プログラムの詳細

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スケジュール

9月16日(金)
 9:30 オーガナイズドセッション
 13:00 オーガナイズドセッション
 15:50 オーガナイズドセッション
9月17日(土)
  9:00 口頭発表1
 10:30 特別企画 長谷川壽一・開一夫・植田一博
    「ヒト/動物/人工物の社会性の認知基盤:解明と応用」
 12:50 総会・野島賞 報告セッション
 14:10 特別講演 ワイン醸造家 佐々木佳津子
    「ワインの香りとコミュニケーション」
 15:20 口頭発表2
 16:30 フラッシュトーク
 17:30 ポスターセッション1 & 懇親会
9月18日(日)
  9:00 口頭発表3
 10:30 フェロー講演 乾敏郎
    「言語・非言語コミュニケーションの基盤機構と発達原理」
 12:30 会長講演 大森隆司「 対人インタラクション知能の解明に向けて」
 13:40 ポスターセッション2(15:40 終了)

特別講演(9月17日)

題目:ワインの香りとコミュニケーション
講演者:佐々木佳津子氏(ワイン醸造家)
概要:果実の中で、唯一ブドウから造られたお酒だけが「ワイン」と呼ぶことを許され、時代と共にコミュニケーションの場に存在している。その中でも造り手、飲み手、ソムリエなどの間で、ワインの香りと味わいを表現する為に生まれた様々な言葉が共有されている。  日本では、まだワインの歴史はそれほど長くなく、消費者の中でようやくワインと言うものが一般化されつつあるが、ワインを取り囲む情景の中で、共通言語を用いることはまだまだ時間が必要と考えられている。  ブドウからワインへの変化、微生物による発酵、酵素による変化、熟成など様々な工程が関与することで生じる香りの一部分をご紹介しながら、ワインの持つ魅力に迫ります。




においと味わいの不思議: 知ればもっとワインがおいしくなる
東原和成, 佐々木佳津子, 伏木亨





Organized Sessions (9月16日)

0S01記号接地の原動力としての仮説形成推論
企画:佐治伸郎(鎌倉女子大学)・渡邊淳司(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)
概要: 感覚・運動と記号がどのように統合されるのかを問う記号接地問題は,認知科学における中心的問題の一つである(今井, 2014).2015年度認知科学会大会OS「身体と記号」では,特に身体の役割を中心にこの問題に迫った.一方でこの問題をより一般的に“grounded cognition”(接地)の問題として捉えるならば,認知主体と環境との関係性や(e.g., Spivey,2007),多感覚情報の内的なシミュレーションとしての記号システム(e.g., Barsalau, 1999)等,より広い視点から議論する必要があることも見えてきた(Barsalau, 2008. Annu. Rev. Psychol 59:617–45も参照).昨年のOSを含め,これらの議論は,人間の認知システムが多様で連続的な感覚運動情報をどのように離散的な記号・概念を結びつけるかを説明しようとするものであるが,それを現実世界で可能とするためには,主体が何らかの仮説を生成し認知を行う必要がある.たとえば,子どもは言語習得の過程では,色,形,触感などモノの多様な属性の中でもその命名基準は「形」であるという仮説を持つことが知られている.このような仮説形成の機能が,感覚運動情報と記号・概念とを接地させることを可能にし,言語体系を構築する原動力となる.仮説形成推論と接地との関係をこのように捉えることは,言語習得のみならず,技能の熟達,科学的発見等,多様な議論を記号接地問題として捉えることを可能にする.本セッションでは,感覚・運動の接地に関する諸問題を整理して論じるために,その背景として仮説形成推論をとりあげ,ひとつの統一的理解の視点を提供する.

