知科学の研究全体への貢献は極めて大きいと考えられる.

OS03: 過剰な意味づけへの理論的アプローチ:ホモ・クオリタスとしての人間理解へ向けて

オーガナイザ:高橋康介(中京大学),日髙昇平(JAIST)
公募:なし
概要:
■企画の目的
2017年度から継続して「ホモ・クオリタスとしての人間理解へ向けて」と称するOSを開催し、好評を博してきた。これまで様々な認知現象、例えばパレイドリアやアニマシー、幻 視、Virtual Realityなどについての議論を重ね、「過剰に意味を創り出す認知」の理解を試みてきた。さらに2019年度には数学の理論である圏論との接続を試みた。これらの議論を 発展させ、今回のOSではホモ・クオリタスに関わる知覚の数理モデルの精緻化を目指し、同時に認知科学における理論の意義や位置づけを再確認する。 人が認識しようとする世界は、人に与えられる情報に比べて遥かに巨大で濃密である。空間的には視野外や遮蔽された事象を、時間的には過去および未来の事象を、メタなレベルでは 事象を生み出す力やオブジェクトやイベント同士の関係を支配する法則を、限られた所与の情報から認識しようとする。一連のホモ・クオリタスOSで議論してきたように、この過程に おいて「過剰に意味を創り出す」という認知の性質が生じると考えることができる。 このように現象を言葉で記述すればなんとなく納得してしまう部分もあるが、これを人間の認知過程に関する科学的な理論とするためには、定量的予測を生み出す精緻な数理モデルを 構築し、実験的検証を重ねる必要がある。ここで特に重視することは、そのような数理モデルを現象を説明するために後付け的に用いるのではなく、現象に先立ち現象を定量的に予測 する理論的基盤を構築することである(理論物理学と実験物理学の関係に相当する)。この試みの一事例として、日髙は自身が提唱する「未知領域最小化原理」(日髙 & 高橋, 2 019)を紹介し、錯視現象を用いた定量的検証について議論する。高橋は「未知領域最小化原理」をベースにパレイドリアなどこれまでのホモ・クオリタスOSで扱ってきた知覚・認知 現象の枠組みへの適用について議論する。これらの具体的な事例を踏まえて、ゲストスピーカーには、認知科学における理論、特に精緻な数理モデルの構築と検証の意義について議論 をお願いする。

■本大会のOSとして開催する意義,必要性
 圏論的な立場からは、「未知領域最小化原理」は、認知系の内部モデルとそれに与えられた断片的なデータとの間とを効率的かつ自然につなぐ随伴関手を構成することに他ならない。これは、一見するとMarr (1982)以来主流の考えである正則化(制約付き最適化)による知覚モデルと類似の考えであるが、それをさらに一歩進めた考え方とも言えるかもしれない。なぜなら、観察によって得られる感覚データへの適合だけではなく、観察不可能な未知なる領域までを含んだ内部モデルの整合性を問う理論であるからだ。この”(原理的に)見えないが、あるべきと想定されるもの”を含む理論の定式化、”過剰な意味づけ”の基礎理論としてのみならず、統合的な情報を求める認知過程一般に潜在する基礎数理の解明につながる可能性がある。
 認知科学における理論の重要性に異を唱えるものはいないだろう。しかし実際に理論を構築し、実証していくプロセスを実践することは容易ではない。本OSで紹介する研究事例は、日髙と高橋の間でダイナミックに展開されている理論構築と実証のプロセスから生まれたものである。理論構築の意義を大所高所から語るだけではなく、その一事例として精緻な数理モデルである「未知領域最小化原理」を錯視現象に適用して検証する試み、そしてその射程をホモ・クオリタスに関する知覚・認知へと向けようとする試みを紹介することで、認知科学に関わる多くの研究者に直接的に役立つ議論が可能であると考えられる。
 最近の認知科学会OSでは、テーマの拡がりやOS間の交流を重視する潮流があると思われる。このような流れは学際的学問分野である認知科学の性質上の、大いに推奨されるべきであり、実際にこれまでのホモ・クオリタスOSもこの流れに沿ったものであった。一方、今回のOSではあえてテーマを絞りこみ「講演者2名+ゲストスピーカー1名でひとつのテーマについて深める」というのスタイルを採用しているため、上述の認知科学会OSの流れには逆行しているかもしれない。この点は、企画者たちも大いに自覚している。しかし学問分野の発展は拡がりと深化の両輪によって支えられるものであり、この点において本OSを開催する意義、必要性がより強調されるとも考えている。

