大会情報・スケジュール
大会スケジュールは以下から確認いただけます.
招待講演・シンポジウム・関連企画
下記リンク先(外部)からも,招待講演やシンポジウムの情報をご確認いただけます.
各種発表の形式に関して
口頭発表
- 発表13分,質疑応答5分です
- HDMI 出力端子のあるPCを各自でご用意ください
- 発表者は,セッション開始の5分前までに,PCの接続確認と座長による出席確認をすませてください
ポスター発表
- ポスターボードのサイズは 幅900×高1760mmです
- 掲示に必要なピン等は,ポスターボードに備え付けてあります
- 当日のセッション開始時刻までに掲示してください
- 8月30日は10:20から, 9月1日は11:00から掲示できます
- 在席責任時間は,以下の通りです
- ポスター1 (8/30):奇数番号 11:20〜12:05 偶数番号 13:05〜13:50
- ポスター2 (9/1):奇数番号 12:00〜12:45 偶数番号 13:45〜14:30
- セッション終了後90分以内に,各自で責任を持ってポスターの撤収し,お持ち帰りください
オーガナイズドセッション
- PC(HDMI 出力端子付)は各自でご用意ください
オーガナイズド・セッション
- サマースクール連携企画:良い理論を見極め,適切な仮説を生成すること
- 認知コントロールの促進的側面と阻害的側面
- 「生きる」と向きあう科学:方法論からの解放
- 認知ミラーリングと社会的認知:気づかれにくい障害の理解と支援
- Nudge: Design and choice architecture in J・D・M
- 意味理解とオブジェクト認知:ホモ・クオリタスとしての人間理解へ向けて
- 知覚と相互行為
- 協調学習の評価の刷新:指標を探す
- 食文化の固有性・共通性から考える翻訳可能性:食感のオノマトペ・ワークショップを中心に
- 記号接地問題
- プロジェクション・サイエンスの深化と融合
- 心を揺さぶる,社会を動かすエージェント科学の最先端
サマースクール連携企画:良い理論を見極め,適切な仮説を生成すること
オーガナイザ:岡田浩之(玉川大学),鈴木宏昭(青山学院大学),川合伸幸(名古屋大学)
セッション形式:招待講演,チュートリアル,パネルディスカッション
日程:8/30 AM
公募:なし
概要:
研究者は,実験によって事実を集め,自分の考えが正しいことを証明しようとします.あるいは事実を積み重ねることで帰納的に仮説を構築します.研究者が行っている活動は,事実に基づいた主張(結論)をすることです.しかし,ある事実が得られれば,自動的に主張(結論)が決まるわけではありません.たんに事実だけを提示しても,それだけでは議論として不十分です.そこには,かならず暗黙の仮定(論拠)が必要です.事実(根拠)と論拠が合わせて提示されることで,はじめて主張(結論)が受け入れられます.
研究者としてさらに一歩踏み出すためには,自身が行っている議論のうち,なにが事実・論拠・主張であるかを明確に意識し,それらをうまくつなぐスキルが必要です.
このセッションを通じて,無自覚に受入れていた「もっともらしい仮説や説明」を批判的に咀嚼し,自身の研究で生成する仮説をより高いレベルのものにしてもらうことを期待しています.
※大会前日まで開催予定のサマースクールとつながる内容になっていますが,サマースクールに参加されない方も本OSに参加することができます.
認知コントロールの促進的側面と阻害的側面
オーガナイザ:西田勇樹(立命館大学),織田涼(立命館大学)
セッション形式:公募発表,招待講演,全体討論
日程:8/30 AM
公募:4件
概要:
高い認知的な能力や努力が,必ずしも課題のパフォーマンスを促進するわけではない.近年,高い認知コントロールが及ぼす促進的および妨害的な影響の両面性に注目が集まっている.認知コントロールとは,目の前の課題とは無関連な情報を排除し,課題に対して注意を焦点化する能力を指す.認知コントロールの高さは,選択的注意やワーキングメモリだけでなく,より複雑で高次な認知過程にも関与し,課題のパフォーマンスに有利にはたらくと考えられる.一方,例えば洞察問題に関する研究は,ワーキングメモリ容量の大きい参加者に比べて容量の小さい参加者の方が洞察課題の成績が良いという実験結果を報告している.この知見は,高い認知コントロールがかえって課題の遂行を阻害することを示唆する.しかし,認知コントロールの影響に,なぜこうした両面性があるのか,またそのしくみについては,推論の域を出ない.こうしたしくみについて明らかにすることは,高次認知過程の新しい側面を明らかにすることができるという点で意義がある.