0S02協調学習からみたプログラミング学習におけるインタラクションの可能性(協調プログラミング)
企画:遠山紗矢香(静岡大学)・松澤芳昭(青山学院大学)・竹内勇剛(静岡大学)
概要: プログラミングの利点の一つは,自らの考えた手続きをプログラムに加工して入力さえすれば,その実行結果を即座に確認できる点である.この利点は,自らの考えをプログラムとして書き出し,実行結果を確認しては,微修正を加えたり別の方法を試したりする探索的な活動の連続へと学習者を方向づける.近年の直感的に操作できるプログラミング環境を使えば,人とプログラムの間のインタラクションは,断片的な情報が速いテンポで何度も行き来するものになる.これは新しいインタラクションの在り方だと言える.
 一方で,こうしたスピード感に溢れた試行錯誤的なインタラクションの産物としてプログラムが「できた」という段階から,自分が書いたプログラムの意味が「わかった」といえるようになるまでの間には,一定の距離が存在する.プログラムの意味をわかるには,「なぜそうなるのか」という機構面の理解が要請されるが,プログラムができただけの場合は,「どのように動くのか」という機能面,つまり現象の理解までで十分だからである.
 そこで,本セッションでは,協調学習の観点からプログラミング学習における機構面理解の深化を探る.具体的には,これまでの学習研究で培われてきたインタラクションを通じた個人の理解過程の分析,学習者間の対話分析,エージェントを用いた学習支援や分析手法等を用いて,プログラミングの機構面の理解深化に対してインタラクションがどのように寄与したかの検討を試みる.
 当日は,プログラミング学習の実践者を招き,プログラミング学習一般の特徴や課題について展開する.そのうえで,企画者らが行うプログラミング協調学習ワークショップの現場でどのような学びが起こり得るかを認知科学的に捉える.フロアも含めてマルチボーカルな環境で結果を検討することで,プログラミングが持つ特殊性を踏まえたインタラクションの意義と課題について仮説を提示する.


OS03プロジェクション科学の創出をめざして(プロジェクション科学)
企画: 鈴木宏昭(青山学院大学)・小野哲雄(北海道大学)
概要:本OSでは,表象のプロジェクションに関わる多様な分野の研究を持ち寄り,プロジェクション科学という新しい研究コミュニティーを作り出すことを目指す.
 認知科学はこれまで,外部からの入力がどのように処理され,貯蔵され,利用されるかを主に研究してきた.しかしながら,人は作り上げた表象をもう一度自らの外に投射=プロジェクションする.情報処理システムの内部に作り上げたれた知覚表象は外界に定位される.記憶表象も世界に再投射され,我々をとりまく世界を了解可能なものとし,さまざまな活動の基盤を形成する.これらの基礎的な認知過程だけでなく,デザイン,表現,などの創造に関わる外化活動もその中に確実に投射という心の働きが含まれている.さらには,ごっこ遊びに見られる想像,想像上の友達(imaginary companion),トーテミズム,フェティシズム,(幽)霊,神などのようにagencyを含めた投射(擬人化,人格化)も考えられる.
 このように投射は遍在的であるが,その機構,過程,発生についての研究は方法論上のむずかしさもあり,活発に行われてきたとは言い難い.しかし情報科学におけるagentアプローチ,ロボティクス,拡張現実感などの発展により,人のさまざまな感覚の投射を制御し,これを精密なレベルで検討する可能性が出てきた.特にHAI (Human-Agent Interaction)の研究では,コンピュータ上のキャラクタ,ロボットなどに対する人間の投射行動についてかなりの程度の研究の蓄積がなされてきた.また,脳科学においてもTMSなどを用いて脳の状態をコントロールすることにより,通常とは異なる投射を生み出す可能性が見出されてきている.
 プロジェクション科学は,上記の多様な分野の知見を総合して,投射についての科学の基盤を作り出すことを企図している.ただし,現時点で投射についての理論的な枠組みはもちろん,明確な基準があるわけでもない.そこで本OSでは,発表者自らが投射である,あるいはそれと密接に関わると定義した自らの研究を持ち寄って議論し,プロジェクション科学の輪郭作りから始めたいと考えている.具体的には2件(程度)の長めのトーク,参加者の研究概要の紹介と投射との関わりについての発表を行う予定である.


