(1) | まず、棋士の記憶のなかには、着手の「価値」が単純な辞書のような形で把持されている。辞書の単位は、せいぜい3手一組か5手一組くらいの長さである(飛車を打ち下ろされたのに対して金底の歩を打つ、24、25に継ぎ歩をする、歩を手持ちにした筋の7段目に歩を打つなど、多くのものは記憶によっていいか悪いか判断される)。本稿ではこれを「着手の評価」という。 |
(2) | 棋士の記憶のなかには、序盤の分かれの局面で形勢互角の局面、やや悪い局面、ややよい局面が(数は多いものの)有限個数記憶されている。 |
(3) | 棋士は、所与の局面に近い局面で形勢が既知のものを選び、そこから先手後手の手の交換によって、現在の局面に至る道程を割り出し、その道程の着手の経緯を(1)の辞書によって評価して形勢判断をしている。これを複数の近似局面、複数道程について行うことがある。 |
(4) | 中盤の最後では、双方が独立に敵玉に(比較的平凡な手順で)まっしぐらに迫った場合に、どちらが先に敵玉を詰めるかを計算することを複数手順繰り返した場合の勝敗判断を基準にし、そこに至る着手の価値を(1)の辞書によって減算し、現在の局面の判断をしている場合がある。 |
(5) | 上の(3)も(4)も有効に用い得ない局面が若干存在する。それは複数道程による(3)の判断、複数道程による(4)の判断結果の一致度が低い場合である。そのような場合、現在用いられている静的評価関数に近い判断システムが用いられる可能性があるが、そのような場合でも、いくつかの特徴抽出的な判断基準が存在する(歩切れなら悪いなど)。 |