■このOSを通した発展性
 第1に、「未知領域最小化原理」の発展が挙げられる。この理論は今回直接的に検証する錯視現象だけでなく、パレイドリアなどのホモ・クオリタス的な”過剰な意味づけ”の認知にも関係する可能性が高く、さらに発展すれば多くの研究者が各自のテーマで「使える」実践的な理論となる可能性がある。
 第2に、理論構築への展開が挙げられる。理論構築と実証のプロセスを可視化することで、現象に先立ち現象を定量的に予測するような理論的基盤を構築するという研究アプローチの重要性が再確認されるだろう。本OSが対象とする錯視現象やホモ・クオリタス的認知に限らず、このような研究アプローチの拡がりが期待できる。

■このOSが果たす認知科学研究全体への貢献 寄与
 認知科学は人間の認知や行動を説明・予測し得る理論構築を目指す学問だったはずである。このためには、現象を記述するだけでは全く不十分であるし、得られた現象を説明するモデルをアドホックに組み立てるのではやはり不十分である。一方で現状の認知科学研究を眺めると(自省を込めて)現象の記述や現象説明のためのモデルで満足しているものが多いようにも思える。
 すでに述べた通り、「未知領域最小化原理」は、圏論的な見方に立脚して構想されたおそらく初めての認知過程に関する理論であり、認知科学における圏論の有用性を示唆する一例とも言える。この原理を他の認知過程の説明に応用する際には、骨格としての随伴関手の構造を維持しながら、その応用先におけるデータ構造を反映する適当な圏の選択を考えることになる。こうした系統的な一般化・転用可能性を持つ理論は、従来の実験や現象に固有のモデルと一線を画し、成熟した理論研究の道を切り拓くと期待される。
 本OSを通して、開かれた部品的理論群(戸田、1971)を構築し、実証を通して修正していくことの重要性について、再確認されることが期待できる。

OS04: オープン・サイエンスからインクルーシブ・サイエンスへ:当事者と認知科学者の開かれた対話

オーガナイザ:伴 睦久(東京大学先端科学技術研究センター)
公募:なし
概要:
■企画の目的
 認知科学におけるオープン・サイエンスを更に推し進めた「インクルーシブ・サイエンス」のあり方をテーマに、当事者・研究者をはじめとする多様な者による多角的なケーススタディーと開かれた対話を実施し、「すべてのひとによるすべてのひとのための認知科学」の研究パラダイムを推進する。

■本大会のOSとして開催する意義,必要性
 各大学や研究機関等においてオープン・サイエンスに関する取り組みが進められているところ、ただ「開いているだけ」では包摂されにくい知や領域も存在することが明らかとなりつつある。SDGsにも掲げられている「誰一人取り残さない」を目標に、本OSでは更に一歩踏み込んだ「インクルーシブ・サイエンス」を提唱し、取り残されやすい知を認知科学の実践においてどのように積極的に包摂していくか、その戦略と方策について検討する。例えば提案者の所属する東京大学では、発達障害を含む障害当事者を研究者として雇用するユーザ・リサーチャー制度、先端科学技術研究センターにおけるインクルーシブ・デザイン・ラボ、国際高等研究所における認知ミラーリング・プロジェクト等、様々な取り組みを推進しているところ、実際の運営においてはそれぞれのチーム・プロジェクトにおいて様々な試行錯誤がなされ、そのノウハウは日々進化している。本OSは多様な大学・研究機関等における研究チームにおけるオープン・サイエンスに関する様々な好事例・困難事例の共有と展開を図るものであり、そのケーススタディーと対話を通じてより良い実践に繋げることは、SDGsやSociety5.0に掲げられた共生社会の実現を、科学的実践を通じて効果的に図っていく観点からも重要な意義がある。

■このOSを通した発展性
 ご参加いただいた研究者・当事者においてはこのOSを契機として、その後の研究活動において実践可能なノウハウを持ち帰っていただくことができる場としたい。

■このOSが果たす認知科学研究全体への貢献 寄与
 これまでイノベーティブな研究や尖った研究者をも積極的にインクルージョン/エンパワーしてきた認知科学コミュニティを起点としてオープン・サイエンスの実践を推進し、日本、更には世界の認知科学、そしてこれに限らない科学一般における新たなパラダイムのパイオニアとして、これを牽引することに貢献する。また認知科学研究として新規研究パラダイムを主導することにより、本学会のメンバーが他の研究領域との学際的連携を図る際においてもアドバンテージを取りやすくなることに寄与することが期待される。

OS05:非流暢でぎこちないくせにうまくいく行動者の資格とは?