0S04「生活の場」というフィールドでの認知科学研究:挑戦と可能性(生活の場での認知科学)
企画:須藤智(静岡大学)・富田 瑛智(筑波大学)・新垣 紀子(成城大学)・原田悦子(筑波大学)
概要: 認知科学の一研究分野である認知工学では,モノ,システム,サービスといった「人工物」の使いやすさ,あるいはユーザエクスペリエンスの向上を追究すると同時に,人工物という操作可能な要因を利用した,人間の高次な認知過程,心的メカニズムを捉える研究が進められてきている。その中で,状況と目的の重要性が明確となり,たとえ人工的環境内での研究であっても,「本来の利用の場を常に前提とした研究・分析」が中心となってきている.
 こうして,公的空間や「仕事の場」で利用される人工物については,実際の利用場面を観察・分析し,人工物の設計,改善に結びつける試みが進んできた。しかし,人工物の情報化・モバイル化の進展も手伝って,個々の人間の個々の「生活」の中での,より日常的な活動に沿って利用される人工物についても検討が求められてきており,一方で,「生活」という場が高次の個別性,複雑性を有することもあり,認知工学的認知科学の研究として,あらたな挑戦となってきている。
 そこで,本セッションでは,「生活の場というフィールドへの挑戦」として,具体的な研究事例を紹介しながら,さまざまな人工物が使われる「生活の場」というフィールドの中で,どのように人工物の使いやすさ研究あるいは認知科学的研究を進めていくのか,そうした「生活の場」での研究への挑戦から新たに見えてくる可能性は何か,議論を展開していきたい. セッションは,オーガナイザーによるトーク(15分トーク×4),一般公募講演者によるトーク(15分トーク,5分議論×3),総合議論30分で構成する。
 一般公募では,SNSのような「ヴァーチャルな世界」での生活も対象として含み,また人工物の使いやすさに限定されず「日常的活動をとらえる」認知科学,あるいは,IoTやビッグデータ解析などの方法論を利用した研究可能性など,多様な視点での研究報告を歓迎する。もちろん,企業の研究者らの発表も歓迎する。


0S05創造性のキモをつかむ(創造性のキモ)
企画:阿部慶賀(岐阜聖徳学園大学)・ 清河幸子(名古屋大学)・寺井仁(近畿大学)
概要: 新しいものを生み出す,これまでにないやり方で問題を解決するなど,創造性が関わる認知活動は,認知科学において常に関心を集めてきた。これまで,行動実験,神経科学的検討,計算機モデリング,フィールドワーク,インタビューなどの様々なアプローチにより,洞察,アイデア生成,芸術,デザイン,発見等,多様なテーマについて研究が蓄積されてきた。その結果,創造性が関わる認知活動を促進する,あるいは妨害する要因や,その生起メカニズムなどが徐々に明らかにされてきている。しかし,方法論やテーマの異なる研究領域間の交流は比較的乏しい状況にある。そこで,本オーガナイズドセッションでは,昨年度に引き続き,研究領域間の交流に重点を置き,研究間の関係性を明らかにすること,また,新たな協同の可能性を探ることを目的とする。 具体的には,洞察,アイデア生成,芸術,デザイン,発見など,広く創造性に関わるテーマを扱う研究発表を募集する。タイトルにある「キモ」とは,「創造性とは何か」「創造性を生み出す認知プロセスとはどのようなものか」「創造性を高めるのに必要な要因は何か」など,創造性を考えるにあたって各自が重要と考える問いとその答えを意味している。それぞれがキモと考えるテーマについて発表するとともに,(a) 創造性をどのように捉えるのか,(b) 創造性を高める上でどのような要因・条件が必要かの2点を共通の問いとし,発表時に,各自の研究を報告することに加えて,問いへの回答を明示することを求める。また,今年度は招待講演枠を設けることで,創造性に関する新たな視点の提供をしたいと考えている。多様な背景をもつ研究者が,創造性に関する共通の問いを足場として議論を行う中で,それぞれが考える創造性のキモをつかむきっかけとなることを期待している。

OS06J・D・M:Literacy, individual differences, and so on...(JDM)
企画: 中村國則(成城大学)・本田秀仁(東京大学)
概要: 2015 年に引き続き、JDM(Judgment and Decision Making)研究に関するセッションを開催する。本年は、 “literacy”, “individual difference”という問題を中心トピックとして扱う。 近年のインターネットをはじめとする情報技術の進歩により、一般の人も容易に様々な情報にアクセスできる状況にある。どのような人でも多くの情報を容易に入手できるという意味では好ましい状況にあると考えられる一方、各個人が“正しい”、あるいは“合理的”な判断や意思決定を行うためには、適切な形での情報の真偽判断、取捨選択が不可欠である。このプロセスにおいて、言語的情報、数的情報、図的情報に関する“リテラシー”が重要な認知的要因として関係する。またこのリテラシーには個人差が存在していることが知られている。このようなことから、近年、“リテラシー”、または“個人差”をキーワードとした判断・ 意思決定の研究が盛んに行なわれている。そこで本セッションでは、各個人が“正しい”、 あるいは“合理的”な判断や意思決定を行うために、認知科学研究からどのような提言ができるか、という問題について、リテラシーや個人差をキーワードとして議論していきたいと 考えている。 この目的を達成するために、以下のようなセッションを計画している(詳細は後述のセッション形式を参照のこと)。まず、判断や意思決定に関わるリテラシーや個人差研究の最新 知見を2名の研究者にご講演いただき、判断・意思決定におけるリテラシー、個人差について考える場を設ける。また会員による通常講演では、扱うトピック・研究手法を含め、幅広い内容をできる限り扱い(リテラシーや個人差を考えるヒントがあれば、これらを直接的に扱う研究である必要はない)、“正しい”、あるいは“合理的”な判断や意思決定を我々はどのように達成できるのか、という問題を議論したい。