認知コントロールの両面性について検討するためには,幅広い研究領域の発表から議論し,認知コントロールのはたらきについて再考することが必要である.なぜなら,高い認知コントロールによる阻害効果は,洞察課題だけでなく,記憶,注意,学習でも観察されているためである.本セッションでは,研究発表からどのような状況や課題において,認知コントロールがパフォーマンスを促進・阻害するのか議論し整理する.その上で,どのようなメカニズムが認知コントロールの両面性を引き起こしているのか総合的に議論する.そのために,本セッションでは,領域を限定せず,多角的な研究領域からの研究発表を募集する.本セッションから,認知コントロールに対する議論をより深めるだけでなく,研究交流の促進が期待される.
「生きる」と向きあう科学:方法論からの解放
オーガナイザ:伝康晴(千葉大学),諏訪正樹(慶應義塾大学)
セッション形式:基調講演,公募発表,全体討論
日程:8/30 AM
公募:5件
概要:
「知」とは何か.それは「よりよく生きる」ための資産である.「生きるための知恵」を探究すること.それが「知」の科学の目標であったはずである.しかるに,「知」の科学たる認知科学は不必要に細分化され,目先の擬似問題(現実世界の諸要因を隠蔽した実験室内での課題)の解決に囚われ,本来の目標からは遠いところをさまよっているのではないだろうか.その根底には,認知科学の方法論上の硬直があるように思う.20世紀初頭の行動主義への批判を経て確立された認知主義は,情報処理モデルに基づく統制的実験と計算機シミュレーションによって人間の認知を探究する「科学」的な方法論を手にしたと考えられている.しかし,この方法論の「成功」は,そのようなパラダイムにそぐわない日常的な認知の現象を切り捨ててきた結果に他ならない.そこで切り捨てられたのは,状況依存性・個別具体性・一過性・突発性など,人間が生きていく中で向きあわざるを得ない現実世界の諸要因である.これらを「隠蔽」して真の「知」に迫ることなどできるはずがない.今こそ,既存の方法論からの解放が必要である.いわゆる認知科学的方法論をとる人たちの中には,その方法論が取りこぼしている現実世界の事象に大いなる興味を抱いている人たちがいるはずである.あるいは,既存の方法論に異を唱える人たちの中にも,これまで成功してきた認知科学との接点を求める人たちがいる.本OSでは,方法論的なこだわりを捨て,「生きる」と向きあう科学としての認知科学の将来について,ざっくばらんに議論したい.
認知ミラーリングと社会的認知:気づかれにくい障害の理解と支援
オーガナイザ:伴睦久(東京大学),熊谷晋一郎(東京大学)
セッション形式:公募発表,招待講演,全体討論
日程:8/30 AM
公募:2件
概要:
周囲からそれと気づかれにくい障害をもつ人々は,自己理解や周囲からの理解の不足により,他者との機会均等を保障するための合理的配慮を得にくい現状がある.また理解されにくい障害は,当事者の直面する不可変的な困難さに対し,他者からは「努力や意志の力で克服されうる属性である」と過小評価されやすく,ある文化圏において克服可能であると信じられている属性は,スティグマ(偏見や差別)が付与されやすいことが知られている(Corrigan et al.,2001).スティグマはまた,本人の援助希求行動 (Schnyder er al.,2017) や社会参加,健康,更にはウェルビーイングの重大な阻害因子になることが知られている.
こうした背景の下,認知科学的知見に裏付けられた自閉スペクトラム症 (Autism Spectrum Disorders: ASD) の正確な理解を通じてスティグマを低減するための介入を開発・検証する研究が試みられている (Gillespie-Lynch et al.,2015).我々の研究グループにおいても,人の感覚から運動に至る認知プロセスを鏡のように映し出し観測可能にする情報処理技術「認知ミラーリング」を活用することで,気づかれにくい障害のひとつであるASD を持つ人々が抱える困りごとを可視化させ,障害者の自己理解の促進,そして定型発達者によるスティグマの低減等を目指した技術開発を進めている(長井ら,2015).しかし先行研究において,シミュレーターを用いた擬似体験(バーチャル・リアリティー・インターベンション:VRI)が共感や敬意を高める一方,同時に社会的距離をも高めてしまうことが,統合失調症の事例で報告されている (Ando,et al.,2011).標語的に言い換えると,VRIは「大変さはわかったが近くには来ないでほしい」という社会的認知を周囲の人々に獲得させてしまう可能性があり,かえってスティグマを強化させてしまう結果を招きかねない.しかし,なぜVRI単独ではスティグマ強化に繋がってしまうのかは未だ明らかにされておらず,社会認知科学的な観点からも検討すべき課題である.
