コミュニケーションにおける言語現象の研究は,もっぱら話し手側の行動に重 点が置かれ,聞き手側の行動についてはあまり研究されてこなかった.60年代 になって,話し手と聞き手の接点に研究の焦点が向けられるようになってきた. そこで聞き手側の行動として取り上げられたのはあいづちである [KendonKendon1967,KendonKendon1977,DittmanDittman1968,HallHall1974,YngveYngve1970,DuncanDuncan1977].
日本語のあいづちについて研究した島津ら[島津島津1993]は,電話対話を対象 にして,「間投詞的応答」 1 である「はい」「うん」「ええ」のそれぞれの 直前にどんな「被応答表現」 2がどれくらい出現しているかを分析している. 彼らの分析結果では, 「はい」と「ええ」の直前では,助詞 ねの出現数がもっとも多い.この ことから,あいづちの直前では助詞 ねが出現しやすいものと考えられる.
また,maynard94は,統制条件のない日常会話の観察をもとに,助詞 ねの直後の話者交替の出現数と,さらに,話者交替がない場合のあいづ ちの出現数を調べ,助詞 ねの後ではあいづちが起こりやすいことを報告 している.
これらの研究から,コミュニケーションにおいて,助詞 ねの出現とあいづちの 出現には関係があると言えよう.しかしながら,これらの研究では, コミュニケーションにおけるあいづちの出現数 と助詞 ねの出現数の関係を直接調べているわけではない.したがって, コミュニケーションにおいて, 助詞 ねがあいづちの出現数にどのような影響を与えるのか,逆に,あいづちが 助詞 ねの出現数にどのような影響を与えるのかは,明確になっていない. 後述するように,助詞 ねとあいづちの出現はコミュニケーションの円滑さに寄 与する 現象であり,相互の関係についてさらに突っ込んだ分析が望まれる.
本論文では,あいづちが助詞 ねの出現数にどのような影響を与えるのか を調べた.より具体的に言えば,あいづちを統制対象とした実験会議を行ない, 聞き手側のあいづちが多い場合と少ない場合で,話し手側の助詞 ねの出 現数がどう変わるかを調べた.以下,第2節と第3節ではそれぞれ従来の研究に 基づいて,あいづちの定義と機能,助詞 ねの機能について詳説する.こ れらをもとに第4節では,あいづちと助詞 ねの関係について仮説を設定 する.第5節では本研究で行なった実験会議について,その概要を述べる. 第6節では実験結果の分析を行なう.最後に第7節では,実験結果の考察と全体 のまとめを行なう.