0S07認知科学は舞台芸術を語れるのか?(舞台芸術と認知科学
企画:安藤花恵(西南学院大学)・後安美紀(urizen)・佐藤由紀(玉川大学)・渋谷友紀(明星大学)
概要: 日本認知科学会は設立当初より、パフォーマンス、わざ、身体性といったトピックを積極的に取り込む形で発展してきた。総合芸術と称される舞台芸術は、そのようなトピックを凝縮している絶好の対象だと考えられる。しかし、「舞台芸術の認知科学」という形で、対象の扱い方や研究方法についての議論が継続的に行われてきたとは言えない。また、舞台という実践的なフィールドを対象としていながら、実践者との対話も活発とは言い難い。そのため、たとえば、次のような問題が積み残されていると考えられる。
① 舞台芸術は時間芸術である。その場に現れては消える一回性の表現を真髄としている。一回性を真髄としている時点で、再現性を保証していない舞台芸術を、「同じ条件満足するいくつかの例から帰納した普遍妥当な知識の積み重ね 」である科学的手法で解明しようとすることは、そもそも可能なのか。
② もし可能なのだとしたら、どういった目的に対して、どのような手法が考えられるのか。また、その手法で明らかにされたことは、認知科学や舞台芸術分野にどのような貢献ができるのか。
 本セッションでは、演劇、伝統芸能、ダンス、音楽、即興(インプロ)などの舞台芸術を対象に、これまで舞台芸術を研究してきた認知科学者、舞台芸術の実践者などから広く発表を募集する。舞台芸術についてさまざまなバックグラウンドを持って関わっている者たちとの間で意見を交わし、認知科学者が目指している方向は、果たして舞台芸術の真髄へと迫れるのか、を問いたい。


0S08情報学/物語学―「人工作者」の時代のために―(情報学/物語学)
企画:小方孝(岩手県立大学)・川村洋次(近畿大学)・金井明人(法政大学)
概要: 近年,国内外において,新聞記事を自動で書くシステムの実用化,小説執筆を支援するシステムを使った小説作品の販売,特定の作家風の文章を自動で作るシステムの宣伝,等のニュースがしばしば耳に入るようになった.『ガリヴァー旅行記』では揶揄的に扱われていた「文書自動製造機」は,現在では既に現実のコンテンツビジネスの課題になりつつある.物語や小説のみならず,ニュース,広告,映像,音楽等を含めた多様なコンテンツを,程度の差はあれ自動的に生成・産出するシステムを総称して,オーガナイザは新しく「人工作者」と呼ぶ.
 学問的には,特に欧米において,物語生成や文章生成は,特に人工知能・認知科学・自然言語生成との関連でかなり古くから多くの研究が蓄積されて来ている.本セッションでは,この学問的蓄積の事実とサーベイを踏まえた上で,人工作者に向けた,またこれと関連する様々なテーマを議論する.オーガナイザは,情報学(人工知能や認知科学等)と物語学(既存の物語論や文学理論等)との学際領域において展開される物語生成システム,広告等コンテンツビジネスへの自動生成システムの導入について,映像分析とその自動生成等の主題に特に興味を持つが,無論話題がそれに限定される必要はない.また,情報学的・認知科学的・統計的・文学的・心理学的・経営学的等諸種の方法・アプローチを受け入れる.想定されるテーマとして,上記のもの以外に,以下のようなものがある(その他のテーマもあり得るだろう).