オーガナイザ:定延利之(京都大学)
公募:なし
概要:
■企画の目的
 「ニュース原稿を読み上げるアナウンサーとはちがって,日常的なコミュニケーションにおける多くの話者は,流暢ではない.だが,非流暢なりに,相手の助け舟を呼び起こすなどして,コミュニケーションはなんとかうまくいっている」という認識は,研究分野によって程度の差こそあれ,今では広く浸透している.だが,誰でも「うまくいく」のだろうか? 「うまくいく」のは,母語話者だけに与えられた僥倖ではないだろうか? それとも,日本語が明らかにたどたどしい初級の学習者が,日本語母語話者と同じように言い淀み,つっかえをしても,やはりうまくいくのだろうか? 病理的な言語障害者の非流暢な発話はどうだろうか? ロボットの非流暢な発話はどうだろうか?―以上の問いは,発話だけでなく運動全般に当てはめることができる.運動がぎこちないにもかかわらずコミュニケーションの中で「うまくいく」には,行動者はコミュニケーションの相手に「値踏み」され,何らかの資格を認められねばならないのだろうか? このOSは,言語学・医学~音声科学・言語教育学・関係論的ロボティクスの研究者らの共働により,「うまくいく」行動者の資格に光を当てようとするものである.

■本大会のOSとして開催する意義,必要性
 日本認知科学会が,大会において,シングルトラックにこだわる姿勢を保っているのは,認知科学という学問の学際的な性格を重視してのことだと,応募者らは理解している.大会におけるOSは,その姿勢を特によく反映した企画であろう.
 発話の非流暢性は従来,医学,言語学,言語教育学で研究されてきたが,その研究形態は多分に相互排他的である(Lickley, Robin J. “Fluency and disfluency.” The Handbook of Speech Production, 445-474, Wiley-Blackwell, 2015).他分野からの刺激が乏しいために,研究が沈滞している場合もある.たとえば言語学では,発話の非流暢性の研究は,コーパス言語学と一部の文法研究を除けば,活性化しているとは言い難い状況にある.
 このOSは,非流暢な話し手は誰でも「うまくいく」のかという問題意識から出発することによって,これらの諸分野を結び付け,次に発話を運動全般に一般化することで,関係論的ロボティクスとの交流を果たした上で,認知科学全般の研究者との学際的な交流を目論むものであり,この学会のOSならではの企画と考えている.

■このOSを通した発展性
 スキルを支える身体知というものが言語化に馴染みにくいと考えられるように(例:諏訪正樹「身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語化」『人工知能学会誌』20 (5), 525-532, 2005),言語は専ら概念的知識や戦略的知識を表し伝えるものと考えられ,「目的」「意図」等の用語ばかりで語られがちであった.このOSは,発話を運動全般の中に位置付けると共に,発話と(コミュニケーション相手も含めた)状況とのインタラクションを,「うまくいく」という形で持ち出すことによって,言語と身体の関係を問い直す道を開く契機となるだろう.大局的な目標は既に上に述べたが,よりショートスパンでは,OSの結果を(フロアの一部も巻き込んだ形で)論文集として出版することを考えたい.

■このOSが果たす認知科学研究全体への貢献 寄与
 このOSで打ち出す問題意識は,コミュニケーションの中で「うまくいく」ための行動者のスキルに深く関わっている.日本認知科学会では,たとえば第26回大会で「スキルサイエンス」を特集しているように,スキルの研究が活発におこなわれている.一見,「うまくいかない」と思われ,誰もが目指さないような発話の非流暢性や行動のぎこちなさの中に,実は「うまくいく」ものがあるというこのOSの着眼点は,スキルサイエンスに新たな進展をもたらす可能性を持っている.