一方,精神障害や依存症に対するスティグマ低減効果を検討した一連の研究によれば,最も有効な介入法のひとつは,「抗議」(protest)や「教育」(education)ではなく(Corrigan et al.,2001),当事者の自伝的なナラティブに触れるコンタクト・ベース・ラーニング(Contact-based Learning: CBL)であることが示唆されている (Martínez-Hidalg et al.,2017).しかしCBLならなんでも良いかというとそうでもなく,普段の日常診療で当事者の語りに触れ続けている医療者が最も強いスティグマを保持しているグループであることも知られているため,どのような参与枠組みでどのような内容の語りに触れることがスティグマの低減に繋がるのか,その中身を丁寧に精査していく必要がある.
WHOは,スティグマが支援サービス利用を阻害する主要な障壁になっていることに警鐘を鳴らしている(World Health Organization, 2001).また国内に目を向けてみても,2016年に施行された障害者差別解消法において,障害者に対する合理待機配慮の提供や差別解消が義務付けられたものの,ASDなどの気づかれにくい障害に関して,具体的にどのような対応をすべきかについては十分に検討されているとは言いにくい.
認知科学は,自他から気づかれにくい認知的多様性 (cognitive diversity) を,共有可能な形で記述しうる学知を提供する.そこで得られるより正しい理解は,感染症のように蔓延する社会文化的現象であるスティグマの,ワクチンもしくは治療薬になりうる.知ることを志向する基礎研究と,支援や治療を志向する応用研究は区別されることが多いが,正確な知識がすなわち特効薬となりうる一つの例として,スティグマ介入研究に注目する意義は大きい.その一方で,不適切な形で知見を社会に発信すれば,スティグマ強化に加担することもあり得る.
以上のような背景に加え,近年重視されつつあるELSIをも考慮に入れれば,本企画は時宜にかなったものである.
本企画においては,認知科学に加え,認知ミラーリング研究開発を進めるロボティクス研究の第一人者,リカバリーやアンチスティグマを志向したナラティブを探求する当事者研究者等,多分野の専門家を集め,スティグマの緩和に向けた障害理解とはいかなるものか,認知ミラーリング技術や当事者研究はそこにどのような貢献をし得るかについて,クロストークを実施し,論点の抽出とその整理を図る.
加えて,当該研究に従事する若手研究者や隣接領域の公募研究者から,その解決に向けたアイディアを話題提供していただくことで,解決に向けた方策の端緒を探る.
「一人称的経験とそれに裏付けられた正しい行動の理解」を目指す様々な研究領域―認知科学,ロボティクス研究,当事者研究―が蓄積してきた知見を,どのように深め,どのように広く社会に発信していくことがスティグマ軽減に繋がり得るかについて検討する場としたい.認知科学,行動経済学,社会心理学,ソーシャルワーク等の隣接分野に限らず,人類学や社会学等を含む幅広い研究分野及び実践家の積極的な応募を歓迎する.
Nudge: Design and choice architecture in J・D・M
オーガナイザ:中村國則(成城大学),本田秀仁(東京大学)
セッション形式:公募発表,招待講演,全体討論
日程:8/30 PM
公募:3件
概要:
2014・2015・2016 年に続き,JDM (Judgment and Decision Making)に関するセッションを開催する.本年は "Nudge" をテーマとして考えたい.Nudge とは2017 年度ノーベル経済学賞を受賞した行動経済学者R. Thaler の提案した概念である.Thaler によれば,Nudge とは「any aspect of the choice architecture that alters peopleʼs behavior in a predictable way without forbidding any options or significantly changing their economic incentives」(Thaler,2008)であり,「人間の行動や意思決定を変化させる(場合によっては劇的に変化させる)ちょっとした工夫」を指す.Thaler はNudge を利用した選択構造(choice architecture)を整えることで,人をより良い決定に導くことができると主張し,リバタリアン・パターナリズム(Libertarian Paternalism)を展開した.このNudge はかのD. A. Norman の著書「誰のためのデザイン? (原題:The design of everyday thing)」に影響されたものであることはよく知られており,その意味で認知科学とも深く関連性する概念といえる.