     
  • 物語,小説,エッセイ,詩,短歌,俳句,ゲーム,マンガ,映像,画像,写真,日記,スケジュール,手紙,音楽,広告,新聞記事,ツイート,等々,考えられるコンテンツの自動生成の方法,技術,システム等の提案,
  • そのためのコンテンツ分析(上述のような様々な方法による),
  • 特に,言語,映像,音楽等の表現メディアの諸種の方法による分析,
  • 社会や経営の観点からの人工作者の検討,
  • 文学等に描かれた人工作者の紹介や分析,
 なお,情報学/物語学における“/”は,情報学の観点からの物語や物語論への接近と,逆に物語学の観点からの情報学への接近との,双方の接近法を均等に扱うというニュアンスを表現したものである.本セッションは,両方向からの接近を共に扱う.

OS09フィールドに出た認知科学2(フィールド認知)
企画: 伝康晴(千葉大学)・諏訪正樹(慶應義塾大学)・藤井晴行(東京工業大学)
概要:認知科学はこれまで、知能に関するモデルを心理学的実験やコンピュータシミュレーションによって検証することを主たる方法論としてきた。しかし、人工的な環境での実験やシミュレーションは、予め想定される特定要因のみに着目したものにならざるを得ず、実環境や実生活での知の姿を明らかにするためには限界があるという批判も叫ばれていた。
 知能はそれ自体独立して存立するのではなく、主体の身体、身体を取り囲む環境や他者、社会や時代とともにある。環境の中で物事を認識し、行動し、他者と交わりを持ち、社会の中で影響を受けながら、知は発現し、進化する。したがって、実環境や実生活のなかにある知の姿を観察・記述・分析しないと、知の本質には迫れない。
 このような問題意識のもと、我々は『認知科学』誌で同名の特集号(2015年3月発刊)、第32回大会で同名のオーガナイズドセッション(2015年9月開催)を企画し、いずれも盛況のうちに終えることができた。本企画はこれらの流れを引き継ぎ、認知科学におけるフィールド研究を定着・発展させることを目論むものである。
 「フィールド」とは研究者によって設定された人工的活動や統制された実験環境ではなく、当事者たちの生活におけるリアルな動機や目的に基づく自発的な活動が繰り広げられる場を指す。生活のなかにはそのような場が溢れている。例えば、スポーツ・演劇・ダンス・音楽・料理・教育・介護・制作などである。こういった現場を研究対象にして、ひとの行動をつぶさに記録・観察し、フィールドの個別性や状況依存性と対峙しながら、知の姿についての新しい研究仮説や理論構築につながる知見を得るような萌芽的研究を募集したい。必ずしも客観的な方法論に基づき普遍的な知見を得ることに縛られる必要はない。自分自身が研究対象に含まれるような一人称的視点の研究も歓迎したい。 


0S10ICT による観光資源開発支援:心理学的効果を応用した期待感向上(観光資源開発支援)
企画:伊藤篤(宇都宮大学)・森下美和(神戸学院大学)・平松裕子(中央大学)・原田康也(早稲田大学)・上田一貴(東京大学)
概要: 様々なサービスにおいて、標準化と個別化はジレンマになりうる課題である。これは旅行・観光サービスについても例外ではない。インターネットにより日常が際限なく広がり世界の均一化が進む。食事や地図などの情報提供が旅の利便性を向上させる一方で、地域固有の文化をどのように外国人や次の世代に伝えていくのか。日本固有の文化をどのように多言語化するのか、様々な課題が残る。
 これまで、ICTを利用した様々な観光資源開発支援技術が開発され、各地で実証実験や実用化が行われてきたが、有効な手段となっていないのが現状である。既に700あまり存在するご当地アプリは、無料であってもインストール数は必ずしも多くない。このような現状を生んでいるのは、ICT技術そのものが十分に成熟していないことも一因であるが、観光情報を個々のサービス利用者のニーズに合わせて伝える,観光地に期待を持たせるように伝える,記憶に残りやすいように伝えるなど,利用者の心理面を考慮した情報提供が実現できていないのが主要な要因であると考えられる.観光情報を単なる地域の情報の山盛りではなく、どのようにユーザにとっての未知の部分を作り期待してもらうか、それをどのように発信することで、魅力的な情報として注意を惹き覚えてもらうかなどの様々な課題について、認知科学的アプローチによる検討が必要である。
 そこで、本セッションでは、例えば、観光の心理学モデル、インバウンド旅行者向けの多言語による観光情報提示における認知モデル、hospitality communicationなどをテーマとし、非日常の経験としての旅の魅力・文化を国内外の観光客に情報提供する仕組みを、認知科学の観点から議論する。