OS06: 日本認知科学会を高齢研究者の発達の場とするために

オーガナイザ:小橋康章(株式会社 大化社),齋藤洋典(中部大学)
公募:3件
概要:
■企画の目的
日本社会とともに学会発足以来の会員も高齢化しつつある。高齢化してともすれば散逸してしまう研究者を学会内に温存し、これまでできなかったような高齢化研究を実現する方法を共に考える場を実現したい。

■本大会のOSとして開催する意義,必要性
全国の会員が一堂に集まれる場として最も適切なのは大会の会場である。

■このOSを通した発展性
目的を実現するアイデアが参加者のインタラクションから生まれれば、オンライン研究会のような通年の活動に結び付けられるかもしれない。

■このOSが果たす認知科学研究全体への貢献 寄与
 〇高齢化の一人称的、二人称的研究のきっかけになりうる。
 〇高齢研究者の人間として研究者としての発達の場を創出する。
 〇加齢がもたらす認知的な特徴を浮き彫りにしたり、異質なもののインタラクションから新しいものが生まれることを期待しても面白いかもしれない。

OS07: 知の生成をささえるものは何か?—コモディティとしての領域知識とその流通をめぐって—

オーガナイザ:田中吉史(金沢工業大学),荷方邦夫(金沢美術工芸大学),青山征彦(成城大学),髙木紀久子(東京大学),松本一樹(東京大学)
公募:(変更になりました)6件
概要:
■企画の目的
 認知科学はこれまで、人間の知的な振る舞いを支える様々な仕組みを、内的なプロセスのみならず、社会文化的な基盤まで、様々な観点から明らかにすることに取り組んできた。また、こうした研究は、思考、熟達化、創造性、デザインや芸術など、高度な認知的活動の支援手法の検討など、実践的な問題とも結びつく形で進められてきた。
 これまで一般に、デザインやイノベーション、アートなど、知の生成的な活動は、特別な素養や専門家としての長期にわたるトレーニングによって獲得される専門知識(領域知識)が必須とみなされてきたと思われる。しかし近年、そうした専門的で高度な知識・技能が、テクノロジーの進展や様々なツールの開発とも相俟って、より多くの人々にもそれほどのコストを伴わずに利用可能なものになってきた。その事例は、認知的なモデルを前提とした創造性支援、一般市民・一般大学生を対象としたアートの鑑賞や制作の支援手法、一般ユーザーを対象としたデザイン・ツールの開発など、多岐にわたる。
 このことは、高度な領域知識や技術が、一部の専門家から開放され、いわば「民主化」されてきている、と見なすこともできるだろう。そして、「民主化」された知識や技能、それらを支えるプラットフォームは、広く流通するごくありふれたものだが私達の生活を支える上で欠かすことのできない日用品のような存在、つまりコモディティとしてますます重要なものとなっていくと予想される。
 一方、こうした専門的な領域知識のコモディティ化は、認知科学において、さらなる検討課題を生み出していくと考えられる。例えば、こうした知の生成的活動の支援手法は何を促進し、何を促進できないのか、領域知識のコモディティ化の促進・阻害要因は何か、また高度な領域知識・技能の普及に伴ってエキスパートの役割はどのように変化していくのか、といった、古くからある課題の深化や、新たに生じてくる問題の検討が、今後の認知科学にとって重要な研究テーマとなってくるであろう。
このOSでは、このような知の生成的な活動を支える領域知識の普及・コモディティ化とそれをめぐる研究を取り上げ、議論する場を持ちたいと考えている。  本OSでは、企画者によるプレゼンテーションに加え、公募による発表を6件程度受け入れる。公募による発表は、思考や熟達、創造性など、特に生成的な認知活動の支援やその普及に関わるもの(特に、専門性の高い知識や技能を、一般的な人々が獲得したり、それを利用したりすることの支援に関わる研究、支援手法・支援ツールの開発や実践、に関わるのもの)、あるいはそれに関わる問題を扱うものとする。
(本OSのキーワード:創造性、デザイン・アート、熟達、日常知)