Thaler の主張は,人間の意思決定がほんの“些細な一押し”で大きく変わり,その事実が社会の中で非常に大きな意味を持つことを教えてくれるものである.そこで本セッションでは,判断や意思決定の問題に関して,通常あまり意識されないような,“ちょっとした”工夫によって変化する人間行動や判断・意思決定について考え,そこから見える人間の“クセ”について議論し,人間の認知や行動の特性について理解を深めていきたい.この理解の深化は,今後の認知科学の社会的貢献を考えていくうえで大きなヒントになるはずである.
本セッションでは,公募発表として3~4件を募集する.Nudge,選択構造,デザインなどをキーワードとして,判断や意思決定に関わるトピックであれば,実験研究,フィールドワーク,理論的考察等,内容を限定せずに幅広く歓迎する.
意味理解とオブジェクト認知:ホモ・クオリタスとしての人間理解へ向けて
オーガナイザ:日髙昇平(北陸先端科学技術大学院大学),高橋康介(中京大学)
セッション形式:招待講演,パネルディスカッション,体験企画,全体討論
日程:8/30 PM
公募:なし
概要:
我々が自動車を運転をするとき,ハンドルを持つ手やブレーキを踏む足を意識することなく,“自分を拡張した自動車”全体を導くことに専念できる.これはハンドルを持つ手やブレーキを踏む足と,自動車の動きが統合され,高精度の予測可能性を持つことで生じる一体性を反映していると考えられる.つまり,“自分の体のよう”に道具を操ることで,身体を拡張するとも言える.
一方で,こうも考えられる:我々の身体そのもの,あるいはそう捉える認識そのものも,ある場面で遂行しようとする目的の一通過点であり手段にすぎず,その目的達成のために高度に一体として機能するはずである.言い換えれば,いわゆる身体性は,物理的・生物的な筋骨格構造などの性質ではなく,「一体として機能する意味的なまとまり」として再解釈できるだろう.つまり,我々の認識や意識の座と目される脳を取り囲み,神経系からの指令によって動く,という物理的・生物的な制約ゆえに身体が特別なのではなく,我々が達成しようとする目的・目標への(意識を要しないが,手段として不可欠な)経由点として偶々そこにあるに過ぎない.
こうした立場では,身体性や身体イメージの拡張などの付随的な現象ではなく,いかに一体性が成し遂げられるか,あるいは仮に我々が“目的”,“目標”と呼んでいる意味の単位としてのオブジェクト(対象)を以下に定義すべきか,と言った点が主要な問題として浮かび上がる.
本OSでは,こうした問題意識を念頭に,気鋭の論客を招待し,計算論的な立場,心理学的な知見からの示唆,あるいはバーチャルリアリティ(VR)等の技術発展などを踏まえ,テーマを絞ったオープンディスカッションを行う.
知覚と相互行為
オーガナイザ:坂井田瑠衣(国立情報学研究所),牧野遼作(早稲田大学),名塩征史(静岡大学)
セッション形式:招待講演,データセッション,全体討論
日程:8/30 PM
公募:なし
概要:
本OSは,前回大会において開催したOS「認知科学で捉える相互行為」の問題意識を踏襲しつつ,なかでも「知覚」という認知科学的トピックに焦点化して議論を深めようとするものである.認知心理学をはじめとする認知科学的研究では,個人内で経験される認知活動として知覚を捉えることが多い.他方,他者との相互行為をつうじて知覚がいかに個人間で間主観的に経験,共有されるかを明らかにしようとする相互行為研究も盛んになってきた(e.g. 西阪,2001).本企画では,第一義的には個々人の経験と考えられる知覚が相互行為において間主観性を帯びる過程に着目し,旧来の認知科学的方法とは異なる相互行為研究の視点から,知覚という経験のありようを捉え直すことを試みる.特に,相互行為研究の方法的特性に鑑み,通常の研究発表ではなくデータセッションという形式を取り入れることで,一般参加者も含めたよりインタラクティブな議論をめざす.
