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[L1] フェロー講演

9月13日(水) 14:30 - 15:30 会場:101講義室
    筧一彦(名古屋大学名誉教授),横澤一彦(東京大学)
    「聴覚のつじつま合わせ」

      講演者:筧一彦(名古屋大学名誉教授,中京大学人工知能高等研究所)

     聴覚の分野の中でも音声知覚を取り上げる。音声知覚とは音声から音素のような記号列を知覚することである。音素情報は、調音結合などのため音素環境依存性を持つ。また、音声信号中に時間的にかなりの範囲にわたって分散し、周辺の音素情報と混合して存在している。このため音声信号中に不変的な音素特徴量はなく、個々の音素特徴の抽出も難しい。音声中の音素情報には離散性や文脈自由性は見られない。音素特徴には個人性、多様な話し方の影響、空間伝搬過程での多重反射や雑音相加などがあり、リアルタイムでの音声知覚の情報処理には多大の困難が伴う。このため音声知覚の処理過程は、「つじつま合わせ」に満ちている。
     音声知覚における知覚的統合過程について述べる。特に知覚単位の大きさ、知覚的統合が起こる処理レベルや条件、言語依存性について述べる。また、音声として聞こうとする構えや異種モダリティの統合に対する影響についても触れる。



    「視覚のつじつま合わせ」

      講演者:横澤一彦(東京大学)

     高次視覚における統合過程を総称し、統合的認知と呼ぶ(横澤, 2014)。その本質は、食い違う脳内情報に対する瞬時で総合的な判断であり、それを「つじつまを合わせる」ではなく、「つじつまを合わせたがる」と表現している(横澤, 2017)。偽物の手でも自分の手だと思い込むラバーハンド錯覚、視覚的にも聴覚的にも存在しない音声だと思い込むマガーク効果など、一見すると論理的につじつまの合わない状況が存在するときに、脳が瞬時につじつまを合わせた解を導き出してくれるので、その解に対応する行動ができる。脳は、基本的に調和のとれた、つじつまの合った世界が構成されていることを前提に、効率的な処理を実現させている。現実世界には雑音が多く、あまり厳密な解を求めようとすると、いつまでたっても解が得られないことになりかねない。それを回避するために、脳はつじつまを合わせたがる仕組みになっているのである。