■本OSの発展性、本大会での位置づけ、認知科学全体への貢献・寄与
 ここに掲げた「知の生成的活動」は、これまで創造性に関する問題として扱われることが多かった。現在では創造性に関する認知科学的知見もかなり蓄積されてきており、今後は、社会における実践的な活動と基礎的研究とが、より統合的に展開していくこと、また、より広い人間の知的活動の中に位置づけつつ発展させていくことが課題となると考えられる。
 また、パーソナルファブリケーションの普及や、今後いわゆるSTEAM教育の重視により、アートを用いた教育が一般大学でも展開されていく可能性があること、など、(特にクリエイティヴな活動に関する)領域知識の普及・一般化(コモディティ化)は今後実社会においてもさらに重要となると考えられる。
 これらのことを踏まえると、2020年代の最初の年の大会である本大会で、このテーマについて議論することは、非常にタイムリーであると思われる。

OS08: 文化的実践における認知研究の相互理解に向けて

オーガナイザ:土倉英志(法政大学),郡司菜津美(国士舘大学)
公募:3件
概要:
■はじめに:文化的実践における認知研究
 本オーガナイズドセッション(以下、OS)では、「文化的実践における人びとの認知」に関心を寄せる研究の相互理解をうながし、「議論のプラットフォーム」の構築を模索することを目的とします。
 人は誰もが限られた時間と場所の制約のもとで、家事、仕事、介護、趣味、気晴らしといった「文化的実践」(佐伯,1995)に勤しんでいます。私たちの認知(学習、記憶、発達、問題解決、推論など)が、日常においてどのようになされているのかを研究上の関心に据えるならば、どのような活動(分業体制)において/どのような資源を利用しながら/どのように人びとと関わりながら、認知がなされているのかをとらえることが重要になります。言い換えれば、認知を文化的実践との関連においてとらえることが有意義と言えます。それというのも、文化的実践を構成している活動・資源・他者のあり方によって、ある人が取り組むことになる認知、そのあらわれ方、生起頻度、ひいては教授・学習、熟達のプロセスは異なると考えられるためです。

■文化的実践に関連した認知研究の共通理解のむずかしさ・見とおしづらさ
 それでは、文化的実践における認知を、「研究として」、どのようにとらえることができるでしょうか。あえて「研究として」と強調したのは、こうした関⼼を追究しようとすると、「ただエピソードを羅列しているだけ」に見えてしまう恐れがあるためです(こうしたテーマに関心のない研究者にとっては、特にそのように見えるかもしれません)。人びとの生活に密着している文化的実践に焦点をあてると、その様相が鮮やかに記述されるものの、知見が一般化できる範囲/知見の利用可能性が見えづらいことがあります。だからといって、過度に抽象化してしまうことは、現場の固有性をないがしろにすることになってしまいます。
 こうした事情も手伝ってか、似たような関心をもっている研究があっても、相互に見とおしづらい状況があるように思います。しかし、これでは知見がバラバラに独立して存在するだけになってしまいかねません。こうした状況で、私たちはどのように文化的実践に関連した認知に関する知見を、蓄積・共有していくことができるでしょうか。

■企画の目的
 本0Sでは、人びとの認知を文化的実践との関連においてとらえようとする研究を募集します。研究分野ごとに、また、対象とする文化的実践に応じて、重視していること、方法論、欠くことができない要素等があることと思います。話題提供では、知見を成り立たせているこうした点についても披露していただきたいと思います。これにより、研究分野、対象とする文化的実践をまたいで、相互の知見の理解することをうながし、共通点や相違点について議論したいと考えています。
 ディスカッションでは、文化的実践に固有の知見を、どのように学会(学界)の財産として共有していけるかについて、知恵を持ち寄り、共有していきたいと思います。以上のように、文化的実践に関連した認知研究の相互理解をうながすこと、「議論のプラットフォーム」の構築を模索することを、OS の目的とします。
 文化的実践に関連した認知研究に関連するアプローチは多数あると考えています。たとえば、状況的認知・行為(e.g. Lave, 1988;Suchman,1987)、道具論(e.g. Norman, 1988)、人工物研究(e.g. 原田,1997)、正統的周辺参加論(e.g. Lave & Wenger,1991)、活動理論(e.g. Engeström,2016)、越境論(e.g. 香川・青山,2015)、一人称研究(e.g. 諏訪・堀,2015)等々。
 さらに、近年、認知科学でも注目を集めているアクターネットワーク理論(ANT)(e.g. Latour,2005)の視点も参考になると考えます。そこで、招待講演は、Latour(2005)の翻訳者であり、ANT の観点から研究を行なっている、伊藤嘉高先生にお話しいただきます。
 本OSは教育環境のデザイン分科会が主催します。