協調学習の評価の刷新:指標を探す
オーガナイザ:白水始(東京大学),益川弘如(聖心女子大学)
セッション形式:ワークショップ,全体討論
日程:8/30 PM
公募:2件
概要:
協調学習の隆盛に伴い,その成果を評価しようとする様々な試みが始まっている.本OSでは,1)協調学習の成果を一律に評価できる普遍的な指標はあるかという認知科学的な問いと,2)あるとすればそれを研究者が探して学校現場に適用するというトップダウンなモデルと,教員が各々の状況に適用できる指標を探してその共通性を探るというボトムアップなモデルと,教員が研究者の用意した既存の指標から出発して独自な指標を探すのと同時に教員が独自に開発した指標を研究者が横展開して普遍性を確かめる両方を行って指標の普遍性を高めるというミドルアウトなモデルのどれが実行可能で,かつ現場の学習の質を上げるかという学習科学的な問いの二つの答えを出す.
そのために協調学習の授業実践データ(少数グループの対話記録)を参加者と共に簡単に分析し,指標の候補を考えた後,データ提供者の分析結果,分析希望者(下記で詳述)の分析結果,及びそれらの分析を同じ授業の別グループ,さらには別授業に展開した場合のビッグデータ分析結果を共有し,最後に分析者及びフロアとのディスカッションで上記二つの問いを議論する.
背景として,認知科学や認知心理学の学習研究では,研究の標準的な枠組みとして,概念理解や知識獲得,協調問題解決能力など,介入・育成・評価したい目標を定め,その程度を把握する「指標」を定めて,介入等がどの程度の効果をもたらしたのかを分析するステップを取ってきた.結果の導出においては,指標の探索やその作業定義(operational definition),具体例収集と指標を使ったコーディングが重要なことは認知科学/心理学者であれば誰しも同意するところだろう.エスノグラフィーから考えれば,「指標自体が学びを可視化する」と言ってもよいぐらいに大きな影響を持つ.
さて,認知科学/心理学では,この指標の設定と分析について,研究者がスモールサンプルのデータを取って,それを舐めるように多方面から指標探しと分析を繰り返して,本人が最も納得できる指標セットを作り,そこから結果を一挙に一般化することがほとんどだった.しかし,学習科学の発展につれて教室でこのようなデータセットを各教員が収集でき,今までの丁寧さで少数の研究者が分析するには一生かかっても終わらないほどのビッグデータが集まり始めると,「誰がどう指標を定義し分析するか」が大きな問題として浮上してきた.加えて,目前の子どもたちの学びの質向上のために,教員自身が学びの分析=評価の主体として力量向上をしていくことの必要性と有効性も一層増している.さらに,このようなビッグデータを基に子どもたちの学びの「多様性」が見えてくると,研究者がスモールサンプルを基に一般化してきた知見のひ弱さと視野の狭さが顕著に浮かび上がる.これからの真に実践的な学習研究のためには,みんなが指標作りを巡って学び合う必要があるだろう.
にもかかわらず,PISA2015の「協調問題解決能力調査」では,研究者が一方的に決めた指標で世界中の子供たちの協調問題解決能力が測られたことになっており,協調学習の進展につながるかが疑わしい.
そこで本OSでは,「協調学習の効果をどう検証するか」というテーマにフィールドを絞って,次の二つの問いに取り組みたい.
- 協調学習の効果をよりよくとらえられる指標はあるか
- その指標が一定程度決まるとして,それを誰がどういう形で決めていくといいのか,その全体としての体制やプラットフォームはどのようなものであるべきか
最初のフェイズでは,提案者が準備した教室場面における協調学習の発話の書き起こしデータ(中学生理科の対比的な二授業の各2グループのデータ)を用いて,参加者がペアあるいはチームで簡単にその場で分析を行い,データの概要をつかみ,指標を検討し共有する.
次のフェイズでは,招待発表者及び分析希望者が同じ協調学習の発話データを分析した結果を発表する.さらに同じ分析をビッグデータに適用した結果も必要な範囲で発表する.
最後のフェイズでは,指標づくりを誰がどのように決めて進めていくと良さそうかについて議論を行い,認知科学の学習研究が評価の刷新に貢献すべき方向性を考える.
なお,「分析希望者=公募発表者」は次のように募集することにする.
- 分析(公募発表)を希望する者はmasukawa(a)u-sacred-heart.ac.jp; shirouzu(a)coref.u-tokyo.ac.jp((a)は@に置き換えること)にメールをして分析対象のデータを受け取る.なお,分析を実際に行う場合でも第三者にデータは開示しないこと.また分析を行わない場合,あるいは学会終了時にはデータを破棄すること(雑誌論文等で後日投稿することはご遠慮いただく).