0S11-1学校内外の学びをつなぐ(1) パネルディスカッション
企画:岡部大介・ 白水始・ 益川弘如・ 伊藤崇
概要: ICTやデータサイエンスの力で,学校でのフォーマルな学習と学校外でのインフォーマルな学習をシームレスに支援・評価する世界が実現されつつある.学校内でも,毎日の授業に見られる子供同士の会話や子供と教師のやり取りなど相互行為を可視化・数量化し,授業改善につなげる試みも始まっている.しかし,テクノロジが力を増したこの世界で私たちがいかなる教育を行いたいのか,学校の中だけでも多様で複雑な子供たちの学びの過程を,さらに学校の外といかにつなぐのかについては十分に検討されていない.またはそもそも,学校の内/外,もしくはフォーマル/インフォーマルといったような二元論的な学習の捉え方自体が,この議論を停滞させる要因のひとつになっているのかもしれない. 2015年度は,上記の問題意識のもとで,機関誌『認知科学』に同名の特集号が企画された(「学校内外の学びをつなぐ」).本特集号は,2016年9月発行の学会誌に掲載予定である.よってこのオーガナイズドセッションは,上記『認知科学』の特集号の趣旨に依拠したセッションとなる. 本セッションでは,学校内外の学びを広く対象として,学習科学や行動科学,データサイエンス,状況論的アプローチ,認知論的アプローチなど学問分野や手法を問わず,学校内外の学びをいかにつなげるか,人の一生に亘る学習をいかに支えるかに資する研究を集め,私たちがこの先,テクノロジの力を使いこなして,どのような世界を創り出していくべきかの議論を交わす機会としたい. なお本セッションは,SIG DEE(教育環境のデザイン分科会)の協力を得て実施される.また,オーガナイズドセッション「学校内外の学びをつなぐ(2)」との連動企画である.

0S11-2学校内外の学びをつなぐ(2) ラウンドテーブル
企画:岡部大介・ 白水始・ 益川弘如・ 伊藤崇
概要: ICTやデータサイエンスの力で,学校でのフォーマルな学習と学校外でのインフォーマルな学習をシームレスに支援・評価する世界が実現されつつある.学校内でも,毎日の授業に見られる子供同士の会話や子供と教師のやり取りなど相互行為を可視化・数量化し,授業改善につなげる試みも始まっている.しかし,テクノロジが力を増したこの世界で私たちがいかなる教育を行いたいのか,学校の中だけでも多様で複雑な子供たちの学びの過程を,さらに学校の外といかにつなぐのかについては十分に検討されていない.またはそもそも,学校の内/外,もしくはフォーマル/インフォーマルといったような二元論的な学習の捉え方自体が,この議論を停滞させる要因のひとつになっているのかもしれない. 2015年度は,上記の問題意識のもとで,機関誌『認知科学』に同名の特集号が企画された(「学校内外の学びをつなぐ」).本特集号は,2016年9月発行の学会誌に掲載予定である.よってこのオーガナイズドセッションは,上記『認知科学』の特集号の趣旨に依拠したセッションとなる. 本セッションでは,学校内外の学びを広く対象として,学習科学や行動科学,データサイエンス,状況論的アプローチ,認知論的アプローチなど学問分野や手法を問わず,学校内外の学びをいかにつなげるか,人の一生に亘る学習をいかに支えるかに資する研究を集め,私たちがこの先,テクノロジの力を使いこなして,どのような世界を創り出していくべきかの議論を交わす機会としたい. なお本セッションは,SIG DEE(教育環境のデザイン分科会)の協力を得て実施される.また,オーガナイズドセッション「学校内外の学びをつなぐ(1)」との連動企画である.

