科学博物館はどのように利用されるのか
仙台市科学館入館者観察行動調査報告
石黒広昭(北海道大学大学院 教育学研究科)
岩館美枝(青森県)
児玉奈美(仙台市こども宇宙館)
要旨
 この報告書は1996年度に宮城教育大学科学館プロジェクト'96(代表:石黒広昭)が仙台市科学館の協力により行った調査の報告である。既に、1997年3月31日に調査報告書として私的にまとめられたが、その後博物館関係者からの資料請求があることから、今回、若干の修正を行い、日本認知科学会のテクニカルレポートとして公的に刊行することとした。
 調査フイールドは仙台市科学館内の自然系フロアと理工系フロアである。調査目的は来館者がどのようにフロア内の展示装置を利用しているのか明らかにすることである。そのため、来館者の各装置に対する観覧動線調査とフロア定点調査を行った。動線調査とはフロア入り口から、調査者が観覧者の行動を追跡し、フロア内の動きと各展示物に対する利用(滞留)時間を明らかにするものである。動線調査は全部で118ケースの観覧者グループ(個人を含む)に対して行われ、フロアにおける利用頻度の高いバス(通路)が明らかにされた。しかし、その数は限られた事例でしかない。そこで、開館時間中利用の多い時間帯である10:30から15:00の問に30分間隔でフロア内の全観覧者の位置と行動を記録する定点調査を行い、全体の動向を捉えた。結果は動線調査、定点調査別に詳細に示された。そこから、来館者にはどのような展示装置が人気があるのか、来館者はどのようなフロア・バスを使うのかが明らかにされた。本調査は一科学館の調査であるが、そこから博物館展示一般に関わる問題の一部が明らかになった。それらは、(1)個々の展示装置はフロアの配置デザインによってその特徴を変える、(2)観覧行動調査には観覧者、展示装置のHDI(Human-Device-Interaction)の分析が必要である、(3)展示装置の先には何があるのか?:事実に基づいていること(factualness)と現実性があること(reality)、としてまとめられた。手で触れて楽しみながら学ぶというハンズオン型の博物館が増えている今、本調査は学びのミュージアムデザインに向けた今後の検討課題を提案している。
請求先
石黒広昭(ishiguro@edu.hokudai.ac.jp) 北海道大学大学院教育学研究科
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