- 2018年4月13日(金)に分析指標と結果を,自らの分析目的,狙いと結果の解釈と共にまとめて論文の形式で申請すること(申請方法は通常のOSでの発表と同様).
食文化の固有性・共通性から考える翻訳可能性:食感のオノマトペ・ワークショップを中心に
オーガナイザ:原田康也(早稲田大学),森下美和(神戸学院大学),平松裕子(中央大学),福留奈美(早稲田大学),佐良木昌(明治大学)
セッション形式:公募発表,招待講演,ワークショップ,全体討論
日程:8/31 PM
公募:2件
概要:
寿司・天ぷら・ラーメンにとどまらず,和食・日本食を標榜する飲食店は,その内容と質はひとまず置くとして,世界中で話題となっている.一方,2017年訪日外国人観光客累計2800万人超え(2017年12月の推計)が示すようにインバウンド観光客が増加し,その興味・関心の中心に食に関する好奇心があることも明らかである.しかし,日本固有の食文化を日本語を知らないインバウンド観光客や日本語に十分熟達していない国内定住外国人にいかに伝えるかは,一筋縄ではいかない課題である.
「刺身」を "raw fish" と英訳していた 1970 年代には raw を uncooked と捉え,調理としての刺身を理解できないという問題があった.「伊勢海老の具足煮」をどのように英語で伝えるか,伊勢海老を英語でどう表すか,具足煮という表現の持つ華やかさをどのように伝えるかなど,一つ一つの料理名の訳出方法にも多くの課題がある.また,素材となっている野菜・肉類・魚介類については,生物種としてかなり離れていても,食感・食味が近いものもあり,科学的・生物学的に厳密に訳すことが目的を果たすとは限らない.料理についての補足的な説明の中で,オムレツが「ふわとろ」,お菓子が「サクサク・もちもち・ふるふる」,海老春巻きが「プリプリ」など,食感に関わるオノマトペをどのように伝えるかも重要な課題である.
本 OS の提案者たちは,国内在住外国人・インバウンド観光客に観光・防災・生活情報を提供する上で,単にわかりやすいというだけでなく,日本固有の歴史・習俗・風習・価値観などの文化的な側面に対する深い理解と共感を促すような伝達方法を探求することが,日本に対する安心感・信頼感に繋がると考えている.防災・減災情報の適切な伝達方法を考える上でも,言語文化背景ならびに個人ごとに異なる感覚をどのように言語的に共有するかは重要な検討課題である.言語による思考の相対性と相互翻訳可能性という認知科学の原理的な問題意識を踏まえつつ,言語学の分野で成立しつつある culinary linguistics (料理の言語学)の知見も参照しつつ,認知科学・理論言語学・語用論・観光情報学・調理学・自然言語処理・日本語教育・英語教育の知見を持ち寄りつつ,食文化の固有性と共通性からこのような食にまつわる言語表現の翻訳可能性について議論をすることで,食文化の固有性・共通性に対する考察を深め,今後の研究交流のきっかけとしたい.
記号接地問題
オーガナイザ:今井むつみ(慶應義塾大学),佐治伸郎(鎌倉女子大学)
セッション形式:招待講演,パネルディスカッション
日程:8/31 PM
公募:なし
概要:
感覚・運動と記号がどのように統合されるのかを問う記号接地問題は,認知科学における中心的問題の一つである.2015年度認知科学会大会OS「身体と記号」では,記号の意味を支える身体の役割を中心にこの問題に迫った.また2016年度認知科学会OS「記号接地の原動力としての仮説形成推論」は,仮説的推論を議論の中心に据え,どのような推論のメカニズムにより身体と記号とのつながりが説明されるのかを議論した.これらの議論を踏まえた集大成として,今年度は原点に立ち返り,「記号接地問題とは何か」という問題を考えたい.当初Harnad(1990)により提案された時点での記号接地問題(symbolgrounding problem)とは,心に対する記号主義的アプローチに対する理論的批判であり,開かれた世界と記号的認知の繋がりについて具体的な提案をしたわけではなかった.Bausalou(2008)に代表される接地された認知(grounded cognition)を捉える諸理論は,如何に感覚運動的情報が離散的表象を形成するかを説明するモデルを提供した.また,今井(2014)や橋本(2014)では,身体から離れた記号が,更に抽象的な思考の道具となる過程まで含めて記号接地問題を捉えているが,前者は語彙習得,後者は談話全体の理解というように,異なるレベルで捉えている.記号接地問題に対するアプローチも,外界における連続的情報をいかに離散的カテゴリーに捉えるのかという点に焦点を当てた計算論的研究や,状況依存的な知識が状況横断的な知識へと再編成されていくのかを探る心理学的研究など,幅広い研究が混在している.本企画では,記号接地問題を考える多分野の研究者を招聘し,それぞれの考える記号接地問題について議論を交わすことで,記号接地問題の現代的意義は何か,何が未解決なのかを明らかにすることを目指す.