0S12脳活動からみる社会性認知のメカニズム(脳活動からみる社会性)
企画:小川昭利(順天堂大学)・座間拓郎(明治大学)・嶋田総太郎(明治大学)
概要: 最近の脳機能計測研究における社会性に関する研究の進展は、「自己」と「他者」との関わりに関する様々な知見を明らかにしてきている。社会性の脳機能計測研究は最も進展の大きな研究分野のひとつであり、その研究成果は認知科学研究に重要なインプリケーションがあると考えられるが、いまだに未解明の部分が大きい。本セッションでは、自己と他者の認識の基盤のひとつと考えられる自己の身体性から、自他の関係の基盤となる共感・コミュニケーション・利他行動・不平等嫌悪・正義などを対象として、社会性の基盤となる認知過程について脳活動計測によって得られた知見をベースに議論を行う。また、脳機能計測研究がどのように社会性の認知科学に貢献できるのか,その役割について議論したいと考えている。
 具体的なトピックとしては、たとえば、自己身体認識、他者性認識、顔・表情認知,視線認知,社会的ゲーム・心の理論、ミラーシステム、模倣・共感、共同作業・コミュニケーション,他者意図理解/推論,利他行動・公平性などが挙げられる.脳機能計測(fMRI, PET, EEG, NIRS, TMS, tDCSなど)研究を歓迎するが、脳機能計測はその測定原理から実験パラダイムなどの自由度を制限することもあり、脳活動としては捉えにくい認知過程に関する実験心理学研究や発達心理学研究なども含めて幅広く募集する。


0S13幼児と人型ロボットはいかにして遊ぶか-保育園における継続観察からみた人とロボットの間を結ぶもの-(幼児、ロボットと遊ぶ)
企画:佐藤公治(北海道大学)・小野哲雄(北海道大学)
概要: 本セッションではロボットと人間の間でどのような共同的行為が可能であるかという問題を保育園児とロボットとの遊びの場面から議論する。最近ではPepperの登場でロボットが人間と生活を共にすることに現実味を帯びてきている。そこではロボットと人間との間でどのようなコミュニケーションや相互行為、意味の共有が可能なのかという問題が出てきて、まさに心理学とロボット工学という二つの分野の学際研究の課題がある。本セッションでは、ヒト型ロボットのNao(仏・アルデバラン社製)と保育園児たちの共同遊びの相互行為の展開を1か月に1回、1年間にわたって観察した結果について発達心理学とロボット工学の二つの立場からオーガナイザーから話題提供をする。ここでは、幼児たちとロボットの共同的行為を可能にしていく働きかけとしてどのようなものが必要であるかを幼児、ロボット、そして保育者の行為分析とその展開の様子を継続的な観察と分析から明らかになっていることを報告する。これに加えて公募による複数の話題提供と、指定討論で全体を構成する。

0S14認知過程をありのままに受け入れる(ありのままの認知過程)
企画:市川 淳(名古屋大学)・清水 大地(東京大学)・中野 優子(東京大学)・布山 美慕(慶應義塾大学)・日高 昇平(北陸先端科学技術大学院大学)
概要: 認知科学では,ある人間の認知過程の特徴を,実験やフィールドワークを通して検討してゆく.研究者は,ある認知過程について,用語から導かれた概念,枠組みを踏まえて議論を行い,理解を深めてゆく.
 しかし,ある認知過程が,環境との相互作用や過去の経験に強く影響される場合,すなわち,認知過程が普遍性だけでなく,一回性をもつ可能性が考えられる場合,その認知を既存の概念,枠組みの中だけで議論することに問題はないのだろうか?本セッションでは,この問題について意識共有することを目的とする.例として,芸術家がもつ「美しさ」の捉え方を科学的に検証する場合,研究者は,「美しさ」という用語から導かれた既存の概念を基に,芸術家に共通する「美しさ」の捉え方を検討するだけでなく,個人のこれまでの活動に依存する捉え方に留意する必要がある.後者に関しては,芸術家個人の間で,あるいは芸術家自身の個人内で,捉え方に変動や多様性があると考えられる.その際,研究者は,後者を「美しさ」という用語から導かれた既存の概念で,前者と同じよう に,あるいは,芸術家個人の間や芸術家自身の個人内において,同じように「美しさ」として扱っても良いのだろうか?場合によっては,「美しさ」よりも適した用語,概念があり,そこから議論した方が認知過程の本質が見えてくることがあるのではないだろうか?
 上記の認知過程を研究として扱う際には,現象としての認知過程をありのままに受け入れ,その特徴を試行錯誤的に検討することが求められる.本セッションでは,認知過程をありのままに受け入れ,探索的に検討した研究を募集する.研究者同士のコミュニティが広まる場になることを期待し,募集する研究領域は問わない.探索的な検討から徐々に明らかにされてきた認知過程の特徴や,ありのままに受け入れることの難しさ,研究方法論について会場全体で議論を行う.