■このOSを通した発展性
 企画趣旨で説明したとおり、相互に見とおしがよいとは言えない研究分野の相互理解をうながすことで、今後に向けて議論の土台を作っていきたいと考えています。こうした地道な営みが、将来的には新たな研究パラダイムの創出につながると考えています。

■このOSが果たす認知科学研究全体への貢献 寄与
 認知科学会において、現場に根差した研究(フィールド研究、インタビュー研究)をされていない方にとっては、現場研究は馴染みがうすいものと思います。ただし、上記のとおり、現場に根差した研究をしている研究者同⼠は相互に理解し合っているかと言えば、そうとは言えない面があるように思います。
 本OSは、現場研究のとらえがたさと意義をあらためてふりかえる機会になると考えます。文化的実践に関連した認知研究に関心をもつ研究者にとどまらず、これまで関心のなかった方にもご参加いただくことで、相互理解を深める機会を提供するものと考えます。

OS09: プロジェクション科学の基盤拡充を目指して:関連諸科学との対話

オーガナイザ:鈴木宏昭(青山学院大学)
公募:なし
概要:
■企画の目的
 プロジェクション科学は、内的に構成された表象と実在する世界とをつなぐ認知メカニズムの構造と発生を研究し、その成果を社会に還元するという目的を持っている。これまでに4 回のOS を開催し、その関心は年々高まってきている(ここ2回は100名以上の参加者)。また、発表者のバックグラウンドも実験心理学などの基礎的な研究から、臨床、社会、VR、メディアアートまで広がっている。
 今回のOSでは、哲学、神経科学、ロボット科学との対話を通して、プロジェクションの基盤面の再検討を行い、この拡がりを加速させることを目的としている。現象学と神経科学の分野からの研究者(田中彰吾、入來篤史氏)を招待し、プロジェクションとの関係性を議論していただく。現象学は認知科学と対立する部分も多かったが、身体性認知科学を経ることにより、その結びつきは強いものとなった。さらにメルロ=ポンティーらの哲学には、プロジェクションについての考察も存在するという。
 一方、プロジェクションが単なる妄想ではないとすれば、そこには確固とした神経基盤があるはずである。この点についての検討はこれまで全く行われてこなかった。しかし近年頭頂弁蓋部にある二次体性感覚野(S2) が進み、この部位とプロジェクションとの関係が論じられている。これらについての知見を共有し、議論をすることはプロジェクション科学の今後の展開にとってきわめて重要である。
 ヒトからプロジェクションを取り去ることは不可能(あるいはきわめて困難)であるが、現在のロボットはプロジェクション無き知性を実現しているように思える。この動作の特異性を解明することは、プロジェクションを理解する上で重要と思われる。加えて、今後のロボットの発展において、プロジェクションは鍵を握るメカニズムなので、これを実現する可能性を検討することは工学系の研究者にとっても意味あるものとなる。この可能性についてロボット科学者を招待し検討していただく。
 これら3名の講演者に長めの発表を行ってもらい、それについて時間をかけて議論することを計画している。そのため、今回に限って公募は行わないこととする。

■本大会のOSとして開催する意義,必要性
 プロジェクション科学(サイエンス)についてのOSは2016年に始まり、2019年までで連続4回行ってきている。発表はこれまで合計で25件に上り、発表者のバックグラウンドも社会学、メディアアート、臨床心理、発達心理、視覚科学、経営学などバラエティーに富んでいる。参加者はここ2 回は100 名超となっており、会員のプロジェクションに対する関心も高い。今年もOS を継続することにより、こうした多くの会員への情報の発信が継続可能となる。
 今回は公募を行わないが、講演者たちの発表および討論を通して、プロジェクション科学の裾野の新たな広がりを知ることが可能となり、結果として次年度以降のさらなる展開が期待できる。