プロジェクション・サイエンスの深化と融合
オーガナイザ:川合伸幸(名古屋大学),米田英嗣(京都大学)
セッション形式:公募発表,招待講演,パネルディスカッション
日程:8/31 PM
公募:5件
概要:
認知科学や心理学では,ヒトが外界についての表象を持つことを前提としている.しかし,環境内でさまざまな対象とかかわるためには,表象を外界に結びつける仕組みが必要である.その仕組みをプロジェクション(投射)と呼び,新たな研究の展開を目指してきた.プロジェクションが,これまでの認知科学や心理学と異なるのは,積極的に意味を見いだすことである.たとえば,墓石はただの石でしかないが,縁のある人にとっては故人の表象を生み出す手がかりである.また,腐女子に見られるように,ただの男性同士の関係(上司と部下など)に,それ以上の恋愛関係をあえて見いだすなど,外界からの入力に意味を加えて,新たに環境を認識する.それらのように,積極的に意味を付与する心の働きをプロジェクションの1つと捉え,それを成立させる要因や対象にはどのようなものがあるかを探求する.
哲学者の戸田山氏を招き,「心的表象がいかにして世界の中の何かを『意味する』ことができるのか」という,psychosemanticsについて講演していただく.そのほかに,4−5件程度のプロジェクションに関する口頭発表を公募する.さらに,「世界に意味を見いだすプロジェクション」というタイトルでパネルディスカッションを企画する.ディスカッサントは3人を予定しているが,公募発表者からもディスカッサントを募り,合計6人程度でのパネルディスカッションを開催し,プロジェクションとはどのような心の働きであるかについて多角的に検討する.
心を揺さぶる,社会を動かすエージェント科学の最先端
オーガナイザ:高橋英之(大阪大学),大澤博隆(筑波大学),日永田智絵(電気通信大学),渡辺美紀(大阪大学)
セッション形式:公募発表,招待講演,パネルディスカッション
日程:8/31 PM
公募:5件
概要:
近年,人間とかかわる社会的エージェント(社会的ロボット含む)の研究開発が進んでいる.ヒューマンエージェントインタラクション研究の国際会議も立ち上がり,この分野のますますの盛り上がりが期待される.その一方で,エージェントが社会に展開していく道筋については未だ不確かなことが多い.現状での商用利用のエージェント開発は,現場での経験や勘に頼っているものが多く,社会に大きなインパクトを与えられているとは言えない.エージェントのさらなる社会浸透のためには,より普遍的・科学的視野に立ったエージェントの設計原理の確立が必須である.また,現状でのエージェントの有効性の評価は,エージェントの開発を行っている工学系の研究者が質問紙や行動の評価で行う手法が主流であり,エージェントの存在が我々の心に作用する詳細な機序に迫る科学的な研究は発展途上である.我々の心を大きく揺さぶり,社会を動かしていくようなエージェントの設計原理を確立するためには,認知科学の視点を取り入れ,エージェントが我々の心理,そして社会に及ぼす影響のメカニズムを科学としてモデル化していく必要がある.
本OSにおいては,社会的エージェント研究に広い意味で貢献する心理学,神経科学,哲学,芸術などの領域の研究分野の第一線の研究者,そして企業においてエージェント開発に取り組んでいる方々を招待講演,公募発表において広く募集することで,実験室を超えて,我々の心を揺さぶり,社会を動かしていくような強い持続的存在感をもったエージェントを生み出すための学際領域の確立に向けての議論を行いたいと考えている.
後援:
文部科学省 科学研究補助金 新学術領域研究「認知的インタラクションデザイン学:意思疎通のモデル論的理解と人工物設計への応用」