日本認知科学会 1997年冬のシンポジウムのご案内

日本認知科学会の今年(1997年)の冬のシンポジウムは無事終りました。

日本認知科学会の今年(1997年)の冬のシンポジウムを以下の要領で開催いたします。 ふるって御参加下さい。昼休みを利用して日本認知科学会の総会も開催さ れます。

特に事前登録の必要はありません。当日受付においでください。

プログラム(予定)

  1. 9:30 ー 9:40 コーディネータ 趣旨説明
  2. 9:40ー10:30 ゲームプログラミング研究の現状
                          松原 仁(電総研)
    概要
    1997年はゲームプログラミング研究にとって歴史に残る年となった。
    5月にはチェスでコンピュータチェスDeep Blueが世界チャンピオン Gary
    Kasparov氏を破り、8月にはオセロでコンピュータオセロLogistelloが
    世界チャンピオン村上健氏を破った。本発表ではこれらを中心にゲーム
    プログラミング研究の現状を解説する。特に、人間をどこまで真似して
    いるか、どこからコンピュータ独特の方法を用いているか、人間を学ぶ
    ことでどのくらい参考になっているか、などに注目する。
    
  3. 10:30ー11:20 ゲームは認知研究に新しい話題を提供できるか?
                           吉川 厚(NTT基礎研究所)
    
    概要
    ゲームを題材につかった心理学的・認知学的な研究は多い。その理由は、ゲー
    ムという世界が決してトイプロブレムではなく、人間の日常的な行為を探る上
    でも十分に役立つという認識があるからである。今回の発表では、ゲームを題
    材に使ってきた研究を概観し、そのなかでゲームのどの側面が主に研究の対象
    となってきたかを、その時の心理学や認知科学の話題とともに見直してみる。
    また、研究材料としてゲームがなぜ扱われてきたのかについても考察し、実験
    材料としてのゲームの利点や欠点について述べる。さらに、これから考えられ
    るゲームを使った研究テーマをいくつか提案する。
    
  4. 11:30ー12:30 昼休み
  5. 12:30ー13:00 総会
  6. 13:10ー13:50 Cognitive aging: expertise development in Go and fluid intelligence
                             益永 浩美(南カリフォルニア大学)
    
    概要
    結晶性知能は加齢につれて上昇又は維持されるものの、論理を司る流動性知能
    は成人期を通じて下降する。流動性知能諸能力の年齢に伴う低下を説明する主
    要な理論のひとつに「不使用論」がある。これによれば、「高齢層は若年層と
    比べて流動性知能諸能力を日常的に利用し練習する頻度が低いため、これらの
    能力が加齢につれて低下する」。本研究は、「(囲碁の練習に見られるように)
    流動性知能が日常的に使用された場合、この能力は高齢期に至るまで維持され
    るものか」という問いを柱に据えて実施された。
    
    流動性知能の加齢低下の一部は、短期記憶、処理速度、注意の年齢低下を元に
    説明される。これを受けて、本研究では、初心者からプロ棋士までを網羅する
    263名の男性囲碁愛好者(15歳ー83歳)を対象に、囲碁に直接関連する
    分野と関連しない分野の両分野において、短期記憶、処理速度、注意、流動性
    知能の各変数について分野間相当問題を用いて測定を行なった。この結果、囲
    碁のexpertiseの高まりは、囲碁分野内の各変数の高得点と有意に相関すること
    が判明したのみならず、囲碁分野内テストでは、高齢グループ(61歳ー70
    歳)の高段者層は、同棋力の若年者より低得点を示すものの、若年グループ
    (31歳ー40歳)の初心者層と比較された際には、尚、高得点を示した。こ
    こに、仮説の一部が支持される。
    
  7. 13:50ー14:30 シミュレーションを使った研究にはゲームがよい
                        小島 琢矢(東京大学)・吉川 厚(NTT 基礎研究所)・
                        植田 一博(東京大学)・永野 三郎(東京大学)
    
    概要
    認知科学的な手法の一つにモデルを構築しシミュレーションを行なう、という
    ものがあるが、現実の問題であるとシミュレーションを行なうのが難しく、最
    近、特に日本ではこのタイプの研究が減ったと思われる。しかし、ゲームは、
    複雑な問題であるにも関わらず、形式的に決まっているのでモデルを構築しや
    すく、このタイプの研究が行ないやすい。つまり、ゲームを題材として用いる
    ことで、人工知能を、認知科学の道具として用いることが出来るのである。
    
    ここでは囲碁を題材に、人間が詰碁を解くときに用いる知識が棋力によってど
    のように異なるかを示す。新しく提案された進化的アルゴリズムを用いて、
    「盤面の石の配列のみを用いて詰碁を解く」モデルを構築する。このモデルの
    挙動と被験者(アマチュア2級〜六段)が詰碁を回答した結果とを比較すること
    で、被験者が実際に詰碁を回答する時にどのような知識を用いているのか、ま
    た、棋力によってその知識がことなるかどうかを調べる。
    
  8. 14:40ー15:20 将棋の感想戦にみられる共同学習について
                                伊藤 毅志(電通大)
    概要
     将棋や囲碁では、対局後「感想戦」を行うことが一つの習慣になっている。「感想戦
    」とは、対局後、対局者同士(または、観戦者も入って)がその対局を振り返り、局面
    を検討したり、評価を論じあうものであり、経験的に対局者の学習に効果があることが
    専門家(棋士)によっても指摘されている。
     本研究では、将棋の感想戦を一種の共同学習の場と考えて、対局者が感想戦において
    、どのようなことを話し合っているのかを発話プロトコル法で分析し、学習者の認知モ
    デルの構築を目指す。
     実験としては、初級者の対局者にコンピュータと対局させ、対局を観戦させた観戦者
    とともに対局後、感想戦を行わせた。実験条件は、観戦者が「上級者」の場合と「同レ
    ベルの初級者」の場合で、学習態度がどう違うかを調べた。その結果、協調者のレベル
    に応じて、学習者は大きく学習態度を変容させていること、協調者の発言に対して、非
    常に大きなバイアスをかけていることなどが分かってきた。また、学習者自身の評価や
    読みが協調者のそれと違うときに議論が白熱し、考えを変更しやすいことなどが分かっ
    た。
     これらの知見をもとに、将来的には、将棋ソフトに「感想戦」機能を持たせたものを
    提案し構築していきたい。
    
  9. 15:20ー16:00 プロ棋士の思考法について(仮題)
                            島 朗(将棋プロ棋士8段)
    
    概要(仮)
       第一線の将棋プロ棋士としての立場から、対局中どのように思考している
    か、子供のときからどのような学習を行なってきたか、現在どのような学習を
    行なっているか、指し手の決定に対局相手の個性がどの程度影響を与えている
    か、などについて述べる。
    
  10. 16:00ー17:00 パネル討論(話者の全員+フロア)