■このOSを通した発展性
 このOS を開催することにより、これまでにあまり関連が強くなかった現象
学、神経科学、ロボティクスとの関係が構築される可能性が高い。これによって、プロジェクションの研究に取り組む間口が広がり、これまでプロジェクション、認知科学に関心を持たなかった層からの参加者(研究、聴講共に)が増加する可能性がある。

■このOSが果たす認知科学研究全体への貢献 寄与
 プロジェクションサイエンスは、心の世界と物理世界をつなぐための認知的メカニズムを解明し、身体性認知科学を超えたポスト身体性認知科学を生み出すことを目指している。これによって随伴性と期待報酬に基づく人間理解から、意味世界で活動するものとして人間を理解することが可能になると思われる。
 また今回の招待講演者たちは、神経科学、ロボティクス、哲学の第一線で活躍されている方々である。彼らが今回のOS の成果を当該学会に持ち帰ることで、これまでとは異なる参加者、研究者が増え、プロジェクション科学のみならず、認知科学の新たな展開にもつながる可能性がある。

OS10: ゲーム研究の新展開(2)~人智を超えるゲームAIと人間の関係を考える~

オーガナイザ:伊藤毅志(電気通信大学)
公募:4件
概要:
■企画の目的
 ゲームは人間の問題解決や熟達化などの認知科学・人工知能の分野で重要なベンチマークとしての役割を果たしてきた。しかし、ゲームAIの分野を見ると、コンピュータ囲碁「AlphaGo」に代表されるように、近年急速に進歩しており、人間を超える能力を示すものが増えている。このような状況の中で、進化したゲームAIと人間の関係には変化が見られるようになっている。将棋、囲碁のプロの世界でも、AIを学習ツールとして使うことが当たり前になってきており、ゲームの質にも変化が生じている。ゲームに対する理解を拡張するツールとしてAIが用いられるようになってきている。
 この企画では、最新のゲームAIの研究とそれを巡る人間との関係について、幅広い視点から議論していく。

■本大会のOSとして開催する意義,必要性
 2019年に「ゲーム研究の新展開と認知科学」というタイトルでゲームのOSを提案した。ゲームAIの現状を説明するとともに、認知科学との親和性の良さについても議論した。
 今回は、さらにAIの進化と人間の関係性に着目し、賢くなったゲームAIと人間の新しい関係について議論を深めていきたい。2045年問題で指摘されている近年急激に進化しているAIと人間の関係について認知科学の分野として取り組むことは急務であり、ゲームAIの分野では、一足先に様々な変化が起こってきている。ゲーム研究という立場からの議論は、これから先に起こる新しい人間と機械のコミュニケーションを考える上で重要な意味を持つと考える。

■このOSを通した発展性
 ゲームAIの研究者はこれまで人間のトップを超えるAIの開発に努めてきたが、いざ人間を超える性能を示すAIが実現されてみると、そのAIと人間がどのように付き合っていけばよいのかという新しいテーマに突き当たっている。このAIの進化という様相が社会に与える影響は大きく、人間と機械の新たな研究分野の発展が期待できる。

■このOSが果たす認知科学研究全体への貢献 寄与
 ゲーム研究を通して、人工知能の分野と認知科学の分野の研究者が広く交流する場を提供し、認知科学の学際性を高めていきたい。昨今注目を集めている進化している人工知能が人間社会に与える関係をゲームという視点から読み解いて行く。

OS11: JDM; How bounds bound our bounded rationality

オーガナイザ:中村國則(成城大学),本田秀仁(安田女子大学)
公募:2件
概要:
■企画の目的
 判断や意思決定をめぐる問題を扱う本OS (Judgment and Decision Making)では、人間が意思決定に際して直面する“制約”の問題を扱う。意思決定は意思決定者主体の自由意思に基づいて何らかの決定を下す行為のようにみえる。しかし実際は食べたいものがメニューにない、モノは欲しいがお金がない、情報がない、といった様々な例が示すように、主体の自由を阻む様々な制約が立ちはだかっている。予め“決められた”中の限られた選択肢の中から選び出してるに過ぎないことも多い。このような点を踏まえれば,決定主体に与えられた様々な制約の解決はそもそも意思決定の本質的な問題であるともいえる。このような決定にまつわる制約について考えるのが本OS の主要テーマである。
 意思決定の歴史を振り返ると、制約は理論的な鍵概念の1 つであり続けてきた。Simon の限定合理性(bounded rationality)は、人間が認知容量の限界といった様々な制約の中で決定を導かなければならない状況を鑑み、効用最大化ではなく満足化の基準に基づいて意思決定を表現することを主張している。TverskyとKahneman は、制約を有する人間が用いるヒューリスティックによって様々な規範的理論からの逸脱が生じるとしている。一方でGigerenzer は、制約こそが逆に自然環境の中での適応的な意思決定につながる可能性を指摘する。またThaler が主張するナッジは、法制度や社会状況などの選択機構(choice architecture)が制約となり、決定主体の選好構造を作り上げることを示唆している。このように、これまでの意思決定の主要理論には何らかの形で人間が直面する制約の意味付けが取り込まれており、その意味付け方がオリジナリティを生み出しているともいえるのである。
 加えてこうした制約の問題は近年の認知科学をとりまくより大きな研究動向の中でも重要な意味を持ってきている。近年の第3次人工知能ブームの主軸をなしている深層学習では、膨大な学習データとその膨大なデータ処理を可能にする計算機の処理能力の向上といった、従来の技術上の制約が無くなってきたことがその発展の基盤となっている。一方で実際の人間は処理容量も処理できるデータ量も極めて限られた中、いわば多くの制約の中で迅速かつ的確な認知活動を実現していると考えることができる。したがって現在の人工知能ブームの方向性は人間の認知とは全く逆のアプローチによって成功を収めているものといえよう。その点で改めて制約という観点から認知をとらえなおすことは人間の認知や知性のありかを解明する上で大きな意義を持つと考えられる。
 以上をまとめると、制約は意思決定研究の中で隠れた中心的問題であり続けてきたと同時に、認知科学という分野全体、特に人間の知性という問題を考える上で近年その重要性を増々高めつつあるテーマといえる。この重要な問題を議論することが本OS の目的である。

■本大会のOSとして開催する意義,必要性
 過去5年のOS で私たちが企画した判断・意思決定に関するセッションには多くの方にご参加しただいたことから、判断・意思決定に関する研究トピックに関して興味を持っている研究者は多いと実感している。また、The Cognitive Science Society の年次大会(CogSci)では、毎年4〜5 つの判断・意思決定に関するセッションが開催されている。これらを踏まえると、人間の判断・意思決定に関する研究の知見は、人間の認知や行動の本質を理解していく上で、多くの重要な示唆を認知科学研究者に与えていると言えるだろう。しかしながら日本の認知科学会では、判断・意思決定に関する研究の発表件数は決して多くはなく、一般セッションで判断・意思決定研究に触れる機会は限定されたものになってしまう。OS として本セッションを企画することで、判断・意思決定の様々な研究に触れる場を提供したいと考えている。

■このOSを通した発展性
 2019年のCogSci において、「Heuristics, hacks, and habits: Boundedly optimal approaches to learning, reasoning and decision making」というワークショップが開催された。このワークショップは “Bounded optimality”というキーワードのもと、人間の認知や機械学習について、認知的リソースに限界があるエージェントが判断や意思決定はもとより、メタ推論、強化学習、能動的情報獲得、確率的推論などの問題をどのように解決しているかについての議論が行われ、非常に盛況なワークショップであった。制約は従来から認知科学研究において重要なキーワードであったが、この例からもわかるように、“制約”(bound)が人間の認知を考える上で近年また見直されていると言えるだろう。特に近年のAI の発展を踏まえると、様々な制約を有する人間の“知性”の所在について議論することは非常に重要であり、またこの議論を通じて人間の認知研究の新たな方向性を与えてくれるものと考えられる。

■このOSが果たす認知科学研究全体への貢献 寄与
 人間の認知機能は様々な制約を持つ。また、問題解決・言語獲得などの認知プロセスを議論する際に“制約”がキーワードとなるように、人間の様々な認知プロセスにおいて制約は重要な役割を果たしていると考えられる。本OS は判断や意思決定を念頭に入れて議論を進めるが、制約が幅広い認知プロセスに関わるような性質であることを踏まえると、判断と意思決定というトピックに必ずしも限定されることなく、本セッションの参加者それぞれが取り組んでいる研究テーマに対して、何らかの形でヒントを与えることができるだろう。

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